デート

「二人で遊園地行くの初めてですね」

「そうだな」


 貴音と有栖はもうすぐ日が沈みそうな時間帯に遊園地に訪れていた。

 本来ならもっと早い時間に来たかったのだが、有栖の身体の心配をしてこの時間からだ。

 基本的に服装には無頓着の貴音でも、今日は有栖とデートなので珍しくお洒落をしている。

 もちろん有栖もお洒落をしており、白色を基調としたワンピース。

 いつもならタイツをはいているのだが、デートということで生足。

 貴音にタイツははくように言われたのだが、有栖は断固として拒否をした。

 その理由は言わなくてもわかるだろう。

 今日は有栖にとって特別な意味があるからであり、このデートのことは一生忘れることの出来ない思い出になると思っているからだ。

 貴音と出かけたとこはあるが、今までは兄妹として。

 でも、今日は初めて兄妹としてでなく、一組の男女として遊園地に来ているのだから。


「何から乗りましょうか?」


 最愛の兄とのデートで嬉しいのだろう、有栖のテンションが高い。

 しかも遊園地で知り合いと遭遇する可能性が少ないから、指を絡めてしっかりと手を握っている。


「まずはコーヒーカップ辺りでいいんじゃないか?」

「そうですね。座りながらイチャイチャできますし」


 完全に兄妹の会話じゃなく、バカップルの会話。


「なんというか……みんな見てるな」


 ただでさえ可愛いのに白い髪と肌に赤い瞳、そんな有栖が目立たないわけもなく、すれ違う人たちは彼女のことを見てしまう。

 アニメの世界から来たようだ……と、貴音が絶賛するほどの容姿である有栖に、遊園地にいる男性たちは可愛いとか綺麗と思っているようだ。


「そうですね。私たちの仲の良さを見せつけましょう」


 貴音以外の人に興味がない有栖にとって、他の男性に自分を見てほしくない。

 学校では可憐という学園のアイドルがいるし、神秘的と思わせてあまり話しかけられることはないが、遊園地にはナンパされる可能性がある。

 だからナンパ野郎を諦めさせて、有栖は貴音から一切離れるつもりはない。


「そうだな。今日は沢山楽しもうか」

「はい」


 二人はコーヒーカップに乗るために歩き出した。


☆ ☆ ☆


「うえ……気持ち悪い」

「兄さんはアホですか? カップをあんなに回すからですよ」


 コーヒーカップに乗り終わった後、二人はベンチで休んでいた。

 有栖との初デートでテンションが上がったのと緊張を誤魔化すため、カップを高速で回してしまったのだ。

 その結果、貴音は酔ってきまい、ベンチでぐったりとしている。


「ほら、お茶を飲んで落ち着かせてください」


 有栖はペットボトルに入ったお茶を取り出して、貴音に渡そうとしたのだが……。


「口移しで飲ませて……」

「はあ?」


 貴音の言葉に有栖は驚いてしまう。

 家では口移しをしているが、ここは外……恥ずかしくて頬を少し赤く染めた。


「どうやら兄さんは酔って頭がおかしくなってしまったようですね。お酒を飲んで酔ったわけじゃないのですから、頭は正常でいて……普段の言動を見ると、いつも異常でしたね」


 ズバズバと有栖の言葉が貴音の胸に突き刺さる。

 基本的にデレッデレの状態ではあるのだが、辛辣なのは変わらない。


「うぅ……有栖が冷たい」

「兄さんが変なことを言うからです。口移しは家でいくらでもやってあげますから、今はこれで我慢してください」


 ペットボトルの蓋を開け、貴音に飲ませようとする有栖。

 口移しは諦めたのか、貴音はゆっくりとお茶を飲んでいく。


「よみがえる」


 ベンチで休んでお茶を飲んだらだいぶ楽になった。


「兄さん……」


 もう心配ないと思った有栖は、貴音に身体を預けるようにしてくっついた。

 甘えてくる有栖に貴音が我慢できるわけもなく、彼女の頭に手をやり自分の肩に頭を乗せさせる。

 完全に日が沈んだとはいえ、まだ親と一緒に子供もいる時間……それなのにイチャイチャしているのだから、二人にはもう周りが見えていないのだろう。

 お互いの背中に腕を回し、どんどんと密着する面積が増えていく。


「えへへ、兄さんとデートできて嬉しいです」

「俺も」


 本当に幸せそうにしている有栖。

 そんな有栖を見て貴音の頬が緩んでしまい、無意識の内に頭を撫でていた。

 完全にバカップルがイチャついているようにしか見えないからか、周りの人は「イチャつくなら二人きりになれる場所でやれ」みたいな視線を二人に向ける。

 有栖が貴音のことを兄さんと読んでいるが、兄妹のように育った幼馴染みが恋人同士になったと周りは思っているのだろう。

 遊園地は人気のあるデートスポットであるが、あそこまでイチャイチャするカップルはあまりいない。


「そろそろ他のアトラクションにも乗ろうか」

「そうですね。あまり時間もないですし」


 有栖は貴音の腕に抱きついて、他のアトラクションを楽しんだ。

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