第23話 Bランク試験終了

 翌朝、ボレルの街を出発した俺達は、王都への道を若干急ぎ気味の速度で進んだ。王都までは予定として立ち寄る街はないので、明日の午後には王都に到着予定である。


 モンスターの蔓延はびこる世界のため、職業として魔物退治を行うもの以外は、余程の事が無い限り、野宿を行う事は無い。夜は狼型の魔物が特に多く、群れをなして襲ってくるために、一般の人々では無事に夜を越せる可能性は極めて低いのである。


 今日は強行軍で、宿場町4つ分の移動を行い、ヘンダーソン侯爵領の領都であるヘンダーソンの街を目指す。ヘンダーソンの街は、王都に近いこともあり、凄く人も多く賑わっている人口もこの世界では破格の30万人を抱える街だそうだ。


 商隊としての用事はこの街には無いので、単純に宿泊地としての選択であったが、この街は側にダンジョンと呼ばれる、モンスターが多数発生する階層式の洞窟がある。


 明らかに自然に出来た物で無い事は、地下なのに太陽が輝くステージや、海辺のステージが何の脈絡も無く、現れる事から解るのだが、だとすれば誰が何の為にこのダンジョンを設置したのかが凄く気になるところだ。


 この様なダンジョンを擁する領地を持つと、冒険者を始めとして人が大量に集まりやすい方向性になりやすく、領地自体が成長してくれる。この国では政策として人口増加を一番にに掲げており、爵位の上昇等も領地持ち貴族の場合は、どれだけ自領の人数を増やしたかが、一番重要視される。


 逆に領地を引き継いだ時点から、人口が半数を割り込むような事があれば、理由の如何を問わずに、改易される危険性がある。


現在はこの王国内にダンジョンは7箇所発見されていて、それぞれダンジョンを抱える街は、冒険者を中心とした街作りを行い賑わっている。俺たちも今回の試験が終われば、一度潜ってみたいと思う。


 そして、今回の試験における最終宿泊地にあたる、ヘンダーソンの街に無事に到着した俺達は、宿にチェックインを果たすと、翌朝までの自由時間になり、俺はアランを伴いハッサンさんの元へ転移で移動した。


 ハッサンさんは、ゼスタール準男爵とハッサンさんがファルムの街から呼び寄せた、貴族問題を専門に扱う法務官達とのミーティング中であった。


 当面の目標として、子爵をあくまでも罪人として処することが出来れば、問題はほとんど片付くのだが、現在ゼスタール準男爵が、所属する侯爵領内で実質の最高権力者は、侯爵の長男であるゼール子爵であり、彼と侯爵4男のゼゼコ子爵は、次期侯爵を狙う上で最大のライバル関係に在った事は、ゼスタール準男爵にとっては好材料である。


 俺たちは、取り敢えず今日の道中での問題は起こらなかったことを報告し、ハッサンさんからは現状の進捗具合を聞いた。


 初日の夜の襲撃があった際の特殊部隊の所属が、6男の子爵が率いる侯爵領の直属部隊であった事が、判明した。侯爵領の領軍は6人の子爵がそれぞれ管轄しており、今回の準男爵領の進行に関しては、侯爵軍までには出撃命令がくだされていなかったのだが、ゼゼコ子爵の奪還作戦に関して、勝手に侯爵領の特殊部隊を投入し、しかも返り討ちを受けたことにより、侯爵領に損害を与えてしまった為に、大きく立場を厳しくしているようだった。


 侯爵様自身は、病床から起き出すことも出来ないために、最終的な侯爵領としての落とし所を決定するのは、侯爵領を管轄する司法組織に委ねられることになる。


 ハッサンさんの連れてきた、法務官には明日までは証拠固めを徹底してもらい、明日の商隊の到着報告と王都での商品の引き渡しが終了してから、本格的に進める事になりそうだ。


 俺も乗りかかった船だし、今回の顛末はこの目で見届けたいと思う。


 ゼスタール準男爵自身は、肝が座っており今回俺たちが通りかかっていなかったら、とっくに準男爵領は蹂躙されていたんだし、どうなっても悔いは無い、と達観した姿勢だ。


 とても好感の持てる人だと俺は思うし、準男爵にとって最良の結果になるように応援できればいいな。


 翌日の到着予定時間が午後3時頃になる事を告げ、到着後にお迎えに伺いますと言ったが、王都に入る前に合流したいと言う希望だった。


 いきなり王都の中に現れると俺の能力がバレ、国があらゆる手段を講じて取り込もうとする事が見えるので、今は出来るだけ目立たないように、するほうが良いとの配慮で、「事前に合流して普通の護衛らしく王都に入りましょう」との言葉だった。


 俺は最近あまり自重せずに、行動してきたことを顧みて、少し反省した。


 自らの自由を楽しむためには、能力を見せびらかすのは、良くないよな。明日はハッサンさんの護衛として、イザベラの父である辺境伯とも会える。ハッサンさんの話によると、一言で表すと豪快な人だとの言葉だったが、イザベラの性格を考えると、なんとなく納得がいく。


 そして、俺とアランはヘンダーソンの街に戻った、今日はカイルもハンクも居ないので、2人で冒険者が多く集まるような酒場に行った。ダンジョン関係の話を聞きたかったので、いかにも冒険者らしい姿で飲んでいた、人族と獣人の女性二人組に「お酒おごるから、少しダンジョンの話を聞かせてもらえないか?」と声を掛けた。


 「あらあらナンパかい?私達は安くないよ、まぁちょっといい男だから取り敢えず話くらいは聞いてやろうかね」と言って同じテーブルに付いた。


 4人分のエールを頼み、この街の名物であるダンジョン産の魔物肉を使った料理を頼む。女性2人の名前は人族の娘がアマンダで、猫獣人の娘はキャロルと名乗った。この街を拠点にしてダンジョンでの活動をしているが、2人だけでは厳しいので、その日に狙う獲物に寄って臨時パーティーを組んで活動しているらしかった。2人共Dランクの冒険者で経験は3年ほどだということだ。


 アマンダの話によると、ダンジョンは自分のLVの倍の階層位までが、適正階層で無理なく狩をしたいならそれを守る様にしろということだった。俺だと1554階層まで行けるのかな?そんな階層存在するんだろうか??


 現在の最高到達階層は98層まで到達していろそうで、恐らく100層が最終階層なのではないかと、噂されているらしい。しかし98層に到達したのはもう2年も前で、それ以降の探索が現在は出来ていないとの事だった。


 「最終階層に辿り着くとなにか特典とかあるのか?」


「そこに眠るお宝だけでも莫大な価値があると思うけどねー」


 ギルドからの報奨金も100層のボスに対しては、2000万Gが提示されているそうだ」もしそこが最終階層だと確認されれば更に追加報酬の3000万Gが出るそうだ。暇を見てやってみるのも悪くないな。


 「王都ギルドの帝達はダンジョン攻略はしないのか?」と聞いてみたら、帝達は基本的に国内各所で起こる魔物の反乱に駆り出されるために、何日も掛かるダンジョンの攻略に行く事は基本的には無いそうだ。98層まで順調に潜ったとしても、1月以上の時間がかかるそうで、確かにそれだと無理かもなと思った。


 俺とアランはまだ護衛任務も終わっていないので、遅くならないうちに宿に戻って、明日に備えた。


 翌日、昼過ぎに王都の威容を遠目に確認できる程の距離に来た所で、ハッサンさんとカイルを転移で迎えに行った。ゼスタール準男爵にはハンクを付けてあるので、余程の事が起きない限りは大丈夫だろう。


 ハッサンさんが商隊に戻った事により、安心感が広がり、王都への道程も順調に進む。王都内部へ入る為の門には、沢山の旅人や商隊が列をなしていた、王都への入場門は、一般用、貴族用と、今回の商隊のように、各貴族領の御用商人と言われる人達が、領地の認可状を携えた上で商隊として侵入するための商用門の3種類の門がある。


 ハッサンさんの商隊は当然商用門から入り、荷物の検疫を受け王都内へと入る。俺たちはハッサンさんの王都での支店までの護衛を行い、試験と任務は終了となるのだが、王都はとてつもなく広い。


 門をくぐってから、ハッサンさんのお店に到着するまでに更に2時間を費やした。行き交う人々の多さも凄いが、多種多様な人種が混在し、改めて異世界なんだなぁと思った。


 王都内に入ってからは、商隊の旗と一緒にファルム辺境伯の紋章を描き込んだ旗が、一緒に掲揚されている。貴族御用達の証がないと、余分な揉め事に巻き込まれる危険が高いために、王都内では御用商は基本的に所属領の旗を掲げるらしかった。


 まぁ色々あったが、無事にハッサンさんの王都支店に当着したことにより、試験は終了となった。

結果は明日王都のギルド本部に行く事で、通知されるらしい。まさか落ちてはないよな?


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