寝れない
「寝れない……」
「そうみたいですね」
貴音は有栖に抱きついてベッドにいるのだが、まだ寝ていない。
いつもなら抱きついた瞬間に寝てしまうけど、今日はどうゆうわけか寝ることができないようだ。
「兄さん、凄いドキドキしてます」
有栖は自分の耳を貴音の胸に当てて、その鼓動を感じとった。
貴音は有栖に抱きついてから緊張しているのか、今までにないくらい心臓がドキドキとしている。
その理由は簡単で、貴音が有栖のことを意識しているから。
そして有栖も貴音が意識してくれることが嬉しくて寝れない状態である。
「これは一緒に寝ない方がいいのでは?」
貴音は抱き枕があれば寝れる。
有栖に抱きついて寝れないのであれば、貴音は自分の部屋で寝ればいい。
「それはダメです」
貴音の提案は有栖に却下された。
どうやら有栖はたとえ寝れなくても貴音の側にいたいようだ。
「明日は休みなので、夜更かししても問題はありませんよ」
「そうだけど……」
一日寝なかっただけで貴音は微動だにしなくなってしまうので、あまり夜更かしはしたくない。
「有栖とこうしてたい気持ちもあるが、やっぱり寝たいんだけど」
「じゃあ、いつものように寝ればいいじゃないですか。昨日までは私を抱きしめて寝てたんですから」
それができるのであれば貴音はとっくに寝ているだろう。
でも、有栖のことを意識してしまってからは、有栖を見るだけでも顔を赤くしてしまう。
そんな貴音が有栖を抱きついたまま寝るのはかなり厳しいだろう。
今日が金曜日なので明日は学校が休みなのが幸いだ。
前みたいに寝ないで学校に行ったのであれば、また保健室まで連れて行かれてしまうのが想像できる。
「あ、明日は私の友達が家に来ますよ」
「な、それは男か?」
貴音にとっては有栖を男と近づけたくない。
異性と意識し始めてからは尚更だ。
「ブラコンな私が男の人を家に上げるわけないじゃないですか。女の人ですよ」
それを聞いて貴音は一安心する。
「でも、有栖が人を家に上げるって珍しいね」
「それは……私と兄さんをくっつけてくれるって言ってくれたから……」
有栖は顔を赤くしながら本当に小さい声で呟いた。
「何て?」
「い、いえ、何でもありませんよ」
有栖は家に人を呼ばないし休日もあまり友達と遊びに行けない。
身体も問題であんまり外に出れないっていうのもあるが、一番は貴音と二人きりでいたいから。
でも、明日は別だ。
「まあ、男じゃないならいいや」
貴男にとってはいい機会かもしれない。
有栖と一緒にいたい気持ちはあるが、友達といれば離れる時間ができる。
その時間でこの気持ちを落ち着かせることができるだろう。
「と、とにかく明日はくっつける時間が少なくなるので、今日は眠れなくても離しません」
有栖は「ぎゅー」って言いながら貴男の背中に腕を回した。
そんな有栖を見て貴音から離れるなんてできるわけもなく、頷く。
「ちなみに明日くる友達は兄さんの知ってる人ですよ。本道エリーって知ってますよね? 今日の昼休みに話したって聞きましたよ」
「あの金髪の人か」
「そうですね。エリーに惚れたりしたら承知しませんからね。肌も私と同じで白いですし、美人ですからね。金髪ではありますけど」
「え? 美人なの?」
貴音は有栖と一緒にいるし、学園のアイドルとご飯を食べたことあるくらいだ。
エリーは外国の血が混じっているのか大人っぽい。
かなりの美女ではあるが、貴男の好みのタイプとは違うのだろう。
だから貴音にとってエリーはアニメ好きな仲間としか思っていない。
「兄さんの感覚はやっぱり変ですね」
有栖はやれやれといった感じでため息をはいた。
「どこが変なの?」
「まずはシスコンだと自覚してないとこが変です。いい加減自覚し……やっぱりしなくていいです」
貴音がシスコンと自覚してしまったら自分のことを意識しなくなってしまうかもしれない。
それが嫌でシスコンと自覚してほしくないようだ。
朝のあれはテンパってただけであって自覚したわけではない。
「良くわからん」
「わからなくていいですよ」
はてなマークが浮かんでいる貴音を見て、有栖はくすくすと笑っている。
その有栖を見て貴音はさらにわからないといって顔をした。
「それで兄さんはどうしちゃったんですか? 何かあったんですか?」
貴音が有栖を意識していることは誰が見てもわかることだが、そうなった原因があるはずだ。
ある程度予想はついてあるが、きちんと理由を聞いておきたい。
「それは……」
「私がブラコンだってきちんと言ったんですから、私たちの間に隠し事はなしですよ」
有栖にそう言われたので、貴音は深呼吸をしてから答えることにした。
「その……有栖と付き合う夢を見たんだ」
「え……?」
有栖にとって思ってもいなかった言葉を貴音は口にした。
「しかも裸で抱き合っていたから意識しちゃって……」
貴音は顔を真っ赤にしている。
夢とはいえ妹を彼女にしてしまったし、そのことを有栖に言ったからだ。
「そうなんですね」
有栖は嬉しすぎてニヤけてしまう。
でも、やっぱり確認しておきたいことがある。
「兄さんは私と付き合いたいと思いますか?」
テンパっていたた貴音は朝に聞かれたことをほとんど覚えていないだろう。
だから改めて聞いてみたのだ。
「いや、思わない」
やっぱり貴音の答えは変わらない。
いくら貴音が恋と実感していても、妹と付き合うことはしない。
「そうですね。私たちは兄妹ですからね」
二人は兄妹という頑なな絆で繋がれているが、そのせいで今は邪魔になっている。
でも、貴音は兄妹でなかったら有栖のことを好きになっていないだろう。
だから有栖には複雑な気持ちになっている。
「でも、兄さんが付き合いたいって思ってくれたら私は……」
この先は言わなかった。
「ん?」
「な、なんでもありません。さっさと寝てください」
有栖は貴音から視線をそらした。
「寝れないから困ってる」
「なら、今日はずっと困っててください。私の気持ちに気づかない罰です」
有栖はそう言った後にからかうように舌を出した。
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