第20話 子爵家問題
いろいろな事件が立て続けに起こり、ハッサンさんも重要な判断を強いられる事になっている。このまま王都に向かうことを優先するのか、それとも、準男爵家の支援を優先するのかが、一番判断を求められる事案だ。
俺なら準男爵家の事案を優先するほうが、大事な気もするが、今回の王都での取引は、ファルム辺境伯の立会の元で公爵家への商品の引き渡しも在るために、顔を出さない訳にも行かない状況何だそうだ。
しかしこの準男爵は良い人であることも解るし、武人としても優れた人物なんだろうが、貴族同士のドロドロとした交渉術は、いささか苦手な感じがする。
相手は、侯爵家の4男で子爵なので、一手間違うと準男爵が、窮地に陥る状況も考えられる。
ここは、俺がハッサンさんに貸しを作っておこうかな。
「ハッサンさん、お悩みの内容は解りますが、今回限りという条件の中で俺が解決して差し上げましょう。ハッサンさんはこのまま、準男爵に付き添って、貴族間の問題が片付くまで対応をお願いします。
ハッサンさんにはカイルともう一人私の従者のハンクをを付けますのでご安心下さい。そしてここからが、本題ですが、私は一度行った場所であれば、転移で移動ができます。これは他の方には内緒にして頂きたいと思います。
王都はまだ私が行ったことが無いのでこのまま商隊と一緒に王都までは、行かせて頂いて、王都に付いたら転移でここに戻ってきます。それで今度は一緒に王都に転移で移動すれば、どちらの問題もハッサンさん自身で対応出来ます。いかがでしょうか?」
「素晴らしい提案でございます。コウキさんあなたはそこまでの能力をお持ちなのですね、今回限りというのが大変残念な条件ではございますが、背に腹は変えられません。どうぞその提案を受け入れさせて頂けますか?」
そして、方針が決定した。
翌日俺達は、ハッサンさんとカイルとハンクに準男爵領の問題を頼み、王都を目指して出発をした。少し日程に遅れが出ているので、余分な行動を慎み全力で遅れを取り戻す事になった。
そしてこのゼスタール準男爵領では、今日は朝から他領からの使者が次々にやって来ている。
ゼゼコ子爵領は昨日の内に主要施設を全て支配下に置き、準男爵は従者二人だけを伴い朝早くに、騎乗で準男爵領に戻っている。
ここではっきりと方針を固めておかないと上げ足を取られて、今後の流れに支障が出る。ハッサンさんの描いた青写真では、ゼスタール準男爵がゼゼコ子爵領を完全に併合してしまい2つの領地を治める男爵と成って、一気に侯爵争いにまで名乗りを上げるという、とんでも計画であった。
これはこの国の特殊な、領土制度から起こる事案で、他国のような長子相続が当たり前となる制度では起こり得ない事態である。実際に今朝の時点で侯爵領内で最大の領土を実効支配する立場となったゼスタール家は、進め方を間違えなければ十分な可能性を残す。
ハッサンの考える落とし所としては、侯爵領を大きく2分割して2つの伯爵領とし、1つをゼスタールもう1つを現侯爵の長男、又は次男の子爵に任せる方針であった。それによる利点は大きく、王都とこの土地の間に大きく横たわる山脈の西側において、最大の領地がファルム辺境伯領となり、その御用商であるハッサンがこの国の西部では、最大の力を持つ商会主となれる事だ。
ハッサンはゼスタール準男爵が侯爵領内の様々な貴族家からの訪問を受ける間、ずっと奥のカーテンの後ろに控え、それぞれの貴族家の思惑と、敵味方の判断に神経を注いだ。
概ね一番数の多い、準男爵家は好意的に受け入れており、これは跡目争いになっても、有利に働きそうだ。
問題は、6人居る子爵と12人居る男爵だ。どちらも現時点では、上位貴族であり、こちらに従うような気配を見せることは、出来ない。強く抗議の姿勢を撃ち出しているのは4男の子爵に取り込まれていたであろう、3男と6男の子爵家と、5家に上る男爵家だ。
ハッサンとしても、この7つの貴族家が、力を持つ状況は避けたいと方針を決めた。今日はどの家も表面上の戦勝への祝と、敵対しそうな家からは、ゼゼコ子爵の早期解放とゼゼコ子爵領の放棄を行えとの、申し渡しである。
それに対して、ゼスタールは今回の戦に関しては、こちらとしては一方的な言いがかりであり、戦を受けた覚えもない。
あくまでも自領であるゼスタールの領土内で一般人である商人たちに対しての盗賊行為を取り締まり、捕縛した。
戦争の捕虜では無く、盗賊団としての討伐であり犯罪者としての拘束である。
と告げ、ゼゼコ子爵領を実質支配下に置いた事は、盗賊団の本拠地の捜査であり、余罪の追求等をすべて終了するまでは、その後の方針は決められないと告げ、もし事実として盗賊行為を行っていた勢力を擁護するような、言動があれば公明正大に本国王宮からの裁きを、介入させる事となると告げさせた。
それに対して各領からの使者は、使者レベルで判断できる事案では無くなり、何も言えずに一度自領に戻るしか無くなっていた。
しかし明確に味方に付くと明言した、勢力については帰還させずに歓待を行う事になった。
準男爵領では、精々人口も8000人程であり、大きな商家も存在せず、ハッサンの存在は非常に大きかった。他領の使者の歓待もハッサンの差配で滞りなく行い、その日を乗り越えた。
しかし、一番重要なポイントであったのは、ハンクをこの領内に残していった事だ。ハンクは自分の積み重ねてきた経験で、敵味方の臭いを高度なレベルで嗅ぎ分けることが出来る。
今回残った表面上味方の勢力も、実質は敵対勢力の監視役であったり、少しでも落ち度を見つければ、掌返しを行う程度の考え方で在ったりする者が当然紛れ込んでいる。
そして事件はその日の深夜に起こる。ゼゼコ子爵を捕え、拘束をしている牢が襲撃を受けた。敵対勢力の襲撃だ。ここでゼゼコ子爵を取り逃してしまえばすべての計画は破綻し、ゼスタール準男爵は窮地に陥る。
敵は10人程の手練な特殊部隊のようだった、見張りの牢番の5名が瞬く間に倒され、殺害された。そして牢の扉を開けようとしたその時、10名の襲撃犯の2人の首が、胴体から離れた。ハンクだ。横にカイルも控える。
敵対勢力が、8人で2人を取り囲む。襲いかかってくる特殊部隊員の攻撃を躱しながら、2人で連携して確実に仕留める、「ハンク全員を殺すのは駄目だぞ、吐かせる為に3人は生きたままで捕えたい」
「じゃぁ7人までは殺して良いんだな」とハンクが言うと、敵が明らかに狼狽えた。残り5人になった時に、敵は諦めた。脱出しようと出口に駆け出す。その時、転移によりコウキが現われた。1分もかからずに全員を倒し、倒れた人間から、カイルが関節を外す。自殺防止の為にハンクが全員に猿ぐつわを嵌め、ようやく騒ぎに気付いた、ゼスタール領の兵士達が集まってきたので、引き渡した。
俺はハッサンさんに今日までの商隊の進行具合を伝え、ハッサンさんからの指示を確認して、商隊の宿泊している、街に帰還した。
ゼスタール準男爵が呟く「彼は一体何者なんだ?」
するとカイルが、
「コウキ様は、このSランク冒険者『絶牙』が唯一主と認めるお方です、あれ位の事は、出来て当然でございます」
「『絶牙』聞き覚えがある名だ。確か隣国の軍が集落を襲い、酷い怪我を負わされた上に犯罪奴隷にまで貶められたと聞いたが、私の目の前にいるその姿は5体満足な上に自由にしていらっしゃる」
「全ては、コウキ様によってもたらされた奇跡です。私は仰る通りに奴隷ですが、コウキ様の奴隷であることに誇りを持っています」
「奴隷にそこまでの言葉を言わせるとは、コウキ殿は主人としても素晴らしい人格者なのであろうな」
「まさに、その通りでございます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます