第15話 盗賊のアジト

 3番目の宿場町まで進む予定だったが、総勢100名にも及ぶ盗賊団を壊滅させてしまうという、突発イベントが起こり、予定を早めて2番目の宿場町で、盗賊団を衛兵に引き渡し、そのまま今日は雇い主の商隊主の奢りで、宴会が行われることになった。


 商隊主のハッサンさんも奮発してくれてるようで、料理も酒も凄く豪勢な感じで並んでいる。


 一歩間違えば、盗賊団に殺されたり、奴隷にされたりしていても不思議はなかった。

 刹那の時間を思い切って楽しむのも、この世界では当たり前のことなのかな?


 俺は、商隊主のハッサンさんに呼ばれ、隣の席で相手をさせられていた。当たり障りのない会話で切り抜けたつもりだったが、一通りの会話を終了し、パーティメンバーの席に戻りますと、挨拶をすると、


 「コウキさん、もう十分に儲けさせて頂いてますから、あまり欲張るのも良くないとは思いますが、盗賊が貯め込んでいた宝物、当然あると思いませんか?深く追求は致しませんが、売りに出すような事があるんでしたら、是非私に一枚噛ませて下さいね」と耳元で囁かれた。


 流石は大商人だ、全てはお見通しって事だな。それでも敢えて俺は、サラッとやり過ごす。


「もし見つけられるようなことがあれば、是非ハッサンさんにお願いしますね、冒険者になりたての俺には、そんなものを捌ける当が無いですしね」


 そして、まだ他のPTの連中と商隊の人達は、ご馳走とお酒で楽しんでいたが、俺はアランとカイルを連れて、


「今日は少し疲れましたので、先に休ませて頂きます」と挨拶をして、宴会の席を立った。


 一度宿の部屋へ3人で入り、アランとカイルに、


「俺はこれから盗賊の本拠地でハンクと落ち合って、財宝の回収をしてくる。アランとカイルはここから動いてないことのアピールの為に、このまま部屋で休んでいてくれ、ついでに、一度屋敷に戻って様子を見てくるが、朝までには戻ってくるのでよろしく頼む」


 と伝えて、部屋から転移を使い、盗賊に襲われた地点まで移動した後で、地図に記されていた盗賊のアジトへ向かった。


 アジトに到着すると、ハンクがすぐに現れ、中へと案内してくれた。奥へ進むと金属製の檻が4つほど設置してあり、それぞれに5名の女性が囚われていた。


 俺の姿を見て盗賊の一味とは違う雰囲気を持つことに気づいた女性が、話しかけてきた。


「あの、貴方は盗賊ではないですよね?助けて下さい。囚われて奴隷として売り飛ばされてしまいそうなんです。ここに居る全員盗賊に攫われてしまったんです。お願いします助けて下さい」


 「盗賊たちは、既に全員捉えましたが、今は夜中です。今ここで開放しても、外には魔物も居ます明るくなるまでは、このまま待機されたほうが良いと思いますが、それでも外に出られますか?」


「せめて牢の外に、出して頂くわけには、行かないでしょうか?この中に居ると気が狂いそうになります」

 「解りました。もう少しだけお待ち下さい。まだこのアジトの中を確認出来ておりませんので、もしかしたら盗賊の残りが隠れているかも知れません。居ない事を確認次第牢屋からは、出して差し上げます」


 それだけ伝えて、ハンクと共に一番奥の部屋へ入っていき、貯め込まれた財宝や食料、酒等を片っ端からアイテムボックスへ放り込んだ。それが終わる頃に、ハンクが話しかけてきた。


 「コウキ様、恐らく彼女達はここが何処なのかは解っていない筈です。場所が解ってしまえば、奴隷として売られた後にでも、盗賊の本拠地を話す可能性があるからです」


「あぁそうだろうな、それが何か問題あるのか?」

 「彼女達をここから開放してしまえば、この場所が公になり、盗賊の財宝が何も残って無い事が、不自然ではありませんか?」


「確かにそうだな」

 「それなら、夜の内に何処か安全な場所へ転移で移動させてしまうのも、一つの手では無いでしょうか?」


「なる程な、だが彼女達も檻に閉じ込められて、汚れた姿のまま外に出る事を望むだろうか?」

 「今は解放されるなら、それくらいの羞恥には耐えれるでしょう」


「そうだな、ちょっとユーリに意見を聞いてみるか、男だけで話すよりも女性が居たほうが安心するだろうしな」

 「そうですね、依存はありません」


 俺は、その場から転移でユーリの居る方の屋敷に飛んだ。ユーリに事情を話すと、ユーリはすぐに屋敷にいる女性達に風呂の用意をさせた。


「今から20名程の囚われていた女性を連れてきます、あなた方と同じ様に辛い思いをしている筈ですので、世話をして上げて下さい」と伝え、俺とともに盗賊のアジトに転移した。


 女性達の居る牢の前で、ユーリに話し掛けさせた。


「これから貴女方を保護させて頂きます。このまま屋敷に転移で移動しますのでそこで、ゆっくりとお風呂に入り、身体を綺麗にして、辛い出来事を少しでも早く忘れて下さいね」


その言葉を聞いた女性達は、お互い抱き合って涙を流し喜んだ。


 それから、檻の鍵を壊し、檻一つ毎の女性達と屋敷に転移した。女性達との会話は、全てユーリに任せ、俺はそのまま、一度アジトへ戻って、ハンクへ労いの言葉をかけ、ハンクと共に2番目の宿場町に転移で移動した。


 なんだか忙しい一日だったな。ハンクと二人で少し街の酒場で酒を飲んだ後に、俺はアラン達の居る部屋へ転移した。アランが「お帰りなさいませ、首尾はいかがでしたか?」と聞いてきたので、


 「上々だったな」と答えて眠りについた。



 ◇◆◇◆ 


 一方、ユーリは新たに連れて来られた、20名の女性達に、暖かいお風呂と食事を用意して、精霊の加護の籠もった言葉で、コウキの素晴らしさを説いた。


 既に先に居た30名の女性達は当然のように、コウキを神のようにあがめており、その姿を見た20名もコウキに対して、信仰心を芽生えさせた。


 ◇◆◇◆ 


 商隊の責任者のハッサンは懐が潤ったこともあり、宴会が終わった後に、宿場街の売春宿で女性を抱きながら考えていた。


『恐らくコウキは、盗賊の貯め込んだ財宝も手に入れている筈だ。何とか手に入れたい所だが、彼らの実力を目の当たりにした上で、敵に回すような行動は、馬鹿のすることだな』と、一瞬思い浮かんだ悪巧みを、記憶の底へ消し去った。彼のこの決断が、その後のハッサン商会を国で一番の豪商へと成長させる転機となる。


 人の生涯の中では、その決断で人生を大きく左右する機会が何度か訪れるが、それを常に正しく判断することが出来る人間だけが、人生の勝者となって行く典型的な瞬間だった。


 ◇◆◇◆ 


 翌朝、昨日は早くから宴会に突入したために、行程としては遅れが出ているために、早目に出発をした。

今日は昨日と違って、大きな問題もなく昼前には3番目の宿場町に到着する。


 そこで商隊は、その街に下ろす荷物、仕入れる商品を取り揃え、手早く準備を行った。監督官のドイルに話を聞く、この3番目の宿場町までは、ファルム辺境伯の領土で、これから先のは、ゼスト侯爵領を進む事になるそうだ。


 この国の貴族制度は、かなり成熟しており、役割と爵位がきちんと体系付けられている事なども聞けた。

 

 ドイルは見た目は力だけが取り柄の戦士にしか見えないのに、実際は政治や、商業、農産物等にも造詣が深く話していて、勉強になる。


 まずこの国の貴族制度だが、俺の世界に置き換えて考えると、王族はそのまま王として存在しており、日本の皇族より、英国王室のような印象を受ける。


 次にあるのが大公家、公爵家でこれは王室の縁戚関係のある貴族家で、国の直轄地を所領として収める。運営自体は国の官僚が行うので、能力は重要視されず、お飾り的な貴族家である場合が多い。


以降は


 侯爵家・・・日本で言えば県知事に当たる。血統的にも伝統的な貴族家

 辺境伯家・・・国境沿いの地域を治める伯爵家で、軍事力も強力な伯爵家で、血統よりも能力で叙爵される。身分的には侯爵家と対等であり領土も県と同等となる


 伯爵家・・・侯爵家程の領土は持たないが中央政府と直接に予算などの、交渉ができる大都市の領主又は、中央政府の大臣クラスが法衣貴族として付ける爵位


 子爵家・・・侯爵家、伯爵家の血縁関係にある貴族家で、市長に当たる。


 男爵家・・・上位貴族家との関係は浅いが能力の高いものが任命される、市長に当たる。又は法位貴族として中央政府での各省庁で、局長級になると男爵位も与えられる。


 準男爵家・・・町長、村長に当たる貴族家、開発を進め一定数の住民を確保すれば、男爵となれる。


 子爵位以下の爵位では、基本伯爵位以上の爵位を持つ貴族の子飼いとして、伯爵位以上の領土の中の一部分を分割統治する事となる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る