妹の友達が来た理由

「だからずっと抱きしめられてたら動けないじゃないですか」


 貴音は何とか寝れたのだが、有栖が寝てから何時間もたってからだった。

 だからいつもより起きるのが遅くなりもう十時。

 有栖はいつものように朝に起きたのだが、貴音に抱きしめられていたから動けない。


「もう少ししたらエリーが来ますから、兄さんも起きて顔を洗ってください。だらしない兄さんを見せるわけにはいきませんから」


 家に来るのであれば貴音と顔を合わすことがあるかもしれない。

 いつまでも寝ぼけている兄を知り合いには見せたくないのだ。

 貴音はわかったと頷いてから部屋を出ていく。


☆ ☆ ☆


 しばらくしてエリーが家にやってきた。

 もちろんエリーが来るまで貴音に抱きついていた有栖だが、友達の前では抱きつくことはない。

 抱きつきたい気持ちはあるが、恥ずかしいのか無理なようだ。


「有栖さん、お兄様、本日はお招きいただき、ありがとうございます」


 エリーは丁寧に挨拶をした。

 それに釣られて二人もお辞儀をする。

 エリーの服は白いブラウスの上に黒いチェックのワンピースを着ている。

 お嬢様と感じられるような服だ。


「思ったんだけど、何でお兄様なんだ?」


 昨日はそこまで気にしていなかったが、エリーは貴音のことをお兄様と呼ぶ。


「有栖さんのお兄様だからお兄様なんですが……」


 そう呼ぶのが当たり前かのように言う。

 確かにゲームやアニメなんかで年下の幼馴染みは主人公のことをお兄さんとか呼んだりするが、エリーもその影響を受けているのだろうか。

 でも、エリーと貴音は幼馴染みですらないのだが。


「呼ぶならお兄様ではなくて、お兄ちゃんがいい。兄さんは有栖が呼んでるし、お兄ちゃんで」

「気にしてたとこはそこなんですか?」

「わかりました、お兄ちゃん」

「ええー?」


 貴音の提案をエリーはアッサリと受け入れた。

 そのことについて有栖は驚いている。

 いや、驚いたことより他に危惧していることが有栖にはある。

 有栖は貴音の妹。

 これは他の人がどんなに頑張ってもなることができないもの。

 貴音がシスコンである以上、他の人より絶対的に優位にたてる。

 でも、他の人がお兄ちゃんなんて呼んだらその優位が薄れてしまう気がした。


「というのは冗談で、普通に先輩とかじゃダメなのか?」

「ダメですね。ということなのでお兄ちゃんで決定いたします」


 貴音は面倒くさくなったのか、「どうでもいいや」と呟いてからリビングのソファーに腰かけた。


「何でエリーが兄さんの横に座ってるんですか?」


 エリーもソファーに座ったのだが、貴音の隣だ。

 そしてその距離が近い。


「お兄ちゃんの妹ですから」


 そんなことを笑顔で言うエリー。


「兄さんの妹は私だけです」


 有栖は嫉妬深いし独占欲が強い。

 だから貴音の横に女の子がいるというのが我慢ならない。

 人前であんまり貴音にくっつかない有栖だが、少し恥ずかしいのを我慢して貴音の膝の上に座った。

 そんな有栖が可愛すぎて貴音は有栖の頭を撫でる。

 撫でられた有栖はエリーに見られていることから頬を紅潮された。


「ふふ、有栖さんは可愛いですね」

「だよな」

「に、兄さん?」


 後ろから貴音に抱きつかれた有栖はさらに顔を赤くした。

 それと同時に有栖はニヤけてしまう。

 恥ずかしいさもあるが、それ以上に嬉しくてたまらない。

 もちろん貴音も顔を赤くしている。

 異性として意識しているんだから当たり前だ。

 エリーがいるからいつも通りにしているが、恥ずかしい気持ちはある。


「お二人とも初々しくていいですね」


 二人が赤くなっているのが可笑しいのか、クスクスと笑っているエリー。


「可笑しいですか?」

「ふふ、可笑しいですよ。恥ずかしがっているなら離れればいいではないですか」


 確かにそうだ。

 人前であんまりイチャつくカップル自体そこまでいないだろう。

 でも、有栖には恥ずかしくても貴音から離れたくない理由がある。


「エリーが兄さんの近くにいるからいけないのです」

「私のせいですか?」

「そうですよ。兄さんは誰にも渡しませんから」


 エリーはまた笑いながら有栖のことを本当に独占欲が強い人だと思った。

 お兄ちゃんって言って隣に座っただけでこんなになってしまうのだから、他の女性が貴音にくっついたらどうなってしまうのだろうか?

 試しにしてみたいと思ったが、今日はそのために来たのではない。

 エリーは二人を恋人同士にするための作戦を有栖と考えるために来たのだ。

 二人とも明らかにお互いを異性として意識しているのはエリーでもわかる。

 エリーは義理の兄妹が恋人同士になる話が好きだ。

 だから何としても二人をくっつけたい。

 でも、有栖から軽く話を聞いていて、今の貴音は有栖と恋人同士になるつもりはないようだ。

 この二人をくっつけるのは一筋縄ではいかない。

 これからの季節は海やプールといった定番のデートスポットがあるが、有栖の身体を考えてそこには行けない。

 テーマパークなど長時間外にいるデートもNGだ。

 だとしたら室内で楽しめるデート。

 カラオケ辺りが定番だと思うが、それだといつも家で一緒にいるし進展はないだろう。

 ラノベやアニメを見ると妹は最初からブラコン気味ではあるが、ツンデレが多くて今の二人みたいにあんまりくっつくことはない。

 それに海とかに行っているからそこで進展がある。

 それに比べて貴音と有栖はデートの場所は限られてしまうし、以前から貴音が過剰に接していたから普段からくっついている。

 貴音をその気にさせるのは相当難しい。

 だからこその作戦会議なのだ。


「と、とにかくエリーは兄さんにくっついたらダメですからね」

「わかってますよ。私は二人をくっつ……」

「あーあー」


 有栖は慌てながらエリーの口を手で抑える。


「私とエリーは部屋で話してきますから、兄さんは少しゆっくりとしててください」

「う、うん」


 有栖はエリーを連れて自分の部屋に向かった。

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