寂しい妹
有栖は昔虐められていた。
その理由は単純で容姿が他の人と違いすぎるからだ。
肌が白い人は他にもいたが、髪も白くて目が赤い人は他にはいなかった。
「肌も髪も白いのに目が赤いのは気持ち悪い」
こんな風に悪口を言われるのは当たり前で、他には靴や教科書を隠されたり水をかけられたりも日常茶飯事だった。
「何で私だけこんな見た目なんですか?」
自分を生んだ母を恨んだ。
こんな容姿のせいで虐められてしまうし、こんな風になるのであれば生んでほしくなった。そう思わずにはいられなない。
そんな中で有栖が虐められているのを兄である貴音が知る。
どうせ他の人のように見て見ぬふりでもするのかと思ったが貴音は違った。
有栖の虐めを止めさせてくれたのだ。そして有栖に向かってこう言ったのだ。
「有栖の髪も肌も瞳も綺麗だし、まるでアニメの世界から来たようだね」
その言葉で有栖は救われた。
虐めを止めさせてくれたし、初めて綺麗と言われたからだ。
この頃から貴音はアニメが好きで、特に可愛い女の子が出てくるアニメが好き。
なのでアニメの世界から来たようだとは、貴音にとって最大限の褒め言葉なのは有栖も知っている。
だからかそれから無意識の内に兄のことを追ってしまうし、頭の中も兄のことでいっぱいになってしまう。
貴音のことを好きになってしまったのだ。
好きと言っても異性としてではなく、あくまでも兄妹として。
その頃はブラコンなんて言葉は知らなかったが、この頃から有栖はブラコンになった。
そして貴音は有栖に綺麗と言ったことで今まで抑えていた感情が爆発したのか、過剰に接してくるように。
過剰すぎて少しウザいと思う気持ちもあったが、嬉しい気持ちの方が圧倒的に大きかった。
「もう抱き枕もあるしいつまでも有栖に迷惑をかけるわけにはいかないかな。好きな人もできたし」
「え?」
貴音の口からそんな言葉が出るとは思わずに有栖は驚いてしまう。
「そうだよね。もう妹からは卒業しなきゃ」
貴音の隣にいたのは学園のアイドルと言われるの白河可憐だ。
そして可憐は有栖に見せつけるかのように貴音に抱きつく。
「有栖に紹介するね。俺の彼女の可憐だよ」
「かの、じょ?」
何それ? 美味しいんでしょうか?
有栖が思ったことだった。いや、意味はわかるが無理矢理にでもわからないようにした。
今まで貴音は有栖以外の女の子には興味がなかったが、可憐のことだけはほんの少しだけ興味があった。
そこから可憐に惚れてしまったのだろうか?
「有栖も頑張って彼氏探しなね」
貴音は可憐と共に有栖から離れてどこかに行ってしまう。
「兄さん、待ってください」
その言葉は貴音に届かなくて止まってくれない。
言葉では無理なら行動で示すしかないと思った有栖は貴音の手を掴もうとするが、足が上手く動かずに転んでしまう。
立ち上がろうとしても起き上がれずに、手だけを伸ばしている状態だ。
「行かないでください」
必死に貴音に向かって言うが、見向きもしてくれない。
有栖は貴音が楽しそうにしている姿を見て、貴音の隣にいる可憐のことを嫉妬せずにはいられなかった。
「ずっと私の側にいてください」
有栖は布団から勢いよく起き上がる。
最初はわけがわからなかったが、今までのことが夢だったことだけはわかった。
夢だったことに一安心したと同時に有栖の瞳からは涙が溢れてきてしまう。
もし本当に貴音に彼女ができたら絶対に祝福することができないと思ったからだ。
隣を見ても最愛の兄はいない。
抱き枕を買ったことにより、もう有栖に抱きつく必要がないから自分の部屋で貴音は寝ている。
「兄さんはもう私に抱きついてくれないのでしょうか?」
抱き枕を買ってももしかしたら自分の部屋で寝てくれるかと少しだけ期待をしたが、来てくれなかった。
それは貴音にとって有栖より抱き枕の方が大事だということ。あくまで自分は抱き枕の代わり。
そう思うとさらに悲しくなり涙が溢れてくる。
「寂しい、です」
有栖はいつも使っている枕に抱きついた。
昨日までここで貴音も寝ていたので、少しだけだが貴音の匂いがついている。
だからこの枕を貴音と思って寝ることにしたのだ。
有栖は枕に抱きつきながら横になる。
目を閉じて寝ようとしたが、先ほどの夢の光景が映ってしまい寝ることができない。
時計で時刻を確認するとまだ夜中の三時で、普段であればまだ寝ている時間だ。
「このままだと私が寝不足になりそうですね」
有栖はそう呟くと部屋を出て、貴音がいる所に向かう。
貴音の部屋は鍵がかかっていないのですぐに入ることができた。
貴音は新しく買った抱き枕を抱きしめながら気持ち良く寝ている。
「次は私がこうしてもいいですよね?」
有栖はベッドに入り込んで貴音のことを抱きしめた。
抱きしめたことにより有栖は悲しかった気持ちが消えて笑顔になる。
抱き枕があるせいで少し狭いが、力一杯、貴音に抱きつく有栖。絶対に離さないといった想いを込めて。
「ずっと兄さんの側にいさせてください」
有栖は貴音の首筋にキスマークをつけて眠りについた。
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