第19話 ゼスタール準男爵

 俺達はゼゼコ子爵軍が崩壊する瞬間を目の前で、見物した後で、ゼゼコ子爵の横で土下座していたさっきの部隊長にハッサンさんが言葉をかけた。


 「それで、御用は何でしたか?もう一度言って頂けますか」


 それに対して部隊長は、苦虫を噛み潰したような表情で何も言えない。


「ご用が無いなら、私共は急ぎます故にこれで失礼させて頂きます」


 と言って、商隊が向かった方向へ、移動しようとすると、今度はゼスタール準男爵軍の方から人が来た。


「しばし待たれよ、私はこの街を収めるゼスタールと申す物だ。あなた方のお陰で窮地を脱し、戦に勝利することが出来た、このまま行かせては、末代までの恥となる」


 それに対して、ハッサンさんが、

「私共は、旅の商人でございます。貴族様にそのような言葉を掛けて頂けるなど、勿体なく存じ上げます。しかしながら、先程子爵軍を語る盗賊から逃れる為に、商隊を先に逃しましたので、追いかけなければなりませんので、失礼させて頂きます、後ほど商隊と合流を果たした後で。改めてご挨拶に伺わせて頂きます」


 「何と、盗賊に襲われておられたのですな、盗賊に身分の貴賤などはござらんな、早速この盗賊共を領主としての責任で捕え、盗賊には厳しい罰を与えることをお約束いたしますぞ。では商隊と合流を果たされた後で訪ねて来られることを、お待ちしておりますぞ」


 中々ノリの良い領主様だな、俺も凄く好感を持った。取り敢えず俺達は、商隊と合流する為に準男爵の元を辞し、商隊を追いかけた。


 走って追いかけたので、中々追いつけなかったが、商隊にはこの街の反対側の入口から、街に入るように伝えて在ったので、問題は無い。


 少し速度を緩めて、ハッサンさんに尋ねる。


「子爵の扱いはどうなるんでしょうか?このまま子爵として存在するなら、今後の商隊の活動に悪影響が無いですか?」

 「そうですなぁ、上手く失脚して貰えるように、全力でロビー活動をしなければなりませんかな。何コウキさんは、何も心配されなくても大丈夫ですよ、これでも知己は結構多いので、この際ここの準男爵に頑張ってもらいましょうかな」


 なんだか、腹黒い笑みをたたえて、楽しそうにしている。ハッサンさんを見て背筋にゾクリとする物を感じた。


 それから30分程かけ街の裏側に回り込み、ゼスタールの街に入っていった。


 街に入ると、検問所のすぐ横の広場に商隊の連中が待機しており、お互いに無事を喜びあった。

「どうやって、切り抜けてきたんですか?」と聞かれ、


 「なんか勝手に、自滅しちゃったよな?」とアランとカイルに同意を求めると、「その通りですね、勝手に崩壊しちゃいましたね」と返答があった。


 商隊の人達は、何で?500人もいた軍隊が勝手に崩壊するとかありえないよ?と囁きあっていたが、まぁ概ね事実だしな。


 ハッサンさんが俺とカイルとアランを伴って、領主の屋敷に向かう事にしたので、商隊のメンバーには今日はこの街で宿を取る様に伝え、俺達は領主邸に向かった。


 領主邸で、「先程盗賊に襲われた所を領主様に助けて頂いた商人でございます。お礼に伺いました」と告げ中に案内された。


 応接室に通され、すぐにゼスタール様が現われた。


「改めて、礼を言わせてもらおう。このゼスタールの街を救って頂き、ありがとう。先程見させてもらっていたが、あれ程の魔法を俺は、王都の宮廷魔術師の儀式魔法でさえ見た事が無い。さぞや高名な魔術師様かと思うが名前を伺っても良いかな?」

 

 俺は、商隊主であるハッサンさんに答えて良いかの確認を取ると、頷いて貰えたので、


「コウキと申します。田舎から出てきたばかりですので、色々常識に疎い所が御座いまして、ご無礼があるかと思いますが、ご勘弁下さい」


 元の世界では、営業職の俺としては目上の人との初対面の挨拶として、無難な言葉を選び挨拶した。


 「コウキ殿と申すか、聞いたことのない名前だが、そなたの実力は本物である。礼儀は気にしなくて良い、俺も堅苦しいのは苦手だ。それよりも横で控えておる剣士お前アランだろう久しいなぁ、何故商隊の護衛なんかしてる」

「あー気づかれちゃったか、今の俺は身分も何もない、ただ生涯をかけてコウキ様に忠誠を尽くすと決めた男だ」


「何と、アラン程の男が何故それ程までに・・・まぁあの実力を目の当たりにすれば無理もないのか」

 

 ハッサンさんが口を開いた。

「改めましてご挨拶申し上げます。ファルム辺境伯領の御用商人を務めておりますハッサンと申します。子爵との戦のご勝利おめでとうございます。私の方から一言ご進言させて頂いてもよろしいでございましょうか?」

 「構わぬ、申してみろ」


「他の貴族が動く前に、今日中に子爵領の領主邸と役所を差し押さえる事をお薦め致します。他の勢力が介入してからでは、手がつけられなくなりますので、その際に子爵領側の人間に対して、怪我人を出来る限り出さないように、行って下さいませ、後は私の伝手で貴族間の揉め事を専門で処理する、優秀な法務官を手配致します」

 「何故そうするほうが良いのだ?」


「私の行商の通り道でもございますので、この先子爵様が権力を持ち続けると、私の商売にも悪影響が出ますので、この際ゼスタール準男爵様に一気に男爵様と成っていただいて、私共もお溢れに与ろうとの浅ましい考えでございます」

 「ほう、欲を隠さぬのだな。気持ちの良い商人だ、気に入ったお前の口車に乗ってやろうではないか。して盗賊団の処置はどうするのが良いと思われるか?」


「あくまでも私の商隊を襲おうとした盗賊として、侯爵領からの使者が訪れるまでは罪人としての扱いで構わぬかと思います。精強な貴族様の軍が高々商隊の護衛にあしらわれたりする訳が御座いませんので、子爵を語る盗賊と思ったで、話は通ります」


 「解った、ここで考えても始まらぬな。ハッサンの口車に乗ってやる。どうせお前達が現われなければ、無残に街を荒らされ、全てを奪われる未来しか見えなかった身だ。賭けてみようではないか、お主の言葉に」


 そして、準男爵は15分程で兵を揃え50人を引き連れ、子爵領に乗り込んだ。


 話の詳細は夕飯時には、ハンクが伝えてきた。見事な無血開城で誰一人怪我人も出さずに、制圧をしたらしく子爵の家族に関しては、準男爵領内で盗賊行為を働いた物の家族として、軟禁を命じたそうだ。


 ハッサンさんは早馬を使いファルムに使いを出し、すぐに腕利きの法務官(俺の世界で言う弁護士さんだな)を派遣してくるるように、手配をした。


 俺も少し手助けをしようと思い、転移でファルムに戻りイザベラに直接事の次第を告げ、ハッサンさんの早馬が到着したら最高の人選をしてもらえるように進言した。


 「あらコウキ私にものを頼むと高く付くわよ?身体で払ってもらうからね。あんな事やこんな事を一晩中付き合ってもらうわよ」

「お前は少し恥じらいを持てよ」


 「私がこんな事を言うのは、コウキだけだから安心しなさい」

「全く安心できん。只のビッチにしか思えんぞ」


 「そう言う目で私を見るなんて、本当にコウキは変態ですわ」

「お前が勝手に言ってるだけだろ」


 まぁそれでもきっと、仕事はきっちりやる筈だから、伝えることを伝えてゼスタールに戻った。


 そう言えばと思ってアランに尋ねた。

「アランはゼスタール準男爵を知っていたのか?」

 「はい、昔士官学校時代にこの国に留学していたことがあって、その時の講師でございました。大変厳しい教官殿で当時は良く指導を受けておりましたが、お陰で士官学校は主席で卒業することが出来ました」


「アラン、お前って思ってた以上に優秀なやつなんだね、俺なんか学級委員になった事すら無いからな、学年主席ってどんな気分なのか想像もできねぇぞ」

 「今はご主人様より優れた人物なんて、恐らくこの世界に存在しないと思いますからご安心下さい」

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