風邪をひくと心細くなる

 土日が過ぎて月曜になったので、今日から学校が始まる。

 学生や土日が休みな社会人にとっては憂鬱な日であろう。

 これから五日も学校や会社に行かないといけないのだから。

 いつもなら貴音もそう思っているとこだが今日は違った。


「何で有栖が俺の部屋にいるのだろう?」


 貴音はいつも通りに抱き枕に抱きつきながら寝ていた。

 でも、今日は朝になったら隣に有栖がいるのだから驚いている。


「おーい、有栖」


 貴音が声をかけても返事がない。

 それどころか有栖の顔が赤く、息も少し荒い状態になっている。


「有栖?」


 いつもと違うのに気づいた貴音は、有栖のおでこに手を当てた。


「熱があるな」


 有栖のおでこはいつもより熱くなっていて、すぐに熱があることがわかった。

 貴音はリビングに置いてある体温計を持ってきて、それを有栖の脇に挟んで熱を測る。


「三八度五分か」


 体温計に表示されている有栖の体温だ。

 恐らく土曜に外に出た時に、誰かから菌やウイルスを貰ってしまったのだろう。


「兄、さん?」


 貴音が体温を測ったことで有栖は起きた。


「今日は学校休みね」

「ごめん、なさい」


 弱々しい声で有栖は謝る。

 普段は毒のある言葉を口にする有栖だが、今は弱った小動物みたいだ。

 でも、シスコンの貴音が風邪をひいている有栖を放っておくはずがない。


「今日は俺も休む」


 貴音は学校を休んで、有栖のことを付きっきりで看病をするつもりだ。


「ダメ、ですよ……兄さんは、元気なんですから、学校に行ってください……」

「有栖を一人にしておけない」


 もし家に親がいたら貴音は学校に行ったかもしれないが、今は旅行中なので家にはいない。

 有栖が風邪をひいたことを伝えれば帰ってくるだろうけど、それはしたくないと貴音は思っている。

 命に関わるのであれば別だけど、風邪なら死ぬことはないはずだ。

 それでも貴音が休みたいと思っているのは、有栖のことが心配だから。


「じゃあ、こうしましょう。私が病院に行ったら、兄さんは学校に行ってください……」


 それが妥当だと貴音は思い頷く。

 病院で診てもらえば安心はできる。


 学校には妹が熱を出したから病院に連れていってから向かうと伝えて、二人して病院に向かう。

 有栖は熱があるせいで歩くのもしんどそうにしている。

 貴音は有栖のことを支えながらゆっくりと歩いた。


 病院に着くと人はそれほどいない。

 風邪が流行る冬ではないからだろう。

 これなら待つ時間も少なくて済むので良かったと貴音は思う。


 少しして有栖が診察室に呼ばれた。

 最初は貴音も付いて行こうとしたが、有栖に止められてしまったので待合室で待つことにした。


「単なる風邪だよな」


 貴音は本当に妹のことになると過剰になってしまう。それが単なる風邪であったとしても。


「お待たせしました」


 有栖が診察室から出てきた。


「どうだった?」

「風邪ですよ」


 その言葉を聞いて貴音は一安心する。

 風邪であれば高校生の有栖なら薬を飲んで寝ていれば数日もあれば完全に治るだろう。


 薬局で処方された薬を貰い、二人は家に帰った。

 薬は食後に服用するようにと言われたとのことなので、これから有栖の胃に少しだけでも何か入れないといけない。

 でも熱が三八度を越えているためか、有栖は食欲がない。


「兄さんが、何か作ってくれたら、少しは食欲が出るかも、しれません」

「俺は料理作れないんだが?」

「それでも兄さんの手料理が、いいです」


 上目遣いで有栖にお願いされたら貴音は断れない。

 なので家にある物で何か作ることにした。


 貴音はエプロンをつけてキッチンに立っている。

 スマホでお粥のレシピを検索して、それを見ながら作っていく。


「できた」


 普段は料理をしない貴音だが、レシピを見ればある程度は作ることができる。


 早速できたお粥を有栖の部屋まで持っていく。


「食べれる?」

「はい。せっかく作ってくれたのですから食べます」


 有栖は貴音に手伝ってもらいながらベッドから起きる。

 自力で起き上がるのもしんどいことからまだ辛いことがわかる。


「はい、あーん」


 貴音は蓮華でお粥をすくって、自分の息でお粥を少し冷まして有栖の口元に持っていく。


「にい、さん?」


 風邪とは違う意味で有栖の頬が赤くなる。


「自分で食べるのしんどいでしょ? だから俺が食べさせる」

「うう~……わかりましたよ」


 有栖は恥ずかしがりながらもお粥を食べる。

 まだ少し熱かったようで口の中で冷ましてからゆっくりと飲み込む。


「はい、あーん」

「何でいちいちあーんって言うのですか?」


 これではまるで恋人同士のようだと有栖は思い、恥ずかしさが倍増していまう。


「口移しのが良かった?」

「ち、違いますよ」


 有栖は一瞬だけ口移しでもいいかと思ったが、お粥で口移しなんて食べにくい。

 それに口移しをして、貴音に風邪をうつしてしまったら悪いと思ったので拒否をした。


 お粥を何とか半分ほと食べれたので、貴音は有栖に薬飲ます。


「じゃあ、俺は学校に向かうね」

「待ってください」


 有栖は学校に向かおうとする貴音を手を掴んで止めた。


「どうした?」

「あのですね……私が寝るまで一緒にいてほしいです」


 有栖の口からそんなことを言われるとは思っていなかったために、貴音は驚いてしまう。


「風邪をひくと心細くなってしまいます。寝るまででいいので一緒にいてください」

「ああ、わかったよ」


 貴音は優しく有栖に言い、頭を撫でる。


「ありがとうございます」


 有栖は頭を撫でられて安心したのか、すぐに眠ってしまった。

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