第21話 飛龍との戦い

 ゼゼコ子爵を奪還しようと襲ってきた勢力を無事に返り討ちにして、ゼスタール準男爵はハッサンを前に安堵していた。ハッサンが口を開く、


 「ゼスタール様、まだまだ敵対勢力からの介入は在ると思っていて間違いありません、本日中には貴族間の問題を専門に扱う法務官が、到着いたしますので、上げ足を取られるような事が無いように行動には気を付けましょう」


「そうだな、ゼゼコ子爵が自領内でも好き放題の行動を取っていたようで、文官達の中にはこちらに協力的な姿勢を示す者がいたが、まだどうなるか流動的なので、自分の立場が悪くならないように、今ははっきりと恭順を示す事は、辞めて置いたほうが良いと伝えてあるしな」


 問題は兵士達だ、戦争に参加して戦死したとされるのでは無く、盗賊として罪人として殺されたのでは、残された家族達は、路頭に迷うしかなくなる。今後私が統治をするのであれば彼らの名誉を回復する手段を、提示してあげないと、余分な恨みを買う事態になる。


 まぁ戦争と判断した場合でも、敗軍の兵士は捕虜として、最悪奴隷落ちが普通の処分だから、今回の様に一方的な敗戦をしてしまった軍に、明るい未来は無いのだがな。


 問題は、兵力差が5倍もある戦争で、少数軍が勝った事がなく、ましてや相手側の街を、一気に支配下に置いてしまえた前例などある訳ないので、ゼゼコ領の管理のためには、大量の雇用と恩赦を行うしか無いのは、間違いがない。


 「そこは、ゼスタール様の懐の広さを見せる良い機会だとお捉え下されば、よろしいかと思います生き残った兵士達は、しっかりと聞き取りを行い、今後の処置を決めればよろしいかと思います」


 ゼゼコの街は3万人に登る住民を抱えるので、合わせると38000人の住民を抱えるようになるので、他領の伯爵領にも匹敵する。ゼスタール家次第で、ハッサンの商会も今後の躍進に期待が持てる。


  ◇◆◇◆ 


 コウキ達一行は山脈超えを行っている。空には時々ワイバーンの影も見えるが、今の所襲われる事もなく、無事に商隊は進んでいる。


 ハッサンさんの商隊の番頭格である、ヘンリーさんの指揮のもと、この山脈超えで一番の難所である崖を進む。馬車がギリギリ通れるほどの道幅しか無く、当然すれ違いなど出来ない。


 500mに一箇所程度作られた、すれ違いを行うための、窪地を使ってのすれ違いをするのだが、スムーズに行うためには先行させる斥候部隊なども必要で、商隊の山脈超えは本当に大変だ。


 基本的には、規模の小さな行列が待機をする事がマナーとされるが、貴族絡みの行列などがあると、そのルールも簡単に破られることが多い。


 丁度一番高度が高くなる、頂上部分のすれ違い用の窪地で、すれ違うための待機をしてくれた商隊に挨拶を行いながら、進んでいた時にワイバーンが2頭が何かに追われるように、突っ込んできた。


 ワイバーンは一頭でもAランク相当のパーティの実力が無いと、討伐は難しいとされる、今回のようなCランク相当のメンバーばかりだと、普通なら3PT居ても厳しい状況だ。


 だが、ここに居るのはアランとコウキである、監督官のドイルもAランクの冒険者で、


「試験のランクを超えた、敵の出現に関しては、俺も普通に戦闘に参加することを許されている」と一緒に立ち向かう。 


 ユーキ達とボブ達のパーティは、商隊を守る事に専念してもらう。


 俺は墜落してきた、ワイバーンに立ち向かい一頭の翼の付け根を、切りつけ飛行能力を奪う。商隊を守ることが主目的なので、2頭を相手にすると危険もある。飛行能力を奪ったワイバーンの大きな体を、ドイルに頼んで崖の下に叩き落としてもらった。


 残すは一頭と思ったが、崖下に落ちていくワイバーンを大きな影が、追いかけ口でパクリと咥え飲み込んだ。


 その大きな影の、正体は「飛竜か・・・こんな所で出会うとは運が悪いな」


 飛竜はSランク相当の魔物で、SランクPTが10PTほど集まら無いと討伐できないほどの敵だ。


 俺の目の前に居るワイバーンも、怯えた表情をしている。その時俺の脳裏に久しぶりの声が聞こえた。『テイミングスキル』を獲得しました。


 眼前のワイバーンが俺を見つめる。これは、そう言うことだろうな?と思い、ワイバーンに対して、【テイム】を発動してみた。


 ワイバーンがテイムを受け入れました。名前を付けて下さいと脳裏に表示される。『ツバサ』と名付ける。

気に入ってくれたようで、そのままワイバーンの姿はインコ程の大きさになり、俺の肩に乗ってきた。


 この世界のテイムの常識がどうなのかは知らないが、これで取り敢えず飛竜に集中する事ができる。ワイバーンを丸呑みにした飛竜が、その巨大な姿を俺達の前に現した。圧倒的な威圧感を放っているが、俺が召喚された時に倒したドラゴンに比べると、その存在は大した事はない。


 鑑定を掛けてみると


 飛竜 LV98


HP   9800

MP   9800


攻撃力  98

防御力  98

敏捷性  98

魔力   98

魔法防御 98

運    10


スキル ファイヤーブレスLV5 身体強化LV5


 確かに中々強いな、アランとドイルに、「任せろ、商隊の傍に行って置け」 と指示を出す。


 ここは、出し惜しみをする場面でもないなと思い、聖剣をアイテムボックスから取り出して構える。

飛竜は、大きな叫び声を上げた。


「ギャアアァアアァオオオォオオオ」


 その声を聞いた、商隊のメンバーと馬車の馬が一斉に硬直した。すれ違う為に待機していた商隊の馬は、恐慌状態に陥ったのか暴れて、一台の馬車とともに崖下に落ちていった。他のメンバーも腰砕け状態で立ち上がることも出来ないようだ。


 更に口元に、ファイヤーブレスを貯め込んでいるであろう感じで、煙が上がってくるのを見た俺は、


 その場で身体能力最大で飛び上がり、飛竜の首を横薙ぎに一刀両断で跳ね飛ばした。流石に龍特攻を持つ聖剣だ。その場に飛竜の巨大な身体は倒れ伏した。首だけが上を向き、貯め込んでいたブレスを上空へ向け放った。


 そして飛竜の頭も眼光を失い商隊の待機している目前に落下してきた。


 ドイルが口を開く

「飛竜が一撃だと・・・こんな事は帝でも出来ない・・・コウキさんの実力はどれ程なんだ」


俺は、みんなに向かって言った。

「もう大丈夫だ、あんまり目立ちたくないから、出来れば今回の飛竜討伐は、余りいいふらかさないで欲しいな」


 俺は飛龍の死体を、丸ごとアイテムボックスに放り込んで商隊に向き直り、


「サッサと山を降りなきゃ日が暮れてしまいますよ」


と言って、山下りを促した。


 すれ違う為に、避けていた商隊は、荷馬車を一台失いはしたが、人の被害は無かったので、俺達に礼を言って、反対方向へ向けて、去っていった。

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