第18話 戦時下の街

 イザベラが帰っていった後で、フローラが新作の剣ができたので、是非俺に使って欲しいと持ってきた。聖剣は普段使用すると、俺を召喚した少女達に見つかる危険性があるから、ちょっと助かる。


 出来上がった剣は、素人の俺が見ても解るクラスの名品だった。フローラの説明を聞くと、芯の部分にはオリハルコンと魔鋼と呼ばれる金属の合金であり、それをサンドイッチ状に挟み込む形でミスリル銀と魔銅と呼ばれる金属の合金が使ってあるそうだ。


 売値を付けるとしたらこのクラスの剣で、50万G程に成るらしい。剣一本で500万もするとか異世界文化の価格基準はマジ解らねぇな。


 フローラに付けた3人のドワーフ娘達も、鍛冶の心得はあるようで、4人で仲良くやっていた。だが鍛冶場はとても暑くて、下着姿の娘たちが汗で下着が張り付いた姿で、出てきたので目のやり場に困ってしまうな。


 フローラにお礼を言い、その場を早々に辞した。


 今は一応護衛任務の期間だし、街中にいる間は責任がないにしても、ハッサンの元を離れていると何か在った場合の対処が遅れるのも困るので、アランとカイルを連れてゼーレの街に戻った。


 商隊の様子を少し眺めに行くと、多くの人が訪れており繁盛しているようだ。こういう商隊は基本的にその街で不足していそうな物資を調べ、他の街から仕入れて商売をして渡り歩いているそうだ。勿論メインはファルムの特産物を王都に運び、王都の品をファルムに届ける事である。


 単純に商隊としての任務以外にも、冒険者ギルドからの依頼で郵便や物流の側面も担っていて、商隊の存在はこの世界では、結構大事な物らしい。


 俺はこの世界の常識には疎いので、今回の護衛任務により、様々なこの世界の知識を吸収することが出来て居る事は、素直に嬉しい。やはり言葉で聞くだけの知識と、実際にこの目で見て確認をしながら、身につけていく知識とでは、全然理解度が違ってくるからな。


 そう言えば、カイルがなんか顔に傷を作っていたので、聞いてみたら狼人族は非情に嗅覚に優れているらしく、さっき屋敷に戻った時に昨日の酒場で女性の臭いが染み付いて居た事で、ジョアンナが怒ってやられたらしい。おっとりして見えても狼人族の女性怖いな・・・


 鶏小屋は既に完成していて、鶏も30羽ほど飼育を始め今回の護衛任務が終われば、毎日新鮮な生卵でTKGたまごかけごはんを愉しむことも出来るかな?


 この街の雰囲気では、まだ侯爵領内で戦争が起こりそうな気配を感じ取ることは出来ないが、基本的に他領の出来事に関しては、無関心で居る事のほうが良いのかな?負けた方の肩を持ったりすると、後から付き合いが難しくなりそうだしな。


 そして、この日は大きな事件も起こらずに、翌朝を迎えた。


 商隊も全員が準備を整え、護衛の3PTも揃って出発をする。侯爵領の中心街であるゼストの街を目指して旅立った。ゼストまでは宿場街が2つあるが、どちらも立ち寄る予定はないために迂回路を進み、その日は予定通りに、ゼストに到着した。


 この街は侯爵領の中心部なだけ在って、大きな建物が多く人口も非常に多い、10万人規模の都市だそうだ。ファルムの街で人口は5万人程だと言っていたから、かなりの大都市だな。


 今日はこの街に投宿して、明日はこの街での取引を行うという事だ。中央都市ではマーケットが成熟しているので、商隊が直接商売をする利点が少なく、大きな問屋との取引のみを行うということだった。


 明日の昼過ぎには出立して次の街に向かうらしいが、そこが問題の子爵領だ。面倒臭いことに巻き込まれなければいいけどな。


 俺は当然迂回路を進むものだと思っていたが、届け物があるので迂回が出来ないと告げられた。何か嫌な予感しかしないな。


 まぁ明日までは、時間が出来たので少し情報収集でもしておくかと思い、アラン達と中心部のマーケットに出掛けた。非常に人も多く賑わっており、屋台がたくさん並んでいたので、アラン達と買い食いをして歩いた、所謂B級グルメ的な商品が多く、物珍しさも手伝って結構楽しめた。屋台の店主や、屋台の列に並んでいる人達に話し掛け、隣の子爵領の様子を聞いてみた。


 どうやら、子爵は評判が芳しくない。今回も一方的とも言える言いがかりをつけて、立場の弱い準男爵を窮地に立たせてるようだった。


 どちらにしても、護衛任務の途中でどちらかに肩入れして、争いに巻き込まれるわけには行かないし、平穏に通り抜けれる事を願うしか無いな。


 宿にチェックインしてから、まだ夕食には早いので、腹ごなしも兼ねてこの街の散策にでかけた、宿から出て3分程したら、ハンクが隣にすっと合流してきた。


「隣の子爵領ですが、一方的に準男爵領に攻め込みました。兵力は500人程ですが、準男爵領では精々100人も兵士が居ないので、一方的な戦いになりそうです」


 「始まっちゃったのか、大体何で戦争にまで発展したんだ?」


「子爵が準男爵の娘に見惚れて、側室に差し出せと言うのが始まりだったそうですが、以前から侯爵の後を狙っていたので、それも取って付けたような理由では無いでしょうか?」


 「他の子爵達が準男爵の味方に付いてくれたりはしないのか?」


「それに間に合わさせないように、早期開戦をしたようですね」


 「という事は、間に合えば阻止するために動く勢力も在ったって言う事かな?」


「恐らくは、侯爵の次男のゼータ子爵などは、領民からの評判もいい様ですので、動いたかも知れませんが、欲の余り無い人の様ですので、はっきりとは言い切れません」


 「俺達の方針としては、今回は商隊の護衛を最優先として、商隊に被害が及ばない限りは一切の介入はしない」


 そうみんなの前で言い切った。アラン、カイル、ハンクの3人も「了解しました」とだけ答えた。

 

 それからは4人でゼストの繁華街に出掛け、晩ご飯を食べた後は4人で綺麗なお姉さんが沢山いる店で遅くまで楽しんだ。


 「カイル、屋敷に戻る前にはしっかりと風呂に入れよ」と伝えておいた。


 そして翌日、ハッサンさんの商隊は昼前にゼストの街を出発した。領内を流れる大きな川を超えて、子爵領に入った。まだこの辺りでは戦火の被害を感じ取る事は出来ない。3時間程の道程でゼゼコの街の壁が見えてきた。


 こちら側からは全く戦争の雰囲気を感じなかったな。商隊はそのままゼゼコの街の商業ギルドに向かい、届け物を降ろすと、すぐに出立する事になった。反対側の門では街を出る人達が大勢並んでいた。


 ハッサンさんが確認をすると、準男爵領に物資を届けたりする勢力が無いのかを検閲しているらしいかったが、5倍の戦力で開戦しておいて、まだ勝負がついてないのかな?と不思議に思った。


 町の外に出るまでに1時間以上かかり、やっと出発ができる状態になったが、準男爵領は迂回して進む予定なので問題は無い筈だ。


 そして1時間半程でゼスタール準男爵領の壁と、それを取り囲むように展開する、ゼゼコ子爵の軍勢が見えてきた。ゼスタールの街は固く門を閉ざして籠城戦を選択している様だ。


 必要以上に近寄らないように、距離を取ったまま迂回路に入って行ったが、子爵軍の1部隊が追いかけてきた。隊列を止められ、少し緊張が走る。


 部隊の隊長らしき人物が命令をしてくる。

「食料や飲料、武器、防具に関する物はこの場で引き渡せ、命令に従わない場合は拘束する」


 トンデモ発言だった。


 ハッサンさんが出てきて応対をする。


 「私共の商隊に対して、どのような権利でのご命令でございましょうか?それとも商取引のお申し込みという事で、それ相応の対価をいただけるのでございましょうか?」


 ハッサンさんの質問へ対しての返事は、


 「ここで戦火に巻き込まれて、全員死んだと報告すれば済むだけだから、何も言わず皆殺しにして食料を奪っても良かったのに、温情を掛けてやった事に対して、偉そうな返事をしやがったな、たかが商人の分際で」


 どうやら、穏便に通れる事は無さそうだな。


 「私は、ファルム辺境伯の御用商のハッサンと申します。私に何かあれば、辺境伯家が黙ってはいませんよ?」


「ここでみんな死ぬんだから誰も辺境伯に報告なんて出来ないさ、例え出来たにしてもゼゼコ子爵様はもうすぐ侯爵様に成られる。伯爵ごときに何が出来ると言うんだ?」


 「それは、ゼゼコ子爵様のお言葉として受け取って構わないのですね?」


 そこまで会話が進んだ時に俺は、『夜明けの明星』と『ユーキと愉快の仲間たち』の連中に対して耳打ちをした、「俺が合図をしたら、俺のPTが全力で食い止めてる間に商隊と一緒にできるだけ早く、ここから立ち去ってくれ、準男爵領の裏手に回って、そこから準男爵領内に逃げ込むのがいい、そこまで出来たら俺が必ず何とかするから全力で頼む」


 そして俺は、目の前に展開している部隊に対していつでも魔法攻撃が出来る体制を整えた上で、ハッサンさんに伺いを立てた。


 「商隊主様どうなさいますか?私共は護衛ですので命じて頂ければたかが500名程度の軍隊等蹴散らして差し上げますが?」


 俺の言葉を聞いたハッサンさんは、そこで大笑いをした。


「コウキさん中々愉快な発言ですな、私も少々腹に据えかねましたので、たかが子爵軍如き蹴散らしてやりましょうか」


 そして俺はユーキ達に合図を出すと、商隊は一気に速度を早めて遠ざかり始めた。それに対して部隊長が追撃命令を出し、10人ほどが追いかけようとした。そこにすかさず俺は部隊の前方にナパームボムを打ち込み、炎の壁を作り、部隊を足止めした。


 ノリの良いハッサンさんが言葉を紡ぐ。


 「商品と使用人は商売をする者にとって命より大事な物です。それを害する命令を出されたあなた方を、商売人として、私の命のある限り許すわけには参りません。貴方のような下っ端では話になりません。子爵様のもとに案内しなさい」


 俺の魔法と、ハッサンさんの啖呵たんか気圧けおされた部隊長は、慌てて子爵のもとに、報告に向かった。


 「さてどう出てきますかねぇ?」


「解りませんが、頼りにしてますよ?コウキさん」


 「まぁ既に商隊は距離を稼げてるし無事でしょう。ハッサンさんだけなら、俺がどうやってでも守りますよ」


「頼もしいことです」


 そして、子爵の方で動きがあった。ゼスタール領に向いていた全軍が、俺達4人の方に向かってきた。


 コイツラ、揃いに揃って大馬鹿だな、そんな行動をとったらどうなるか解らないのか?俺達の方に向かってきた時にゼスタール領の門が開いて、一気に100名程の軍勢が背後を付いて攻撃をしてきた。


 背中を向けた軍勢に対して一斉に弓を射かけ、総崩れになった所に、一気に斬りかかる。前に進むしか無くなった軍勢は俺の方に突っ込んでくるが、俺は先程よりも大規模なナパームボムで全体を取り囲むほどの炎の壁を作り上げる。俺達はあくまでも自衛のために壁を作ったただけで誰も攻撃をしていない。


 攻撃は、ゼスタール準男爵の指揮の元で、ゼゼコ軍に行われているだけだ。勝負は物の15分程でついた。


 500人の軍勢はわずか50人を残すだけで全滅させられていた。残った50人の中にゼゼコ子爵も居た。生き残りの軍隊は、兵も指揮官も関係なく、顔を青ざめさせて武器を放り投げ、降伏を叫んでいた。


 ゼスタール準男爵は40代位の中々渋い人だった。青褪めた表情で土下座している、子爵様はでっぷり太ったヒキガエルのような男だった。


 土下座しながらも、「準男爵ごときが子爵の私に対して、無礼な態度を取るなど許される事では無いぞ、賓客として扱うのだ」


 と、訳のわからないことを言い始めた。


 自分から勝手に戦争を仕掛けておいて、負けが確定した途端に、その言葉が出るのがスゲェと思った。


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