処分

「……お邪魔しまーす」


 可憐が貴音の家に恐る恐る入る。

 普通に招かれて入ったのだから堂々としていればいいが、異性の家に初めて来たせいで、緊張してしまい不審者のようだ。

 リビングに案内された可憐はソファーに腰かける。

 有栖がいるから貴音と二人きりじゃないものの、やっぱり恥ずかしさがあるようだ。


「粗茶ですがどうぞ」

「私が淹れたんですから、兄さんがそんなことを言わないでください」


 コップに冷たい麦茶を入れて持ってきたのは有栖。

 貴音がそんなことを言うもののではないだろう。


「あはは、ありがとう」


 外はだいぶ暑いために喉が乾いていた可憐は麦茶を飲んでいく。


「有栖、俺もお茶飲みたい」

「わかりました。では、自分で淹れて飲んでくださいね」


 いつもなら入れてくれるはずだが、今回は入れてくれない。

 告白の返事をさせるために呼ばせたとはいえ、やっぱり自分以外の女性が貴音と一緒にいるのは嬉しくないようだ。

 そのためについ貴音には冷たくあたってしまう。

 貴音に冷たくあたる有栖は見たことがないので、可憐は少し驚く。

 初めて有栖と話した時はブラコン宣言をしてきたけど、今は面白くなさそうな顔。

 それを見て私がいるからなあって思ったが、貴音と話したいので、口にしないことにした。

 もし言ってしまったら有栖が貴音にくっついてしまうかもしれないし、そうなってしまったら間違いなく嫉妬してしまう。

 自分もくっつければいいのけど、そこまでできる勇気がない。

 一度抱きしめてもらったことはあるが、それはほとんど事故のようなもの。

 貴音から抱きしめてもらえるのであれば抱きしめてほしいが、言ってもしてくれないだろう。


「貴音くんの部屋見てみたいな」


 好きな人の部屋がどんな風になっているのか気になったのか、可憐はそんなことを呟いた。


「それはダメです」

「何で有栖ちゃんが反対するのかな?」

「それは……」


 貴音の部屋には有栖の写真がいっぱい貼ってある。

 それを他の人に見られたりしたら、恥ずかしすぎるので絶対に嫌だ。

 もちろん自分以外の異性を入れたくないって気持ちもあるが。


「と、とにかくダメです。兄さんの部屋はいわゆるオタク部屋なので、白河先輩が見たら絶対にひきます」

「別に私は気にしないよ」


 貴音がアニメを好きだということで、部屋にアニメのグッズがあるだろうことは予想していた。

 だからそれくらいなら何の問題もない。


「ふむ……可憐に俺の部屋の素晴らしさを見せるのもいいかもしれないな」

「に、兄さん」


 有栖は若干涙目になっている。

 どうしても見られたくないのだろう。


「どうしてもと言うのであれば、今から兄さんの部屋を掃除してきますから、三十分ほどお待ちください」

「掃除?」

「はい。写真を全て燃やしてきます」


 告白の返事をするのであれば有栖がくることのない貴音の部屋でしてもらうのがいいだろう。

 入れるのは嫌だがせっかく来てもらったのだし、二人きりで話させてあげないと失礼かもしれない。

 でも、あの部屋に入れるためには少なくとも写真だけは処分しないとダメだ。


「え? 全部?」

「はい。どうせ全部スマホに保存されているのでしょう?」

「そうだけど……」

「じゃあ、問題ありませんね」


 貴音は燃やされたくないから首を横にふる。

 確かに写真は全部デジタル化されているが、毎日のように見てきたから思い入れがある。

 スマホで見るのと紙で見るのとでは違う。


「もう決定事項です。写真は後で印刷すれば済みますし」


 できるのであれば印刷はしてほしくない。

 見たいのであればいくらでも見れるのだから直接見てほしいという気持ちがある。

 だからこの機会を利用して全て処分してしまおうと思った。

 いくら貴音以外に見ることがないとはいえ、部屋中に写真があるだけでも恥ずかしい。


「お願いですから燃やすのだけは勘弁してください」

「ダメです」


 有栖は貴音の部屋に向かおうとする。

 それを止めようとする貴音だが、可憐によって阻止されてしまう。


「貴音くんの部屋見てみたいから有栖ちゃんの味方するね」


 可憐は貴音の手を握って離れられないようにした。

 それを見て若干嫉妬してしまった有栖だが、今は写真の処分を優先し、見ないふりしてそのまま貴音の部屋に向かう。

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