テスト勉強

「さあ、すぐにやりますよ」

「はい」


 七月になりもうすぐ期末テストということで、有栖は貴音に勉強を教えなくてはならない。

 有栖はテスト勉強しなくてもトップクラスの成績をとれるほど頭がいいが、貴音はテスト勉強しなければ赤点の可能性がある。

 だから有栖が勉強を教えて赤点を回避するのだ。


「赤点とったら容赦しませんからね。夏休みが補習で潰れてしまいますし」


 美浜学園は赤点をとると補習になってしまう。

 留年なんてもちろんしてほしくないし、補習になってしまったら一緒にいる時間が減るので絶対嫌だ。

 そのために有栖は毎回自分の勉強を削ってまで貴音に勉強を教える。

 貴音も有栖のためであれば驚異的な記憶力を発揮するので、有栖が勉強を教えれば赤点をとることはほとんどない。

 学校の勉強でも記憶力が発揮できればいいのだろうが、有栖がいないからせっかくの記憶力も半減してしまう。


「今の有栖の格好いい」

「ありがとうございます。でも、今は勉強に集中してくださいね」


 今の有栖は髪をポニーテール調に纏められており、伊達眼鏡をかけている。

 これでスーツなんて着ていたら美人教師のコスプレになりそうだけど、残念ながらいつもの部屋着だ。


「今回のテスト範囲を教えてください」

「ほい」


 貴音はテスト範囲を有栖に教えていく。

 有栖は一年生だが、二年生の授業内容くらいは簡単に理解できる。

 IQテストなどはしたことないが、有栖のIQは相当高いだろう。


「じゃあ、まずは英語からやっていきますよ」


 テスト範囲を聞いて瞬時に何からやっていくか決められ、勉強が開始される。


「まずは簡単な問題からやっていきますよ。Is this an eraser? これを日本語にしてください」

「えっと……これはアン・イレイサーさんですか?」

「……せめて中学一年レベルの問題くらいは解いてくださいよ」


 これくらいなら中学一年生でも解ける問題だ。

 貴音はこんな問題も解けないくらいポンコツだが、これから数日間有栖がつきっきりで教えることで、赤点をとらなくて済む程度にまでなる。


「今のを日本語に直すと、これは消しゴムですか? ですよ。eraserは消しゴムで、anは数えられる名詞……つまりはaと同じなのですが、名詞が母音で始まる時はanになります」


 有栖は呆れながらも説明をする。


「まさかと思いますが、an eraserを人の名前だと思ってませんよね?」

「そーだけど?」


 有栖は盛大なため息をついた。


「でも、これは消しゴムですか? て、実物見たらわかるよね」

「こんな問題すら解けなかった兄さんが言えることじゃないですけどね」


 再度、有栖はため息をつく。

 義理とはいえ兄妹なのだから、もう少ししっかりとしてほしいものだ。


「まずは復習からしていきましょうか」


 赤点をとらないための徹底的な勉強が始まった。

 有栖の教え方が上手いのと、一緒にいれる時間が減るのが嫌で、貴音は言われたことをどんどんと覚えていく。


「少し休憩しましょう」


 何時間も集中するのは無理なので、適度に休憩をいれる。


「お茶を入れてきますね」


 有栖は部屋を出てリビングに向かった。

 貴音は疲れたーと言いながらベッドに横になる。

 ここは有栖の部屋なので、枕についている有栖の匂いを無意識に嗅いでしまう。


「兄さん、何してるんですか?」


 冷たい麦茶を持ってきた有栖はジド目で言った。


「匂いを嗅いでいた」


 有栖は「そうですか」と言い、持ってきた麦茶を机の上に置く。

 喉が乾いていたのかその麦茶を一気に飲み干す貴音。


「兄さん、匂いを嗅ぎたくなったら、直接私から嗅いでいいんですよ」


 貴音に抱きつき上目遣いで甘えた声を出す有栖。

 そんなことを言われたからか、貴音は有栖の首の匂いを嗅ぐ。


「いい匂い」

「ありがとうございます」


 以前なら匂いを嗅がれたら恥ずかしかったが、今は嗅いでほしいようだ。

 もちろん恥ずかしい気持ちはあるけど、これでもっと好きになってくれるのであれば……なんて思ったら嗅いでいいなんて言ってしまった。


「有栖も嗅ぐ?」

「はい」


 有栖は貴音の匂いが好きなので、有栖も首筋の匂いを嗅ぐ。


「兄さん……」


 匂いを嗅いだことにより、有栖は蕩けた顔になる。

 それは貴音も同様で、自然と二人の唇が重なっていく。

 キスにハマってしまっているために一度してしまうと、止めるタイミングがわからなくなってしまう。

 だからご飯の時間までキスは続いた。

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