第48話 裏奴隷商掃討作戦⑥

 俺はワンハイからの思ってもみなかった申し出を聞き入れる事にした。

 違法組織と言う物は、潰しても雨後の筍の様に次々と現れるだけだし、協力するというならそれも又有りかと冷静に判断した結果だ。


 俺達は一度ファルムに戻る事にして、今日救出した100名以上の奴隷を解放する事にした。

 既にユーリの指示により全員お風呂に入れられ、着替えも済ませてあって、助け出されたことを喜んでいたが、奴隷紋の強制力によって、犯罪組織内で行わされていた麻薬類の情報などは喋る事が出来ない様だ。


 俺は今日助け出した全員を集め、一人ずつ全員の奴隷紋を解除した。

 さすがにちょっとだけ疲れたぜ。


 それが終る頃には夜も明け始め、俺達の長い夜は終わった。




 ◇◆◇◆ 




 翌朝、アラン達には夜更かしをさせたから今日は休みを与えている。

 俺はユーリ達に新たな仲間になった女性たちの世話を頼み、トールとサリアの二人の帝を連れ王都へと向かった。


「コウキの転移は本当に一度に王都まで来ちゃうんだね、しかも回数制限も無いとかまさにチート野郎だよね」

「サリア、チートって言葉はこの国に普通に存在するのか?」


「太郎様が伝えた言葉らしいよ? 理不尽だと思う能力とか見たら使う言葉だって授業で習ったよ?」

「太郎、何教えてるんだろ……他にもネットスラングとか普通に存在しそうだよなこの世界」


「ちょっとワンハイと会うが付いて来るか?」

「おいコウキ、ワンハイってマフィアのワンハイか? お前裏組織と繋がっているのか」


「ああ、昨日知り合いになった。潰すより取り込んだ方が便利だと思ったから、使う事にしたぜ」

「ふむ、まぁコウキなりの考えが有るんだろうが、犯罪行為を容認する訳には立場上行かないから、付き合いは気を付けろよ。俺は疑われると面倒臭いから遠慮しとくな」



 意外に、トールって常識的な思考の持ち主なんだな。

 その前に、王城前の昨日『ペスカトーレ』の後ろ盾をしていた法衣伯爵を放置した広場に来て、周囲の噂話に耳を傾ける事にした。


 沢山の露天商が広場で商売をしているが、その屋台でトールとサリナと共に買い食いをしながら、噂話を聞く。


「何だか憲兵隊の長官が、王宮の近衛に連れて行かれたって話だな、国外から獣人やエルフの女の子たちを攫ってきて、裏奴隷商に売り払ってた疑いだとか聞いたけど、それが本当だったら恐ろしい話だよな」

「伯爵の別荘に捜査が入ったらしいけど、証拠になる奴隷が居なかったから冤罪だから早く釈放しろって騒いでるらしいよ」


「配下の憲兵の国外調査組織が、国外から攫って来ていたとかの話を聞いたよ」


 などの話が聞けたが、全員連れて行ったから確かに証拠の奴隷が残って無いな。

 まぁ伯爵に興味は無いから、その後でどうなるのかとかはどうでもいいな。


 次は、ワンハイに会ってペスカトーレの居場所でも教えさせるかな。

 後は司教をどう追い詰めるのが良いかの確認だな。


「ワンハイ居るか?」

「コウキの旦那良い所においでなさったな。今丁度司教からの指令が届いたんだが、ペスカトーレの後ろ盾の伯爵が捕まってるから、当分擁護院からの奴隷は提供出来ないと言って来た。本人は国外の布教に旅立つって話だ。ヤバイと思って身柄を隠すつもりだろうな」


「しかも、俺達を司法に売り飛ばすつもりの様で、お前のとこの下っ端を何人か擁護院から子供を攫って売り飛ばした罪で突き出せって言ってきやがった。そんな罪状じゃ間違い無く死罪だし俺の部下たちは出せないって答えたら、全部お前の罪として司法に密告すると言ってきやがった。どうすりゃいいと思う?」

「まぁ今までやってた事は間違いない事実だから、しょうがない部分はあるが、そう言う訳にはいかないな」


「旦那そんな事言わずになんか良い手はないですか? 結構真剣に言ってるんですぜ」

「すぐにお前の酒場の地下の部分を全部撤去してしまおう。俺がアイテムボックスと転移を使ってやるから心配はするな。後の部分には土を運んできて埋め立ててやる。これで証拠が残らないから、伯爵と同じように取り敢えずは調べられても平気な筈だ」


「流石ですねそんな事まで出来ちまうんですか、つくづく敵対しなくてよかったと思いますぜ」

「ワンハイは昨日より少し喋り方が、打ち解けて来たな。今の方がいいぞ」


「そうですかい、昨日は流石にちょっと畏まりすぎたと思いまして、これから長い付き合いになるなら、今日位の喋り方の方が肩がこらないと思いましてね。気に入っていただけたなら良かったですぜ」


 そして俺は地下のカジノとオークションハウスをすべて収納して回り、空いた空間は土で埋め立てて置いた。


 その日の夜に近衛の指揮の元、この王都のすべての裏カジノと裏奴隷取引の現場の一斉摘発が入りペスカトーレ関連の12軒は摘発されたが、ワンハイ関係の8軒に関しては何一つ証拠がなかった為に摘発を免れた。


 ペスカトーレファミリーは、拠点を12か所一度に摘発され壊滅的なダメージを受けたが、ペスカトーレ自身は捕まって無いらしい。


 翌日俺は、トールとサリアを連れて王都のギルドに顔を出し、摘発されて接収されたペスカトーレファミリーの酒場を手に入れる方法は無いかを探った。


 既に摘発をされたからこの場所でカジノを運営していくのはもう無理だろうし、それなら有効活用の方法を考えたほうが良いからな。


 副ギルド長のジェイクに話すと、

「まぁ帝が2人一緒にいるから別に悪だくみで使う訳では無いだろう。恐らく司法で、有罪が確定したら競売に賭けられるから、予想価格以上を提示したら、手に入れられるんじゃないか?」


 と、言ってくれたので、「ジェイクに頼んでもいいか? 金は俺が払うから競売に掛かったら、全部手に入れて欲しい」と頼んでみた。


「俺は不動産屋じゃないんだがな? まぁコウキに貸しを作っておけばいい事も有るだろうから貸しだぞ」

「そう言えば北の厄災はどうなってるんだ? もう総帝が向かって結構立つだろ」


「一度物資の補給で戻られてましたが、討伐には至らないようですね。ただ、まだトールやサリアの呼び出しもない様ですから、危機的な状況ではない筈だと思います」



 状況として危険では無いって言う事なのかな?


 裏奴隷組織は取り敢えず壊滅してるし、俺はマフィアの摘発がしたい訳では無いから、力の衰えたペスカトーレが、どう動くのかを見極めてから行動をするか。


 憲兵隊が良い指導者に恵まれて活動が出来ればいいけどな。

 

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