第37話 王都の奴隷商
俺はユーリと王都の奴隷商へ向かう事にした。
「なぁユーリ、奴隷商に行くことに対して、辛いこととか思いだしたりしないのか? 無理に一緒に行かなくても良いんだぞ?」
「コウキ様と一緒に行動出来るならば、例えそこが地獄であっても私にはパラダイスでございます。それに今回は奴隷商と言えども、私と同じような辛い思いをして居る者を救うという、大切な使命を帯びております。私はこれからの人生を、コウキ様の横に並び立ちつつも、理不尽な奴隷制度に拠って辛い思いをしている者を救う事を、ライフワークとしていきたいと思います」
「ユーリ、余り背負い込むなよ? ユーリの人生を楽しむことが一番大事なんだからな」
「私は奴隷制度自体に反対とか、そんな政治的な考え方ではないのですよ? あくまでも理不尽に囚われている、これからコウキ様を支える仲間を増やしたいだけですので、そういう人材を見つけ出せることが楽しみなのです」
「まぁユーリが好きな様に、行動してみたら良いさ」
マップ機能をONにして、王都の奴隷商を検索してみた。
……何だこれは、奴隷商表と奴隷商裏に別れて表示されている。
しかも、表が3軒に対して、裏が20軒も存在する。
なんだか、世界の闇の部分に触れてしまいそうだな。
『ナビ、奴隷商裏とはどう言う分類なんだ?』
『違法組織により攫われてきた人々が、主に性的虐待や人体実験を受ける事を目的として、囚われています。顧客は裏組織であることを理解しながら、利用していますので同罪のようなもので御座います』
……闇が深いな。
これは裏に関してはタウロ子爵から情報を集めた上で取り組んだほうが良さそうだな。
今日は表組織だけにしておこう。
マップで確認した奴隷商表と表示してある店舗を訪れる事にした。
しかし、3軒ある表のうちの一軒は真横に裏の表示も重なっている。
これはきな臭いな、ここの店は今日は辞めておこう。
ファルムの奴隷商と比べても、かなり大きな店に到着した。
ここでも玄関には、重装備の門番が立っている。
門番に告げる。
「奴隷を見せて貰いに来たんだが大丈夫か?」
重厚な扉を押し開いて、店内に招き入れられる。
広めの応接室に招き入れられ、女性従業員により紅茶を出され3分ほど待つと、店主らしき人物が入ってきた。
「ようこそいらっしゃいました。当奴隷商の会頭をしておりますベルモンドと申します。早速ですが本日はどのような奴隷をお望みでしょうか?」
「接客の得意そうな女性を見せて欲しいと思います」
「それではまず、お客様の身分証を確認させて頂いてもよろしいでしょうか?」
と尋ねられたので、Bランクの商業ギルドの身分証を提示した。
「Bランクの商人様なのですね、お若いのにファルムのような大きな街で認められて居るとは、さぞかし遣り手の商人様なのでしょうね」と、笑顔で身分証を返してきた。
最初から欠損者を見せろと言うと怪しまれると思い、当たり障りのない要望を述べた。
「大変お美しい奥様をご同行されているという事は、性的な事をお求めでは無いというお考えで宜しかったでしょうか?」
「ああ、そう言う事は求めていない。人当たりの良さそうな方を望みます。人種は問いません」
「畏まりました。何人か見繕ってまいりますが、ご予算をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「予算に上限などは設けていないが、今日は2000万G程用意してある。良い人物だと思えば購入したい」
「それは又、随分なご予算でございますね、畏まりました選り優りの者をご紹介させて頂きます」
ユーリが少し顔を赤くして、嬉しそうな表情をしている。
奥様と呼ばれた事に反応しているのかな? ここで突っ込むのは危険だから放置しとこう。
10分ほど経過して、ファルムの店と同じような貫頭着を着用した女性が、10名ほど案内されてきた。
それぞれに美しいし、確かに接客に向いていそうな雰囲気を持つ。
ベルモンドが「それでは私は15分程席を外させて頂きますので、ご検討下さいませ。お客様の右手から8名が借金奴隷、左手から2名が犯罪奴隷となります」とそれぞれの簡易プロフィールを載せた紙を渡され、ベルモンドは退室していった。
「ユーリ、この中から1人選べ、任せる」
ユーリは頷くと、リストを手に1人ずつに簡単な質問をした。
選り優りと言うだけのことはあるな、値段も選り優りだぜ。
リストに表示されている奴隷の値段は、一番安い者で100万G高い者では1800万Gの表示がされてあった。
ちなみに1800万Gの値段は、20歳のエルフ女性に付けられていた。
借金奴隷だが、20歳で日本円で1億8千万もの借金を背負わされるとか、何が在ったんだろう?
ユーリが一通りの女性と話をして、決めたようだ。
「この娘を購入したいと思います」
ユーリが選んだのは、15歳の獣人女性でスーザと言う娘だった。
犬人族で折れた耳が頭の上にちょこんと乗っかっている、犯罪奴隷で値段は500万Gが付いてた。
きっとこの娘は俺達が買わなければ、間違いなく性的な愛玩奴隷として売られて行くだろうから、それを見越した選択だったんだろうな。
俺はもう一人兎人族の女性も気になっていたが、その娘は300万Gの借金奴隷だった。
まぁ借金奴隷だと、すぐに性的な事を求められたりする事は無い筈だから、大丈夫だろ? 今日の本題は欠損者の保護だしな。
そして15分が経ち、ベルモンドが戻って来た。
「お気に入りの娘はいらっしゃいましたか?」
「ああ、スーザを貰おうと思う」
「畏まりました、直ぐにご用意させて頂きます。オプションは宜しかったでしょうか?」
セリフが見事にマルクスと同じだな、決まってるんだろうか? と、思いながら、
「メイド服で頼む、スカート丈も普通のものでな、後欠損奴隷を見せて貰えるだろうか?」
「欠損者でございますか? 失礼ですが欠損者を購入されて何をさせるつもりでございましょうか?」
俺はこういう事を聞かれることも、想定しておいたので、用意していた答えを口にした。
「薬師や偽装具師を育成して、欠損の介助ができる義肢や義足、病気の治療が行える新薬の開発を行いたいと考えております。その為の被験体として、出来る限りの事をしてあげたいと思っております」
「そうでございましたか、それは素晴らしい志でございますな。実際欠損者に関しましては、当方でも経営を圧迫するだけの存在でございますので、扱いに憂慮しております。現在12名の欠損者と罹病者を抱えておりますが全員を見られますか?」
「よろしくお願いします」
ベルモンドの後ろに付いていき、地下の欠損者が隔離されている部屋へ向かった。
うめき声が漏れ聞こえ、死臭とも思える絶望的な匂いが鼻を突く。
男性が5人女性が7人居た。それぞれに重篤な欠損が在ったり、末期の様相を呈した病にかかっていたりする。
「欠損者達の値段はいくらですか?」
「申し訳ございませんが、当店ではこれまでこの者たちを養って参りました。その部分を少しでも回収させていただきたいので、隷属門の書き換え費用に5000G、当方の取り分として5000Gを求めさせて頂いております。宜しかったでしょうか?」
「理にかなった価格提示だと思います。それで構いません全員を頂きます」
「ありがとうございます。それでは早速御用意させて頂きます」
「人数が多いので馬車を2台頼みたいのですが、お願いできますか?」
「畏まりました。ファルムまでご利用されるのでしょうか?」
「いえ、数日こちらで滞在するつもりですので、移動は王都内です」
「ではその様に手配させて頂きます」
金貨で620万Gの支払いをして、全員の奴隷紋を書き換えて貰い奴隷商を後にした。
馬車で、ハッサンさんの王都店がある場所の裏口まで送ってもらい、全員を降ろした。
「ユーリ、これから王都で奴隷を買う機会は増えていくと思うから、王都での拠点を用意しておこうと思う。毎回ハッサンさんの所を使わせてもらうのも気が引けるしな」
「はい、私もそれがよろしいかと思います。ここでは転移をするにしても人目が気になりますし、奴隷の方たちに声を掛ける事もはばかられます。私の時もそうでしたが、ご主人様に実際に声を掛けて頂けるまで、不安しかございませんでした」
「そうだよなぁ、俺の準備不足だ反省しよう。経験しないと解らない事があるのはしょうが無いが、少しずつ環境は整えよう」
俺はハッサン商店の裏庭に人が居ないことを確認して、ファルム領のオークに滅ばされた廃村に転移を行った。
一度では無理だったので、2度に渡って転移を行い全員を旧村長宅であろう、一番大きな建物に集めた。
そこには、既にジョアンナとカイルの夫妻が受け入れ体制を整えて、待っていた。
カイル達の時と同じ様に、全員に伝える。
「俺は、お前達を奴隷として買ったコウキと言う者だ。お前達を買った以上は、俺のために働いてもらう。その為にお前達の欠損や病気はすべて治療してやる。今日はしっかりと休み体調を整えろ。そして明日からはしっかりと働け」
それだけ伝えると、欠損者を一箇所に集めて【治癒】を発動する。
柔らかな光が包み込み全員の病や欠損を全て完治させた。
本人たちが感涙の涙を流す中、事後をカイル夫妻に任せて、再びユーリと共に王都へと向かう。
そのまま王都の冒険者ギルドに向かい、王都での拠点となる家を借りるための申込みをする。
俺が受付カウンターに行くと、丁度ジェイクさんが出て来ていたので声を掛ける。
「ジェイクさんこんにちは、王都での拠点になる家を借りに来たんですが、何処か良い所を紹介してもらえませんか?」
「オメガか、何だか色々やらかしてるみたいだな、マスターから聞いたぞ。拠点かどんなとこがいいんだ?」
「少し広めの物件をお願いしたいです。場所は問いません。住む訳では無いですから、家の作りとかには拘りは無いです」
「そうか、少し待っていろうちの女の子に用意させる」
そう言って、ジェイクさんは女性の受付の人に指示を出して居た。
カウンターの前に広がる食堂兼酒場のスペースから、鋭い視線が集まっているのを感じる。
俺の優れて聴力が、ささやき声を認識した。
「あいつがオメガらしいぞ、あいつを倒せれば俺達のパーティも一気に一流パーティの仲間入りが出来る。ちょっと吹っ掛けて来いよ。見た感じひょろいし大して強くなさそうだ」
あぁ、名前を上げたい馬鹿達の良い的として認識されちゃってる? 俺……
俺に絡もうとしてるパーティの男たちが、席を立って俺の方に一歩を踏み出した時、盛大に転んだ。
「誰だ、何しやがる。この俺の足を引っ掛けやがったな。ぶっ殺すぞ!」
「ほぉ誰が誰をぶっ殺すって? もう一度俺の目を見ていってみろ」
そこに居たのは『ドラゴンファング』の双剣使いジョーだった。
横にメリーナとジュリアも居た。
「げっ、ドラゴンファング。すいません、俺が勝手につまづいちまっただけです」
「コウキさん、お久しぶりです。この間コウキさん達にやられちゃってから、俺らも思い上がっていたなと反省して、今はみんなで鍛え直してますよ。今度又対戦して下さい」
「あージョーか、この前はゴメンな。いきなり終わらせちゃって、今度はもっとゆっくりと楽しもうな」
「私達なんか、何もしないうちにいきなり燃やされちゃったからね、あれから火を見るのがトラウマだよ」
と、ドラゴンファングの弓使いジュリアが笑いながら言ってきた。
「コウキさん達はファルムに戻ったって聞いたけど、ずっとこっちに居たんですか?」
「あぁちょっと用事があって、戻ってきたんだ」
「戻って来たって……往復するだけで1月以上掛かるはずですけど?」
「まぁ色々秘密があるんだよ、今度うちのメンバーと一緒に飯でも喰おうぜ、こないだは居なかったけど、うちのメンバーのユーリも紹介しとくな、あ、ユーリってランクとかあるのか?」
「はい、昔Aランクまで上げていました」
「へぇそうなんだな、と言うことでAランクのユーリだよろしくな」
「てかコウキさん自分のパーティのメンバーのランク知らないとかありえないんスけど?」とジョーに突っ込まれた。
「ギルドカードを紛失してしまったので再発行をお願いしたいんですがよろしいでしょうか?」
「あー全然いいぞついでに頼もう」
その会話をしていた時に、受付の女の子が資料を用意して声を掛けてきた。
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