作戦以上のこと

「昼ご飯遅れてすいません」

「大丈夫だよ」


 有栖はエリーと作戦会議をしていて、貴音は可憐と長電話をしていたから昼ご飯の時間が十五時を過ぎてしまった。


「私の分までありがとうございます」


 有栖の作戦を一緒に考えてくれたということで、エリーの分の昼ご飯もある。

 時間がなかったから簡単な物だかりだが、有栖の料理の腕を考えたらどれも美味しそうだ。

 皆、お腹が空いているためか、早速食べ始める。


「これは……美味しすぎますね。完璧に見えて実は家事が出来ないという妹ではなかったようですね」


 お腹が空いているからだけで美味しく感じるだけでなく、有栖が作るご飯は本当に美味しい。

 だからエリーは素直な感想が口から漏れた。


「確かに完璧に見えて家事が全く出来ない妹がヒロインのアニメがあるけど、有栖は何もかも完璧だ」

「兄さん……」


 貴音に褒められて有栖の頬が赤くなる。

 もちろん有栖は貴音の隣に座っているので、自分の頭を貴音の肩に置く。


「ふふ、これだけでお腹いっぱいになってしまいますね」


 自然にイチャつく二人を見てエリーは満腹状態。

 さらには直接砂糖を口の中に入れられたような気分になった。


「お腹いっぱいならおかず貰っていい?」

「兄さん、そういう意味ではないと思いますけど」

「お兄ちゃんは面白いですね」


 貴音は意味がわからなくてよくわからないといった顔、有栖は少し呆れている顔、エリーは面白がっている顔と、三者三様の顔をしている。


「おかずなら有栖さんが分けてくれると思いますよ。口移しで」

「なっ……エリーは何を言ってるんですか?」


 有栖は顔を真っ赤にさせた。

 作戦ではあーんってして食べさせることになっていたはずだが、口移しは難易度が高すぎる。

 最近はデレデレになっている有栖でも、口移しは恥ずかしすぎるのだ。


「有栖さんがしないのであれば、私がしちゃいますよ」


 エリーはそい言うと、おかずのウインナーを咥えてから貴音の隣まで来た。


「そ、そんなのダメに決まってるじゃないですか。私がします」


 エリーに対抗したのか有栖もウインナーを咥える。


「これを食べろと?」


 二人は咥えたまま頷く。

 恐らくどちらかのを食べろってことなのだろう。

 有栖に惚れる前の貴音だったら迷わずに有栖のを食べている。

 でも、今はそうはいかない。

 口移しで食べたりしたら、唇が触れてしまうかもしれない。

 それは有栖も思っているようで、貴音と目を合わすことができないようだ。

 でも、食べてほしいみたいで、チラチラと貴音を見てはいる。

 エリーはもちろん有栖さんのを食べてくれますよね? という視線を貴音に向ける。


「じゃあ、食べるね」


 貴音は有栖の方にゆっくりと近づいていく。

 そしてウインナーを咥えると、有栖の唇が自分の唇と触れるか触れないかくらいの距離になる。

 有栖は恥ずかしくなりすぎてウインナーを口から離す。

 それによりウインナーは貴音の口の中に入っていく。


「ふふ、今時の高校生がここまで初々しいなんて珍しいですね。アニメでもそうはありませんよ」

「うう~……」


 エリーの言葉で有栖は俯いてしまう。

 二人きりの時でも恥ずかしいと思う行為なのに、親友であるエリーが見ているのだから余計に恥ずかしい。


「じゃあ、もう一回しちゃってください」


 確実にエリーは二人を見て楽しんでいる。

 二人が恋人同士になってほしいという気持ちもあるが、見ていて面白いと思ってしまったのだろう。


「あ、すいません。次はお兄ちゃんから有栖さんに口移しでしたね。それとも何も咥えずに口移しですか?」


 それは口移しでなくてキスである。

 貴音は何も咥えず口移しというのがわかっていないといった顔をしているが、有栖はエリーが言っている意味がわかったようで、口をパクパクとされている。


「では、しちゃってください。はい、キースキースーキースキース」


 直接的な表現をされて貴音も気づいた。


「キスって恋人同士がする行為だよ」

「私が海外にいた頃は家族にも挨拶としてしてましたよ。今は一人で暮らしているのでしていませんが」


 エリーにとって家族にキスをするのは当たり前の行為である。


「ふむ。じゃあ、海外に行こう」

「はい?」


 貴音が唐突に言い出したので、エリーの頭にはてなマークが浮かんだ。


「海外で家族とキスするのが挨拶というのであれば、海外に行けば恥ずかしがらずにキスすることができる」


 だからって海外に行こうと言う貴音はエリーの考えの斜め上を行っている。

 貴音にとって家族とする行為は恥ずかしくない。

 海外ではキスするのが普通というのであれば、きっと恥ずかしくないと思ったのだろう。


「お兄ちゃんは面白いのですね。こんな風にするんですよ。ちゅ……」


 エリーは貴音の頬にキスをした。


「なっ……エリーは何をしているんですか?」

「何って言われましても……家族にするようなキスですよ」

「兄さんとエリーは家族じゃないですか」

「私はお兄ちゃんの妹ですよ」


 エリーは本当に当たり前のように言う。


「違います。兄さんの妹は私だけです」


 エリーには狙いがあった。

 先ほどの口移しは自分がしようとしたら、有栖は対抗してきた。

 だから貴音にキスをしたら有栖もすると思ったのだ。


「兄さんとイチャイチャしていいのは私だけです。ちゅ……」


 エリーの思った通り、有栖は顔を真っ赤にしながら貴音の頬にキスをした。

 本当は口にしてほしかったと思ったエリーだが、今の二人がそこまでできるはずもない。


「ふふ、今日のところはこんなものでしょうか」


 エリーは二人に聞こえないくらいの声で呟いた。

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