学園のアイドルと友達になりました

 次の日の朝らカーテンが締まっている隙間から朝日が入り込んできたのと、鳥の鳴き声から貴音は目を覚ました。

 時計を確認するといつも起きる時間だが、貴音はいつもとは違うことに気づく。


「ずっと抱きしめられていたら起きれないんですけど」


 有栖が貴音のことを睨んでいた。

 そういえば有栖を抱きしめながら寝たんだったと思い、貴音は謝ってベッドから起き上がる。


「兄さん、おはようございます」

「おはよう」


 お互いに挨拶をして準備をする。


「今日はパンだけなのか?」


 本日の朝食は食パンをトースターで焼いたのだけだった。


「兄さんが離してくれないから作ってる時間がなかったんですよ」


 いつもはパンの他にもハムや卵なんかを作ってくれるのだが、今日は貴音に抱きつかれて起きることができなかったためにパンだけに。


「なので今日の昼ご飯は食堂かコンビニで買うしかないですね」


 貴音は「そんな……」と、呟いて項垂れてしまう。


「落ち込まないでください。夜ご飯は頑張りますから」

「よし、今日も一日頑張ろう」

「現金な人ですね」


 パンだけなのですぐにご飯を食べ終わったので、それから学校に向かう。

 有栖が外に出る時は顔と手以外は露出がない。

 制服はスカートなので足の露出はタイツで防いでいる。

 流石に暑くなってきているので薄いタイツだが。


「有栖って吸血鬼みたいだよね」

「唐突に何ですか?」


 有栖の容姿は肌も髪も白いし、日の光をあんまり浴びないように肌を隠しているあたりが吸血鬼っぽいと思ったのだろう。

 貴音は銀髪のキャラがヒロインのアニメを見るので、もちろん銀髪吸血鬼が出てくるアニメを見る。

 でも有栖は吸血鬼ではないので日の光を浴びても死ぬことはないし、ニンニク料理も食べることができるのだが。


「何となく思っただけだよ。抱きついていい?」

「何となくで言わないでください。後、抱きつくのはダメです。ただでさえ暑いのですから」


 有栖が長袖を着ているのは日の光を浴びないためなだけであって、やはり暑くは感じている。

 暑がりでないのが唯一の救いだが、やはり自分も涼しい服を着たい。


「じゃあ、ギューってする」

「言い方変えてもすることは一緒ですよね」


 貴音に抱きつかれるのは昨日の出来事から嫌ではないが、今日も朝から暑いし汗をかいてしまっているので、匂いが気になって抱きつかれるのは抵抗がある。

 それに外で他の人がいるので抱きつかれたら恥ずかしくてさらに汗をかいてしまう。

 それもあり有栖は拒否したのだ。


「とりあえずコンビニで涼むか」

「そうですね」


 二人は学校の通り道にコンビニがあるので中に入ることにした。

 コンビニは冷房が効いているので、外に比べたら天国のように感じることだろう。


「まずは漫画雑誌を立ち読み」


 貴音は本が置いてあるコーナーに行こうとするが。


「そんな時間はありません」


 有栖に止められてしまう。

 貴音はそれでも行こうとするが、有栖により手首を捕まれてしまっているので行くことができない。


「ただでさえ混んでいるのですからすぐ買いますよ」


 朝の通勤、通学の時間なのでコンビニには朝食や昼食を買う人でいっぱいだ。

 レジにはかなりの人が並んでいてレジに着くだけでも結構時間がかかってしまいそうだ。


「おにぎりとお茶でも買うか」

「そうですね」


 二人はご飯と飲み物を買い、コンビニから出た。


 そんな様子を見ていた一人の少女がいる。


「たまたま見つけたからついていったけど、一緒にいた女の子は誰だろ? 学校で何度か見たことあるけど、名前まではわからないよ」


 二人を見ていたのは白河可憐だ。

 抱き枕代わりにされてから貴音のことが気になってしまい、つい後をつけてしまった。

 何で気になったからまだ自覚がなかったが、貴音が他の女の子と一緒にいたのを見ると少しだけ胸が痛くなった。



 学校に着いたので二人は別れて教室に向かう。

 今日は昨日みたいな眠気がないのと有栖を抱きながら寝れたためなのか、いつもよりハイテンションで挨拶をする貴音。


「今日はどうした?」


 一馬は貴音のテンションの高さに少し驚いたので、その理由を尋ねた。


「有栖が可愛すぎるから」

「まぁ、お前がテンション高くなるとしたらそれしかないよな」


 貴音は妹が出来てからはほとんど妹のことを考えて生きているといっても過言ではない。

 銀髪のアニメキャラが好きなのだって有栖が好きだからだ。


「白河さんどうしたの?」


 突然、教室内が騒がしくなる。

 このクラスに可憐が来たことによって、皆が声をあげたからだ。

 クラスの男子のほとんどが可憐のとこまで言って、自分のことをアピールしようと必死になっている。


「本当に人気なんだな」


 貴音も可憐が来たことに気づいて可憐の方を見る。

 既に男子に囲まれていて姿の確認はできないが、可憐が来たことは予想ができる。


「キミ達に興味ないからどいて」


 可憐は人混みの中を沿って貴音のとこまで来た。


「えっと、どうしたの?」

「キミにも興味ないよ」


 一馬が少し緊張しながら可憐に話しかけるが、バッサリと切ってしまう。

 そして可憐は貴音のことを見る。

 可憐に見られたことで貴音は昨日のことを思い出してしまう。


「昨日は本当にごめんね」


 貴音は改めて頭を下げて謝った。


「大丈夫だよ。貴音くんって律儀だね」


 可憐が男のことを名前で呼んだことにより、クラスメイトの主に男子から殺気の込められた視線が貴音に向けられる。


「それで何か用かな?」


 貴音にとって謝る機会が出来たので丁度良かったが、可憐が教室まで来たということは何か用事があるのだろう。


「うん。貴音くんとちゃんと友達になりたくて」


 少し緊張しているのか頬を赤らめている可憐。

 昨日から貴音のことが気になってしょうがないから、友達になって一緒にいれば何で気になるかわかるかと思ったからだ。


「友達に? 別にいいけど」

「本当? ありがとう」


 少し不安だった可憐だが、友達になれるので嬉しくて笑顔になる。


「じゃあ、チャットID交換しよ」


 可憐は水色の手帳型ケースのついたスマホを取り出した。

 そしてチャットアプリを起動してQRコードを画面に写し出す。

 貴音もチャットアプリを起動し、可憐のQRコードを読み込んで友達に追加をしてよろしくとメッセージを送った。

 可憐は可愛い動物のキャラがよろしくと言っているスタンプで返事をした。


「もうすぐホームルームが始まるから教室に戻るね。これから仲良くしてね」


 可憐はそう言い教室から出ていった。

 クラスメイト達は唖然としていたが、可憐が去ってから怒涛の勢いで貴音に近づいてきた。


「何でお前が白河さんと仲良くしてるの?」

「そうだ。お前には妹がいるだろ」


 貴音がシスコンなのはクラスメイトの皆が知っていることだが、可憐と交流があることは知らなかった。

 昨日初めて話したのだから知らなくて当然なのだが。


「昨日保健室にいたから話しただけなんだが」


 抱き枕代わりにしたことは流石に言わないが、この調子だと引き下がってくれないと思ったので保健室にいたことを話した。


「だから昨日の昼休みに白河のことを聞いたんだな?」


 一馬の質問に「そうだ」と答える貴音。

 貴音にとって可憐と仲良くなることはどうでもいいが、悪い人ではないと判断したから友達になっただけだ。

 必要以上に仲良くする気はない。


「羨ましい。俺も保健室に行ってくる」


 一人の男子がそんなことを言うと、他の人も俺もとか言い出して保健室に向かおうとする。


「いや、教室に戻るって言ってたんだから保健室にはいないだろ」


 貴音が冷静にツッコミを入れる。

 すると皆は動きを止めて、「じゃあ、どうやって仲良くすればいいんだー」と、泣き叫んでしまう。


「こいつらは何なの?」

「さあ? ただのアホだろ」


 クラスの男子が泣き叫ぶのはホームルームが始まるまで続き、担任に怒られたのは言うまでもなかった。

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