女子会

「エリーは自然にこの家に来ますね」


 自称、貴音の妹であるエリーが高橋家にやってきた。

 

「いいではありませんか。お二人のイチャイチャが見れるのですから」


 全くよろしいことではない。

 今は可憐もいるのだし、エリーまで来たらイチャイチャする時間がなくなってしまう。

 追い返すと文句を言われそうなので、入れただけ。


「何でお兄ちゃんがいないんですか?」

「ややこしくなるから兄さんには部屋にいてもらってるんです」


 貴音は今頃、自室でアニメでも見ているだろう。

 よってリビングにいるのは有栖と可憐、エリーの三人だ。


「えっと……貴音くんにはまだ妹がいたの?」


 エリーが貴音のことをお兄ちゃんなんて呼んでいるから、可憐は不思議に思う。

 金髪に藍色の瞳、有栖のように白い肌……もしかしたら貴音がエリーのことを気に入って呼ばせている可能性がある。


「エリーは妹じゃありません。勝手にそう呼んでいるだけですから気にしないでください」


 有栖の言葉に可憐は「はあ……」と頷く。


「お兄ちゃんがそう呼んでほしいって最初に言ったから呼んでるんですよ」

「え? 貴音くんが? 年下なら誰でも妹にしたがるの?」

「そんなわけないじゃないですか。兄さんの妹は私だけです」


 恋人同士であるが、有栖は兄妹という立場を他の人に渡すつもりはない。

 むしろ貴音の妹になったからこそ、今こうして彼女になることができたのだから。


「有栖さんは本当に独占欲が強いのですね。初体験の時は呼んでくれませんでしたし」

「呼ぶわけないじゃないですか」

「うん。それは有栖ちゃんに全力で同意かな……」


 普通は二人きりの時にするもので、気軽に誰かを呼んだりするものではない。

 同じ女子だとしても、しているとこを見られるのにはかなり抵抗がある。


「もう初体験じゃないのですし、これからは見学できますか?」

「一生できませんよ」


 エリーの言葉に可憐は絶句してしまう。

 言動からして貴音のことを異性として好きでないことはわかるが、考え方が普通じゃない。


「えっと……エリーちゃんだっけ?」

「はい。あ、自己紹介が遅れて申し訳ありません。私は本堂エリーです。以後、お見知りおきを。白河先輩」


 スカートの裾を掴み、丁寧な自己紹介をする。


「私のこと知ってるんだ?」

「そりゃあもう。白河先輩は有名人ですから」


 学園のアイドルと言われる可憐を知らない人は美浜学園にはいないだろう。

 有栖やエリーももちろん有名ではあるが、可憐には敵わない。


「ここにいるってことは、白河先輩はお兄ちゃんのことが好きなんですか?」

「それは……うん」


 エリーの言葉に可憐は素直に首を縦に振る。

 もう有栖が知っていることだし、ここで嘘をついても仕方ない。


「寝取り展開は個人的には嫌いじゃないですが、私は兄妹のいちゃラブが好きです。なので、申し訳ありませんが白河先輩の応援はできません」

「兄妹の?」

「はい。兄妹物のアニメは日本の至高だと思っております。もっと妹がヒロインのアニメを放映してほしい」


 こんなことを大声で言うエリーを見て、可憐は苦笑してしまった。

 兄妹物のアニメが好きなのはおかしくはない。でも、その愛が貴音以上に思えるからだ。

 貴音はシスコンというより有栖コンで、他の人が妹だったらこうはならなかっただろう。

 だが、エリーは本当に兄妹物のアニメを愛している。

 もし、妹がいたとしたら溺愛していただろう。


「エリーの戯れ言は気にしないでください」

「あ、いつもこうなんだね……」


 再び苦笑いをする可憐。


「貴音くんに会いに来たのに、何だか女子会みたいになっちゃったね」

「女子会もいいではありませんか。有栖さんからお兄ちゃんとの初体験の話を聞きたいですし」

「私はあんまり聞きたくないかな……」


 好きな人が他の女の子とイチャイチャしていると聞いただけでも胸が締め付けられる痛みに襲われる。

 さっきは抱きしめることができて辛い気持ちが和らいだ可憐であるが、貴音自身は嬉しそうではなかった。

 もし、初体験の話なんて聞いたら、可憐はまた泣いてしまうだろう。


「そんな話は絶対にしません」


 何でしてくれないのですか? という視線を有栖に向け、エリーは頬を膨らませた。


「エリーは初体験の話とかしたいですか?」

「私はまだ未貫通なので、話せませんね」

「そんなことは聞いてませんよ」


 有栖はやれやれといった感じでため息をついた。

 親友とはいえ、初体験のことを話してくれなんて言われたら、億劫にはなってしまう。


「ねえ、今日はここに泊まってもいい?」

「……え?」


 可憐の言葉に有栖は驚く。


「だって二人は外にそんなに出ないでしょ? 今は夏休みだから、貴音くんにアタックするのは家でしかできないもん。お願いします」


 どうしても諦めきれない可憐は、頭を下げる。

 貴音が有栖と付き合ってしまった以上、自分からアタックするしか道はない。

 たとえ付き合える可能性がどんなに低いとしても……。


「いいですね。私も今日はここに泊まらせていただきたいです」

「本当に泊まるんですか?」


 二人は頷く。

 このまま断っても折れることがなさそうなので、有栖はため息をついて「わかりましたよ」と了承した。

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