第3話 お約束

 教えられた冒険者ギルドに向かう。一番大きな通り沿いに、この外側の街の中では比較的大きな建物が在った。『冒険者ギルドファルム支部』と書かれた看板がかかっている。


 大きめの扉を開け、中にはいると酒場が広がっていた。まだ日は高いのに半分以上の席は埋まり、色々な人種の男女が楽しそうに酒を飲み料理を食べていた。


 酒場の奥に銀行のカウンターの様な場所があり、衝立で10箇所くらいに区切られ、それぞれのブースに受付の人が並んでいる。俺はその中で新規登録と書かれているブースに向かった。


 受付には、20前後に見える可愛らしい女性が居た。

「あのー登録お願いしたいんですけど?」


 「このブースにまっすぐ来れたってことは、字が読めるんですね?凄いですー」

「どうやらこの世界での識字率はあまり高くないようだ」


 「私は当ギルドの新人登録ブースの担当ミチルと言います。登録完了までよろしくお付き合い下さいね」

 と、努めて明るく挨拶された。


「コウキと言いますよろしくお願いします」貴族がいる世界だし姓を名乗ろのはよくないと思い名前だけを名乗った。


 「早速ですが紹介状のような物はお持ちですか?」と聞かれたので、先ほど受け取った紙を渡した。


 その紙を見たミチルが、「ファルム家のお嬢様からの紹介になってるじゃないですか、何故貴族様からの紹介状ををお持ちなんですか?」


 「まぁ成り行き上です」


「かしこまりました、ギルドに登録させていただきます。ランクはFランクからスタートして、実績次第で上昇していきます。F→E→D→C→B→A→S→SS→SSS→X→Zの11ランクが御座います。Zランクは最高位で総帝様1名だけです。Xランクは各属性、武器種による最高位の帝が付けるランクでございます。一般ではSSSが最高位ですね。Bランク以上に上がる為には、ギルドの定める試験を受けて頂く必要があります。ランクによって受けることが出来る依頼に制限がございますので、頑張ってランクを上げて下さいね」


 「最初はみんなFランクからになるのかな?」

「ご希望があれば編入試験を受けていただくことで、Cランクまではスキップすることが可能でございます」


「但しこの試験は現役の該当クラスの冒険者を1対1で倒さなければなりませんので、非常に難易度が高くなります」


 「コウキ様のJOBをお聞かせ頂けますか?」


「あぁJOBは無職です」


 「はぁ無職だと大した活躍は出来ませんよ?神殿でJOBを取得されたほうが良いですね」


「JOBは何か条件とかあるんですか?」

 「LV5以上になって、LV20までの間に神殿で祈りを捧げることで神託を得ることが出来ます。この世界ではJOB次第で有利な職業は決まってしまいますので、常識ですよ?子供の頃に親からお聞きになってないんですか?」


「俺は子供の頃の記憶とか無くて、ていうか昨日までの記憶が曖昧なんです。LV20を超えてしまった場合はJOBには付けないんですか?」

 「JOBにつかないままLV20を超えた方は過去に一人もいらっしゃらないので、心配は無用かと思います、概ねLV20だとCランク相当の冒険者になられますので、どうされますか?Fランクでそのまま登録されるか昇格試験を受けるかは?」


「ちょっとFランクで出来る依頼を見てからにさせて貰って良いですか?」

 「構いませんよ、常時依頼の討伐依頼は、ランク関係なく討伐証明部位をお持ち頂ければ達成扱いになります」


 コウキは壁に掲示してあるFランクの依頼を眺めるが、ドブさらいや迷子のペット探し、薬草採集などの項目が並んでいる。常時依頼に目を移すと、オークの討伐、グレーウルフの討伐などが並んでいた。しまったな昨日ちゃんと討伐部位とか採取しておけばよかった。各貢献ポイントも表示してあり、貢献ポイントに因るギルドランク一覧表も討伐掲示板の横に、掲示してある。


 あーこれなら普通に常時依頼こなすだけでもCランクまではすぐに行けそうだな。


 更に掲示板を眺めると、本日の買取相場表と書かれた、一覧表が在った。


ウサギ肉1k300G

オーク肉1k500G

ボア肉 1k1000G

ミノ肉 1k1500G


薬草   10枚 20G

毒消し草 10枚 30G


ボアの牙    1本300G

一角ウサギの角 1本300G

ミノ角     1本1000G


うさぎの毛皮 1枚 300G

ボア毛皮   1枚 1000G

ミノ革    1枚 2000G


鉄    1k   10G

銅    1k   100G

銀    1k   5000G


金    1k   30万G

白金   1k   100万G


ミスリル 1k   500万G

オリハルコン1k  1千万G


アダマンタイン1k  1億G

ヒヒイロカネ 1k  3億G


但し素材は、状態によって価格が変動します。


 鉱石系が馬鹿みたいに高いな。でもミスリルなんて金属見たことないしな。

金の相場から考えると、Gの価値は概ね日本円の10倍ってとこかな?


 ひと通り見終えた俺は、カウンターに戻った。

「昇格試験は希望しません。Fランクからのスタートでお願いします」と伝えた。


 すると後ろのテーブルで飲んでいたやたら体のでかい男が、大笑いして


「おい兄ちゃん最初からそんなビビってるようじゃ冒険者なんて勤まらないぜ?みんな自分の実力を知るためにも少なくともEランク程度の試験は受けるのがルールってもんだぞ」


 ・・・これはお約束展開なのか?


「腰にぶら下げてるやたら立派な剣はただの飾りか?Fランクスタートで満足するようなやつには不釣り合いだから俺が買い取ってやるぞ、ほら1Gでいいだろどうせ使わないんだから」


 なんかちょっとイラッとしてきた。「オークが喋ったけど、あれは肉で引き取ってもらえるの?」

とカウンターのミチルさんに言った。


 するとミチルさんが吹き出して「確かに似てますけど、オークでなくオークラさんです一応人ですのでお肉の引取は無理です。


 オークラは顔を真赤にして、このCランク冒険者筆頭の俺を馬鹿にしやがったな、試験を受けさせてもらえないだけで、実力はAランクにも引けを取らない俺を、コケにしてただで済むと思うなよ、おい受付の女こいつはCランクの試験を申し込んだって書類に書け、直ぐにぶっ殺してやる。


 ミチルが俺に聞いてきた「あんなこと言ってますけど、どうしますか?当然断ってもいいですけど、ちょっとしつこいですよ?」


 廻りにはいつの間にか酒場に座ってた人達がみんな、俺を取り囲むようにして囃し立ててる。

 んーどんだけ強いんだろこいつ?と思った瞬間に謎スクリーンが表示された。


オークラ 一応人 男

LV35

JOB 重戦士LV25


HP   9000

MP    500

攻撃力   90

防御力   90 

敏捷性   30

魔力    10


魔法防御  30

運     10


 あー想像はできたけどやっぱり雑魚だな、でもこれでAランク相当の実力なのか?俺もしかしてチート野郎なのか?


 「そうだな、後々絡まれても面倒臭いから、今のうちにイベントは終わらせておくよ、受けるね」

「イベント?ですか、良く解んないけど受けるんですか、ここでは結構強い人ですよ?」


 「あーどこでやるんだ?ここでいいのか?」

「ここだと、設備が壊れたりすると喧嘩両成敗で賠償金請求されますので、訓練場がよろしいかと思いますよ?」


 そして、その場に居た全員で地下の訓練場に降りていった。「ここでは致命傷を受けた場合は訓練場の外に転移させられて、復活します。怪我も完治しますが24時間は能力が全て半分になります」ミチルが説明してくれた。完全復活するなら遠慮はいらないな。


 ギャラリーが見守る中、俺とオークラの戦いは始まった。最初はオークラに攻撃させてやる。自分の身長ほどもある棍棒を振り回している。どう見ても、オークかトロルにしか見えねぇな。昨日のオークとの違いは精々服を着てるとこくらいだよ。


 棍棒が振り回される中を、全て避けている、きっと当たっても大した事無いんだろうけど、心情的に痛そうな気がするしな。オークラがますます激昂して、棍棒を振り回す速度が上がってきた。この辺がこのオークの限界かな?と思って、振り回してくる棍棒を持つ手首を掴み、合気道の要領で壁際に弾き飛ばした。ゴロゴロ面白いように転がっていく。


 本で読んだ程度しか、合気道のことなんか知らないけど、今の優れた動体視力の中では、書いてあったことがなんとなく理解できる。力に逆らわず、受け流してやるだけでいい。それで勝手に自分の力を、自分自身にダメージとしてしまう。


 「今のは躓いただけだ。今度こそそのにやけた面を叩き潰してやる」

 再び、突進してきた何度やっても同じだけどな。面倒臭いから終わらせよう。俺は剣を抜き構えた。振り回してくる棍棒を見据えて棍棒を真っ二つに切り落として、返す刀で両腕を切り落とした。切り口から血が吹き出したが、そのままオーク野郎の姿は外に転移させられた。棍棒は床に転がったままだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る