第33話 それぞれの動向
(王都ギルドマスター)
「ジェイクちょっといいか?」
「いかがなさいましたかマスター」
「俺はちょっとオメガに興味があるから、ファルムまで見に行ってくる」
「又いきなりですね、王宮の方は大丈夫なんですか?」
「そっちはジロウがいるから問題ない、まぁ何か聞いてきたら新しいダンジョンの様子を見に行ったとでも言っておいてくれ」
「ジロウ様もご苦労が耐えませんなぁ、急ぎの用事がある場合は念話を入れさせて頂きますので、よろしくお願い致します」
「ゼストまでは転移で行けるが、ゼストからファルムまでは馬車での移動になる。一週間程の道程になるかな?ゼスト侯爵の病状も芳しくないと聞いていたから、ついでに見舞いをしてから行く、長く国のために尽くしてくれたが、おそらく今回が最後の対面になるだろう」
「お噂は伺っておりますが、跡継ぎ問題で随分ときな臭い噂を耳にしますが、大丈夫なんでしょうか」
「領内の事は余程のことがない限り任せるが、目に余るようなら厳しい処分も考えねばならぬな」
「因みに今回はお忍びの旅でよろしかったのでしょうか?」
「そうだないつも通りに貧乏伯爵家の次男タウロ子爵として赴く」
「あまり派手な立ち回りなどはなさいませぬようにお供は誰を連れて行かれるのですか?」
「槌帝と雷帝を連れて行く2人共アーガイルとも面識があるし、槌帝はオメガを呼び出してしまった張本人の一人だからな、ちゃんと謝罪させて、出来ることなら友好関係を作っておきたいと思う」
「それは、良いことだとは思いますが、なぜ槌帝を?あの娘だと説明不足で話がややこしくなるような気しかしないのですが?」
「他の当事者がみんな、既に地元へ帰ってしまってたからな、カプラはそもそも俺の管理下にもないし、しょうが無い」
「くれぐれもコウキと直接戦うことはお避け下さい。私ですらあやつの魔法の一撃を避けることすら出来ませんでした。もし総帝様と戦うようなことがあれば、それこそファルムの街が壊滅するほどの事態になっても何ら不思議がありませんので」
「おいおい、俺を戦闘狂扱いするな、それにファルムもこのノア王国の大切な領地だ。俺が壊滅させたりする訳は無い」
「その言葉を信じています」
◇◆◇◆
そしてタウロ子爵一行はゼスト侯爵領に転移で移動し、早速ゼスト侯爵の見舞いに向かった。
「ようこそおいで下さいました。タウロ子爵、槌帝と雷帝も久しいな」
そこには、メチャクチャ元気なアーガイル・フォン・ゼスト侯爵の姿があった。
「一体何があったんだ?俺はアーガイルがもうくたばった頃かと思って見に来たんだぞ?」
「まぁ色々御座いまして、もう王宮へ使者は出したのですが、入れ違いになってしまったようですな。私は隠居させて頂く事にいたしました。王宮からの返事が戻り次第爵位の委譲をし、ファルムで余生を過ごしたいと思っておりまして、後は5男のゼフィールに継がせますので、今後もよろしくお願いしますぞ」
「その色々を聞かせて貰えるか?」
ゼスト侯爵は人払いをした後で、コウキとハッサンが、ゼゼコとゼスタールの争いに不本意ながら関わり、結果として死の淵をさまよっていた侯爵を完治させ、今回の決断に至ったまでの話をした。
「なんと、オメガは教皇や聖女にすら治療不可能と言わしめた病を根治し、俺以上の転移能力を使えると言う事なのか?」
「まぁそう言う事になってしまいますかな?あやつの治療魔法を受けると本当に気持ちがいいので、ファルムで静養すれば、ちょくちょく頼めるかと思いましてな」
やつはJOBは無職のはずだ。何故そこまで色々な能力を扱えるのだ。果たして俺が制御できるやつなのか?だが今まで話を聞いた限りでは、悪意の男では決して無いな。問題はこの世界に呼び出されたことを、恨んでおらぬかという点くらいか。
「王都への使者はいつ出した?もう付いている頃だったら俺がひとっ飛びしてサインして持ち帰るぞ。俺達もファルムへ向かう所だから、一緒に行こうではないか」
「旅は道連れと申しますからな、是非その提案に乗らせて頂きましょう。実務は既に全て引き継ぎが終わっておりますので、後は国王陛下からの叙爵を受ければ
「あー王はしばし多忙で叙爵の儀式は1月程後になるが、書面で先に実務面での引き継ぎは終わっているとの承認を出すように伝えておこう」
とゼスト侯爵にウインクした。
ちなみに、槌帝ことサリアと雷帝は、総帝が国王である事実は知らない。
各帝は、総帝と同行する際には、あくまでも子爵と呼ばせることを徹底し、総帝の風貌が世に知られぬ様に細心の注意を払っており、同様に世間一般の人々への認知では、国王、総帝、王都ギルドマスターはそれぞれ別の人物だと言う認識に情報操作されている。
翌朝、王都へ転移で往復しタウロ子爵が王都からのゼスト侯爵領の継承と、ゼスタール男爵の陞爵を認可した書面を持参し、1月後に叙爵の儀式のために王都を訪れるように指示を出した。
そして昼前には一行は元ゼスト侯爵アーガイルと、側付きの護衛騎士二人を加えてファルムへ向けて旅立った。
◇◆◇◆
一方コウキは、ユーリと二人で貰った土地を囲む外壁を設営しつづけ、ようやく周辺との隔離を完了した。
コウキの所持する高性能なマップスキルによりこの地域内の魔物の確認も行いこの領域の魔物の殲滅も確認された。
その足で、ユーリと共に冒険者ギルドへと向かいイザベラへの面会を求めた。
「あら、今日はユーリを連れていきなり3Pの誘いなの?何度も言うけど私はヴァージンなんだから最初くらいは二人きりでノーマルプレイにして欲しいわ」
「やっぱり要件はミチルに頼んで帰る」
「もう本当に冗談が通じないわね、どうしても3Pがいいならしょうが無いわよ」
「お前の脳味噌は、何処が間違いなのかも理解できないのか?」
「それで、わざわざ来たのはあの土地の事でしょ?移民の受け入れの申込みかな?ハーレム要員の女性のみ5000人位とかそう言う要請だったら奴隷商に頼んだほうが良いわよ?」
「大体合ってるがお前の妄想部分を抑えろ」
「もう、少しは併せなさいよ、具体的な希望とかあるのかな?」
「ああ人族じゃない種族の移民を受け入れたいから、それを全国のギルド経由で申し込みしたいんだが」
「ふーん、そう言う方向性のプレーが好みなのね想像以上に変態だわ」
「お前と話すと余分に疲れるからもう帰るぞ、通達だけ頼んどくぞ」
「お茶くらいは飲んで行きなさいよ。コウキあなたね欠損治療とか出来るんでしょ?さっき奴隷商って言ったのわね全国に犯罪奴隷として扱われている者のうち、欠損者がただ生かされているだけの状態で囚われている割合って凄く多いのよ。その多くは奴隷の主の違法な扱いに拠って欠損を負わされ、元の主が捕縛されてしまった後の奴隷たちなのよね、多くは元々戦争犯罪者として囚われていて、本人たちに何の落ち度もないのに辛い人生を背負わされているの」
「ああ、元々ユーリ達も同じような境遇だったから、もっと多くの人々が同じ扱いを受けているんだろうとは思っていたが、そう言う話なら聞いてもいいぞ、ちゃんとエロ抜きで話せよ」
「抜くって、やっぱり溜まってるんだね。後で二人っきりでなら溜まったものを絞り出してあげるからね。具体的には移動すら困難なのは解るわよね?この国の中だけでも2000人以上はそう言う境遇の人々はいると思うのよね。出来る限りで構わないから、なんとかして上げたいのこの領内の奴隷商のマルクスは、奴隷商としては極めて良心的な存在ですけど、他の奴隷商は扱いももっと雑であったりする場合が多いのよね」
「いいから、真面目な話とフザケた話を混ぜるな。俺が全国を回っても問題は起こらないのか?」
「貴方のランクがもう全国に通達されているから、その冒険者証で冒険者として動き回れば、この国だけでなくこの大陸内なら問題は無いはずよ」
「そうか、それならこっちの事はカイルたちに任せて人集めの旅に出る選択も悪くないな」
「コウキは転移で戻ってこれるのだから、旅に出てもちゃんと私の所へ顔を出しなさいよ」
「まぁ用事がある時は、顔を出す。そう言えばオークの残党はどんな状況だ?旅に出るにしてもそこまでは片付けて行きたいからな」
「そうね、オークラの報告では以前程の数ではないけど、まだ普通の状態と言うには程遠い数が確認されているそうよ。恐らく前の集落を討伐した時の残党が居ると思うのよね。あの数が居た割にキングが見つかってなかったし、ジェネラルが2体っていうのも少ないわ」
「じゃぁさ旅の資金も欲しいから、うちのクランでオークキング討伐を引き受けさせてくれよ」
「解ったわ、森の事は任せるわね。キングが残っていたとしたら更に女性が囚われている可能性も高いしハーレムも充実するわね」
「明日から一週間程度で片付ける範囲だけ決めておいてくれ。余り森の奥の方だったりしたら、この街への影響も少ないだろうしな」
「そうね、それは明日の朝までに地図に描き込んで渡すわ」
◇◆◇◆
そして翌日から、オークの集落が在った場所周辺からの探索を始めた。メンバーは俺、カイル、アラン、ハンク、ユーリ、サリナだ。
カオルとフローラもそれぞれの店のオープンに向けて忙しくなってきた。カオルには30人フローラには5人の女性を付けて、開店準備をしている。
ジョアンナは残りの女性達と2軒の屋敷と鶏の世話を担当している。
初日は30匹ほどのオークを狩ったが、上位種はオークリーダーが3匹だけだった。サリナとユーリが居る事でオークの方が勝手に寄ってくるので効率は良い。俺が投石だけでどんどんオークを倒していくのを見て、サリナが驚いていたが、少しは剣の腕を磨かないといけないよな。
アランに基本的な事は習うのだが、アランの全力でも俺にはスローモーションに見えてしまうので、今ひとつ緊張感のある立ち会いが出来ない。本当に強い敵と対峙した時が不安だ。
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