第46話 裏奴隷商掃討作戦④

「お前たちも、マフィアとしてこの世界でやっていくなら、ギャンブルの勝敗でゴタゴタを起こしたのはまずかったな。もう二度とお前たちの関連するカジノに出入りするような客は現れない筈だ。そんな商売だからこそ失った信用は取り戻せない」

「何を寝ぼけた事言ってるんだ。俺達は最初から違法だと思って行動してるが、客どもはどうだ? 自分達が捕まる心配などこれっぽちも心配せずに遊んでる奴らばかりだ。俺達には会員証の名簿があるから、カジノに来ないならこれで脅して直接金を巻き上げるだけだ。店をやらなくていい分手間が省けてラッキーな位だ」


「ほーそんな考え方もあるんだな勉強になった。俺が5億1200万G分の勝ちを諦めたと思ってるのが残念なおつむだがな」

「誰から回収するつもりでいるんだ? ここにそんな金は無いし、払うつもりもない。さっき言ってた隷属契約だって、王都に認められた隷属師しか奴隷紋の書き換えなどできない。裁判抜きで隷属する事なんてできない事も知らないようじゃお前こそ頭悪いな」


「言いたいことはそれだけか? ここがワンハイ系列の店だってのはとっくに解ってるし、他の8件の店を全部叩き売れば5億G位にはなるだろう? まぁため込んだ金でワンハイが払うって言うなら、話を聞いてやるくらいしてやってもいいがな。それにお前らが違法奴隷の隷属紋を書き換える手段を持ってるくせに、なぜ俺が出来ないと思う? 」


 ギャラリーの冒険者たちはとても興味深そうに俺達を見ている。

「あいつらってさ、最近噂になってる『ライトニング』じゃねぇのか? ほらオメガランクの」


「そうだとしたら実力は帝並みって事か、でもこの建物手に入れてどうするつもりだ? あいつらが裏組織を牛耳るつもりなのか?」

「どうだろうな? 裏組織って結局は捕まれば終わりだし、オメガランクならカジノなんかやらなくても十分稼げるから意味無いだろ? 」



 好き勝手に言ってるな。

 まぁ俺には考えがあるさ。

 裏だから都合が悪いなら、表の商売にしたらいいだけだ。

 アビスフォレストに地球のラスベガスやマカオのような街を公的に作ればいい。ちゃんと税金を払う表の商売にしてやるさ。


 この建物たちは俺が活用してやるぜ。

 

「さぁどうする気だ? 俺に素直に5億1200万G払うのか組織ごと潰されるのかを、もう一度だけ選ばさせてやるぞ? ここの冒険者の皆さんが証人になってくれる筈だ」


「まだ言ってやがるのか馬鹿が、認める訳無いだろ。そいつらを潰してしまえ後ろの冒険者たちも協力すれば謝礼を払うぞ」


 オメガランクの冒険者でSSSランクのPTだと気づいてる冒険者たちは動く訳がない。


 襲い掛かって来たワンハイ勢力のマフィアの連中と店の従業員たちを、俺達は4人であっという間に叩き潰し、全員縛り上げた。


 バニーのお姉さんたちは、震えているだけだったから手を出していないからね?


「で、誰が誰をどうするって? 」


 俺はこのカジノのマスターとマフィアのリーダーを縛り上げたまま立たせて改めて聞いた。


「俺たちにこんな事をして、ボスのワンハイが黙って居る訳が無いだろ? 早く解き放たないとお前たちの関係者はとことん地獄を見る事になるぜ」

「やれるんならやればいいさ、お前等もまだ俺の実力を全然解ってない様だしな、まず隷属は国に認められた隷属師しか出来ないって言ってたな」


 そう言いながらマフィアのリーダの男に『お前は俺に対して嘘を付く事が出来ない、俺に対して逆らう事が出来ない』と言いながら隷属紋を刻み付けた。


 それからおもむろに「ワンハイは何処に居る?」と、尋ねた。

「そんな事言う訳ねぇ、ガ、ウァ、グゥガァアア、痛い、頭が割れそうだ」とその場に泡を吹きながら倒れた。

「もう一度聞く、ワンハイは何処だ」


「ボスは、ドーンの奴隷商の横の酒場の店だ……」

「最初から素直に吐けばいいものを、やはり馬鹿はお前だった様だな」


 それから、この店のマスターに店の権利証と会員名簿を出させた。


 もう何も言い返す気力もなく、顔色は蒼白だった。


「まぁ一応後でちゃんと王都の不動産屋に査定はさせるが、せいぜい1000万Gもしないだろうな、お前らを全員鉱山奴隷として一生放り込んでもせいぜい一人100万Gにもならないだろうな、まぁ取り敢えずそのまま転がっとけ、後はワンハイと交渉してから決めてやる。お嬢ちゃんたちはここで働いてたことが不運だと思ってもう少し拘束させてもらうぞ。冒険者さん達こいつらの見張りのバイトやらないか? 一晩で一人5万G出そう」


 その条件に、その場に居た10人程の冒険者はみんな飛びついた。

「お任せくださいオメガ」

「その名前は恥ずかしいから辞めてくれコウキでいい。トイレなんかは行かせてやってくれよ。逃がさないようにな」


 さて、思ったより時間食っちまったな。

 次はペスカトーレの後ろ盾の法衣伯爵の別荘に捕らわれてる奴隷の開放だったな。


 俺達は裏カジノを後にすると、黒ずくめの姿に着替えてハンクの案内で現場へと向かった。


「ぉ、こいつは堂々と憲兵たちに守らせてやがるぞ。中の奴隷達が居なかったら、ちょっと面倒な事になるな。ハンク、奴隷達が捕らわれている場所は解るか? 」

「確認してきます」

 と言って姿を消した。


 伯爵の別荘は20名程の憲兵隊に警戒をされていた。

「この法衣伯爵の担当する行政はなんだ?」

「はい、憲兵を統括する王都憲兵長官です」と、アランが答える。


「なんだこの国結構腐ってるな、警察の親分が裏奴隷商の元締めと繋がってるんじゃ、話にならないな」

「国外から攫って来た人属以外の奴隷のみを扱っていた事から、段々罪悪感が薄れていったんでしょうね、自分ではそんな事をやっていた癖に、ワンハイの勢力の摘発には尽力をして居たようですし、人属奴隷に対しては厳しく対応してるようです」


「んー差別主義なのか? 人属優先主義と言うのかな? まぁ、そんな理由は関係ないな。俺には人族も獣人族もエルフも同様に扱えない奴は許す気もない。元々の太郎の教えはどうだったんだろ? そこから捻じれてるならこの国を捨てるのも考えに入ってくるな」


 そんな話をしてると、ハンクが戻って来た。

「奴隷たちはそのまま地下に捉えられています」


「そうか、表を見回っている憲兵たちは、裏奴隷商との繋がりを解ってて警戒してるのか? それとも命令でしょうがなく見回りをやっているのかは解るか?」

「解りませんね」


「そうか、それなら取る手は一つだな、法衣伯爵を攫おう。俺が闇魔法で洗いざらい吐かせて、ハンクの得意な看板を括り付けた後で、王城前の一番大きな広場に放置しようぜ」


 そこで俺はアランとカイルに外の警戒を任せ、ハンクと二人で潜入し、素早く伯爵を気絶させて攫った。

 俺の王都拠点で闇魔法を使い、洗いざらいの情報をはかせた後で、内容を大きな看板に書き出して、再び転移して王城前の広場に看板と共に放置した。


 伯爵邸の警備に付いていた憲兵達にその情報が入り、憲兵達が王城へと去ったのを見計らって、今度は4人で潜入して捕らえられていた奴隷達を次々とフォレストゲートの村へと転移で移動させた。


 当然の様に美しい女性ばかりで、人属は一人もおらず、獣人族80人エルフ10人魔族10人の内訳だったが、全員隷属させられているので今の時点では尋問も出来ない。

 ユーリとサリナとジョアンナの三人に任せ、俺達は再び王都へと戻った。


 現時点で夜の2時になろうとしていた。

「みんな少し疲れただろうけど、ワンハイの方も今日で片を付けたい。司教までは今日は手が届かないかもしれないが、ワンハイを落としてしまえばいつでも対処は出来る。頼むぞ」

「了解しました」


 まだまだ王都の長い夜は続く。


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