貴音と有栖は二日間連続でサボるようなことはしないようで、今日は学校に向かっている。


「なんか今日は近くない?」

「気のせいじゃないですか?」


 いつも二人で登校するとはいつも通りだが、今日は二人の距離が近い。

 家では良くくっついているが、外ではあんまりくっつくことはない。

 でも、有栖がブラコン宣言したためなのか、二人の密着度が増している。

 手を繋いだり腕を絡めているわけではないのだが、とにかく距離が近い。

 今までの有栖は暑いからと言って少し距離を取っていたけど、その理由は単なる照れ隠しだったようだ。


「ここまで近いと抱きつきたくなる」

「それはダメです。あくまで私たちは兄妹ですから」


 あくまで二人は兄妹。

 外でくっつくのはあまりよろしくないと、有栖は思っている。


「家ではべったりになったのに?」

「それは周囲の目がないですから」


 周囲の目がなければ今すぐにでも抱きつきたいと思っている有栖だが、周囲の目があればそれもできない。


「まあ、とりあえず学校に行くか」

「はい」


 学校に着いたので貴音は有栖と別れて、教室に入る。

 教室には既にクラスメイトが揃っていて、貴音が教室に入った瞬間に、クラスメイトのほとんどが貴音に視線を向けた。

 男子からは殺気のこもった視線、女子からは頬を赤くして何かに気になっている視線だ。


「貴音って白河可憐と付き合っているのか?」

「は?」


 貴音が席に座った途端に、クラスメイトの一馬が話しかけてきた。

 でも、貴音は可憐と付き合っているわけではないので、その言葉に驚いてしまう。


「付き合ってないぞ」


 貴音はすぐに否定をする。


「でも、一緒にお弁当を食べたんだろ?」

「そうだけど、一緒に食べただけで付き合っているというのは……」

「そうかもしれないが、白河がお前に食べさせたって噂ではなっているぞ」


 貴音は一馬の言葉で一昨日のことを思い出す。

 確かに貴音は可憐のお弁当を食べさせてもらった。

 人が少ない中庭とはいえ、見ていた人もいたので、それが噂となって広まったのだろう。


「確かに食べさせてもらったな」


 貴音の言葉により、男子からはさらに殺気がこもった視線、女子からは黄色い声が上がった。


「だからだろ。白河は今までそんなことをしなかったわけだから、付き合っているという噂が出ても不思議じゃない」


 普通の生徒であれば些細な噂かもしれないが、可憐は学園のアイドルとまで言われているほどに有名だ。

 誰かと付き合っているなんて噂が流れたら、すぐに広まってしまう。


「でも、付き合っているわけではないぞ。そんなことをしたら有栖といれる時間が減るじゃないか」

「そ、そうだな」


 貴音にとって学園のアイドルより妹。

 そんなことはクラスメイトもわかりきっているので、殺気が少しばかり減った。

 でも、一緒にご飯を食べたというのが羨ましいと思われているようで、やはり貴音に向けている殺気がなくなることはない。


「チャットか」


 貴音のスマホに誰かからのチャットが届く。

 それを開いて見てみると、有栖から昼休みは絶対に来てくださいね、と書かれていた。

 どうやら他の学年でも噂になっているようで、有栖の耳にも入ったようだ。

 貴音は有栖に了解と返した後に、他の人にもチャットをした。


「それにしても高橋くんって本当に妹が好きなのね」


 さっきの会話を聞いていたのか、次は樹里が話しかけてきた。


「妹ークするか? 樹里樹里」

「樹里樹里?」


 いきなりあだ名で呼ばれたので、樹里は驚いて目を丸くする。


「ごめん。名字忘れたからあだ名つけてみた」


 本当に貴音は妹以外のことに関しては記憶力がない。

 この記憶力なのにどうやって高校に入れたかと言うと、有栖が関係している。

 有栖が応援してくれたから入学することができたし、高校に入ってからも留年したらしばらく口聞きませんと言われたから、テストでも赤点を取ることがない。


「普通に樹里でいいわよ。それと妹ークは絶対にしないから」


 前にいっぱい妹の良さを話されてうんざりしたのか、樹里はもうその話はしたくないと思っている。


「てか、前に名前忘れないって言ってなかったっけ?」

「え? あははは……」


 樹里と話した内容を思い出して貴音は苦笑いをした。


「こいつの頭は特殊だから気にするな」

「そうみたいね」


 一馬の言葉に樹里は頷く。


「有栖以外の人に褒められても嬉しくないぞ」

「どこに褒めた要素があるのか不思議なんだけど」


 本当に貴音の頭は不思議だと思った二人だった。

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