第16話 護衛任務2日目

 3番目の宿場町を出立し、ゼスト侯爵領をハッサンの商隊が進む。この辺りは侯爵領と言えども、のどかな農村が拡がる地域だ。本日の目的地は、侯爵領に入ってから2番目の宿場町に当たる、ゼーレの街だ。この侯爵領の街の名は、すべて「ゼ」の文字から始まるということだ。


 そう言えばファルム辺境伯領の街は全て、「ファ」の文字から始まってたな。最初の宿場町から、


「ファミール」

「ファソラ」

「ファンダ」


の街名だった。


 既にゼスト侯爵領の最初の宿場町と成る、ゼクスの町は、街の中には入らずに迂回する形で通り過ぎた。

 この世界では魔物が普通に存在する世界なので、小さくても町は壁で囲まれており、その中を通るには検問を、通らなければ成らない為、用の無い町は立ち寄らずに迂回したほうが、早く抜けることが出来るという事だ。


 商隊の一行は基本的に昨日と同じ様に、6台の馬車に1人ずつ冒険者が乗り込み、4人が馬に騎乗して警戒をするスタイルだ。昨日と違うのは、『夜明けの明星』と『ユーキと愉快な仲間たち』のメンバーが主体で、警戒に当たる事となったので、俺と、カイルとアランは3人共馬車での移動となっている。


 俺は監督官のドイルと一緒に商隊主のハッサンさんの乗っている馬車での移動となっている。ハッサンさんの商会はファルムに本店があり、王都に支店を持つという事だ。この国の全ての貴族領に支店を出すことが当面の目標と語っていた。


 俺に対しても、何処の出身なのか?だとか、何処でそれだけの実力を身に付けたのか?だとかを聞かれたが、倭国の文化圏の出身で、幼い頃から修行をしていたと、適当に答えておいた。


 この2日目の行程は、大きな問題もなく途中でゴブリンやグレーウルフが数匹現れただけで、騎乗で移動している4人だけで対処できていた。今回の王都行きでは、ゼスト侯爵領を抜けると、山岳地帯に入り、そこでは飛竜やワイバーンが襲ってくる可能性も高いらしく、一番の難所だという事だった。


 飛竜には会ってみたいと思うが、商隊の護衛をしながら空からの攻撃を防ぐのは、難易度が高そうだな。


 夕方の6時ころには目的の、ゼーレの街に到着した。今日は昨日のような宴会もなく、明日は商隊はこの街で商売をする為に、丸一日の休暇に成ると言うことだ。


 通常冒険者の護衛業務は、あくまでも都市から都市の間の街道が任務地となり、町の中にいる間は、自由時間と成る。勿論街中での商売の護衛を頼まれる場合もあるが、それは契約時のオプション契約か、突発的に別料金での依頼となる。


 今回の場合は特別頼まれても無いために、明後日の朝9時の出発までは、時間が出来た。


 俺達は町に到着すると、一度宿にチェックインして、街を見て回った。この町は、周辺に森などもなく、魔物からの被害が少ない安全な街だということだ。


 周辺の農村からの野菜類が市場に豊富に並んでおり、肉類も魔物が少ないために、広く放牧が行われており、俺にも馴染みの深い牛や豚が主体の様である。


 一通り街を見て回った後に宿に戻り。宿の部屋から転移でカイルとと共に一度屋敷に戻った。今日はアランに宿での留守番を頼んだ。


 転移で屋敷に戻ると、カイルはジョアンナと自室に向かった。

 まぁ仲がよろしいことで何よりだな。


 俺はカオルに変わったことは無かったかの確認をした。すると


「今日はイザベラさんがお昼に見えていましたよ。一応気に掛けてくれてるみたいですね」

 「そうか、まぁ悪い奴では無いと思うから、顔を出したらお茶くらいは出してやってくれ」


「はい、かしこまりました。でもそのうち、奥様って呼ぶようになりそうな気がしますよ?」

 「あの性格が、ちょっと問題ありすぎだから、今の所は考えてないな」


カオルと話しているとフローラが顔を出してきて、

 「ご主人様、一通りの試作を終えて武器も防具も、本格的な生産に入りたいと思いますが、ミスリルとオリハルコンを仕入れていただいてもよろしいでしょうか?」

「どのくらいの量が必要なんだ?」

 「合金として使うので1kづつもあれば、十分です」


「そうか、明日にでもカオルと一緒にギルドに行って仕入れてきて構わない、ミチルという女の子に俺の家人であることを伝えれば、問題なく用意してくれるはずだ」

 「ありがとうございます」


 サリナがリビングに顔を出してきたが、随分体調も回復してきたようだ。心なしか顔もふっくらしてきたような気がする。

 「ご主人さま、お陰様で体調はもう普通に動ける程度には回復しました。これからは、ご主人さまのために、お役に立てるように、頑張りたいと思います」と力強く言ってきた。

「そうか、それなら当面は少し剣の素振りでも始めてもらって、空いた時間はカオルの手伝いを頼む」と伝えると、「かしこまりました」と明るく返事をしてくれた。


 次はユーリの居る方の屋敷だな。転移で屋敷の庭に移動すると、10名程の女性達が洗濯物の取り込みをしていた。51名もの女性が暮らしていると、洗濯物の数も凄くなるよな、と思いながらユーリを呼んでくれと声を掛けた。

 

 女性達は俺が突然現われた事に、びっくりしながらも「ご主人様こんばんは」と元気に挨拶をしてくれた。大分オークに攫われていた事に対してのショックも、薄らいできたようだ。


 女性達に呼ばれて、ユーリが外に出てきた。

「盗賊のアジトから連れてきた女性達の様子はどうだ?」と聞くと

 「彼女達も、今はご主人様の庇護下に入ることを望んでいますわ、理由は様々であったとしても、自分たちを盗賊に引き渡すことで生きながらえた、家や勤め先に戻りたくないと言う感情が強いようですね」


「そうかぁ決して残ることを無理強いはしないが、帰りたくない理由がはっきりしているなら、それもしょうがないのかな?」

 「中には家族を全員盗賊に殺されてしまった、娘達もいますのでそう言う娘達に関しては、明日からでもカオルやフローラの仕事を手伝わそうと考えてます」


「そうだな、何もしないよりは、仕事を与えたほうが良いと思う。オーク集落で救出した女性達の中にドワーフの女性が、3人ほど居ただろ?彼女達と少し話したいが、呼んでもらえるか?」

 「かしこまりました。すぐに呼んで参ります」


 3分ほどでドワーフの女性3人がやって来た。

「どうだ、少しは馴染んできたか?」

 「お陰様で、生き返ったような気持ちで過ごさせていただいております。何かごようでしょうか?」


「俺の本宅の方に居る、フローラと言うドワーフの女性がいるんだが、彼女に鍛冶を任せているんだけど、良かったらそのフローラの手伝いをして欲しいと思って、お願いしに来たんだ。どうかな?」


 「ご主人様にお声掛けしていただいて、嫌な訳がありません。


それにフローラ様ってドワーフの間でも有名な鍛冶集落のフローラお嬢様の事じゃ無いでしょうか?お顔は存じ上げませんでしたが、お名前はドワーフならほぼ知らぬ者は居ない程の有名なお方です。


そんなお方のお手伝いが出来るなど、ドワーフ冥利につきます。是非お手伝いさせて下さい」


「ちょっと聞いてもいいかな?俺はこの世界の常識に疎い所があるから、良く解らないんだけど、ドワーフの人は女性でもみんな鍛冶の心得があったりするの?」

 「それは、少し誤解があります。ドワーフが全員鍛冶師ってことはございませんよ?農業が得意な者も、大工や、酒造を担当する者も当然居ますので、比較的鍛冶を手掛けるものが多いと言う程度の認識で大丈夫かと思います」


「そうなんだね、勉強になったよありがとう。それじゃ君たち三人は明日からでも向こうの屋敷でフローラの手伝いを頼むね。寝る場所も向こうに引っ越してもらっていいから、明日の朝から行くように頼むよ」

 

「かしこまりました」


 確認したいことは、終わったので一度本宅の方に戻り、カイルを回収して、アランの待つ宿に戻った。そして3人で、ゼーレの夜の街に飲みに出かけた。

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