キス

「ん……ちゅ……」


 有栖は貴音の頬にキスをする。

 エリーは昼ご飯を食べた後に帰ったために今は二人きりだ。

 頬にとはいえキスをするまで進展したために、二人きりでたくさんイチャイチャしてほしいと思ったのだろう。

 実際にエリーが帰ってから有栖は貴音にキスをしまくっている。


「キスしすぎじゃないか?」

「いいじゃないですか」


 貴音にとって有栖にキスされるのは嫌ではない。むしろ嬉しいと言ってもいいだろう。

 有栖は先ほどエリーがキスしたところにしまくっていて、まるで上書きしているかのようだ。


「兄さんもキスしていいんですよ?」


 上目遣いで貴音のことを見つめてきたので思わず顔を赤くしてしまう。

 エリーがいた時は顔に出さないようにしてきたが、有栖に見つめられたりするとやっぱり貴音は恥ずかしい。


「してほしい?」

「もちろんです。兄さんにキスされたら幸せすぎます」


 有栖は頬を貴音に向けた。

 恥ずかしいのか少し頬が赤くなっている有栖に、幸せすぎますなんて言われたら、貴音がしないわけがない。

 貴音はゆっくりと有栖の頬にキスをした。

 軽く触れる程度のキスだったが、それでも有栖には嬉しすぎるようで、「えへへ」とニヤけが止まらない。

 今は頬にキス止まりだけど、次は口に……そしていずれは初めてを貴音に貰ってほしいと有栖は思っている。

 そうすればいくら妹だからって思っていても付き合ってくれるだろう。

 有栖から誘惑をかければ普通なら理性が崩壊してもおかしくはないが、貴音の場合は妹だからと理由で絶対に一線を越えることはない。

 でも、貴音は有栖のことが好きなのだから、慌てずにゆっくりと付き合いたいと思うまでデートなんかをしていけばいい。


「兄さん、いつでもキスしてもいいですからね」

「え? うん」

「私もしたくなったらしますから。ちゅ……」


 有栖はいつでもキスをしたいと思っているようだ。というよりキスにハマってしまったのかもしれない。


「兄さん、どうやったらキスって止めれるのでしょう?」

「それはわからないよ」


 完全にキスにハマっている。

 キスは愛情表現の一種。それを止めることができないってことは、有栖の愛は相当なのだろう。

 これから毎日キスの嵐になるということが簡単に想像できる。


「キスってそんなにいい?」

「はい」


 笑顔で答えてまたキスを再開する有栖。

 今の有栖の頭には貴音とキスしたいということしか考えていないかと思うほど夢中になっている。


☆ ☆ ☆


「ごめんなさい。しすぎました」


 ずっとキスをしていたらもう日が暮れてしまった。

 いつもならご飯を食べている時間だが、今日の昼ご飯が遅かったために日が暮れても気づかなかったのかもしれない。


「気にしてないけど、夜ご飯はどうする?」

「今から作りますよ」


 遅い時間にはなるけど、二人はまだ空腹を感じていないために問題はないだろう。


「今日はカップ麺でもいいんじゃない?」

「いえ、作ります。カップ麺では口移しで食べさせるの難しいですから」


 そんな理由なのか? と思ったが、有栖が作りたいって言っているし、料理は美味しいから止める理由はない。

 今日の晩ご飯は口移しで食べることが決定した瞬間であった。


 二人のお腹が空いていないということで、晩ご飯は野菜が多い。

 明らかにこれで口移しをするかのようにキュウリや大根がスティック状に切られている。


「これでいっぱい口移しで食べることができますね」

「まさかと思うけど、この切られた野菜の数だけするの?」

「もちろんですよ」


 スティック状に切られた野菜だけで十本以上ある。

 少なくとも十回は口移しをするということだ。


「では、早速しましょう」


 有栖はキュウリを咥えて貴音の口元に顔を近づける。

 口移しをしたいと言ってもやっぱり恥ずかしいようで、貴音がキュウリを咥えるとすぐに有栖は離してしまう。


「次は兄さんからお願いします」

「うん」


 交互に口移しで野菜を食べさせあっていく。

 少しして慣れてきたためか有栖が大胆な行動を取る。

 キスしたい気持ちが抑えきれなくなったのか、食べてもらう時にそのまま自分の唇を貴音の唇に重ねた。

 驚いて離れようとする貴音だったが、有栖にガッチリと頭を抑えられて離れることができない。


「有栖?」

「えへへ。兄さんの初めてのキス貰っちゃいました」


 たった数秒のキスではあったが、二人の心臓は張り裂けそうなくらい鼓動が早くて顔も真っ赤だ。

 お互いに初めてのキスなのだから恥ずかしくて当たり前だろう。


「やっぱりキスっていいですね」

「俺は驚きすぎて良くわからなかった」

「じゃあ、もう一回しましょう」


 有無も言わさず有栖はもう一度キスをする。

 ここまでされたらいくら貴音でもわかった。有栖はブラコンを通り越して自分のことが好きだということに。

 そしてその原因が自分にあるということも。

 貴音が有栖のことを抱き枕代わりにして寝なかったら、有栖はブラコンのままで貴音のことを異性として意識することはなかっただろう。

 でも、有栖は貴音のことが好きになってしまった。

 だから貴音は有栖のことを抱き締めて、有栖の全てを受け入れることにした。

 もし、恋人同士になり有栖が苛められたら、自分が有栖を守り抜く。

 二人はキスしながらこう思った。


──大好き──

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