第49話 裏奴隷商掃討作戦⑦

 取り敢えずのペスカトーレの拠点となる裏奴隷商とカジノは潰したけど、ワンハイが扱っていたはずの教会の孤児院から攫われた子供たちの救出は出来てない。


 何処に攫われているのかは、やっぱりハンクに任せるしかないなと思って酒場で待ち合わせた。


 すると、ハンクが来る前に、俺を裏カジノに最初に連れて行った女『メリー』が近寄って来た。

「コウキさん、やっぱり私を愛人にしてよ。裏カジノも裏奴隷商も全部無くなっちゃって、お小遣い稼ぎが全然出来なくなったんだよ」

「あぁ俺は決まった女を囲う気は無い」


「つれないわねぇ『オメガ』さん。じゃぁ情報を買ってよ、こう見えて私色々な情報通なのよ」

「お前……何者だ? 」


「まだ内緒よ、敵では無いわ」

「いいだろう。どうせ俺が何の情報が欲しいのかもとっくに解ってるんだろ?」


「裏取引で売られる子供達は、司教の愛人宅の地下よ」

「聖職者の癖に愛人まで囲ってやがったのかよとんでもねぇな」


「オメガは奴隷紋の書き換えもどうせ出来るんでしょ? ワンハイは連れてこられた奴隷をオークションに掛けるだけの関係だったから、殆どこの件では教会の司教派の連中だけが黒幕だわ」

「そうか、少しだけ安心した。ワンハイを今一つ信用できないでいたからな」


「まぁそれでもマフィアだから色々やらかしてるのは間違いないけどね。でもペスカトーレよりはよっぽどましだし、マフィアが居ないとチンピラが蔓延って余計に危険な街になるから、チンピラ対策に置いていたほうが良いわ」

「メリーは随分、裏社会にも詳しそうだな。名前は源氏名か?」


「どうでしょうね、オメガの前ではずっとメリーでいいわ。どうせハンクだけでは手が足らなくなるよ、ビジネスライクにお付き合いしましょう」

「まぁいいだろう、裏切ったり俺を嵌めようとすると容赦はしないぞ」


「出来るだけ覚えておくわ」


 メリーが消えたころに漸く、ハンクが現れた。

「ハンク珍しく遅かったな、何かあったのか?」


「すいません。ちょっと気になる騒ぎが起こってたもんで見届けてました」

「どんな騒ぎだ? 」


「教会の庇護を受けている孤児院のシスター達が、孤児たちが攫われる事件が相次いで居る事を、訴え出ていたんです。タイミング的に今まで騒いでなかったのに、急に行動するのが何だか怪しいと思いまして」

「確かにな。きっと司教の共犯者が保身に走って、司教に全て罪をなすり付けようとしてるんじゃないか?」


「そうですね、それなら何人か救い出して見て、孤児院に戻して様子を見るのはどうでしょうか? 」

「悪くない手だが、俺的に子供を囮に使うのは無しだな」


「すいません思慮が足りませんでした」

「逆にシスターをナンパでもしてみるかな、孤児を奴隷として売り飛ばすようなシスターなら金で転びそうだしな」


「それはアリかも知れませんね、では案内しましょう」


 さっそく、シスター達が孤児院の子供たちが攫われていると訴えかけている広場へと足を運んだ。

 そこでは5人程のシスターが、『子供達を返してください』と書かれたプラカードを持って立っていた。


 俺は近づいていき「詳しく話を聞かせてもらえませんか?」と言いながら金貨を握らせた。

 この国の基準で金貨の価値は1万G日本円で10万円の価値がある。


 ちょっと金額の多さにびっくりしたようなシスターは「私に解る事であればお答えしましょう」と返事を貰い、他のシスターに一言告げて近くのカフェへと場所を移した。


 こちらが二人だと警戒をされると思い、ハンクは遠くから監視させる事にした。


「早速ですが、子ども達が攫われたというのは、犯人に心当たりがあるんですか?」

「私たちなりに調べた結果、マフィア組織の裏奴隷商で売られているという情報を聞きました。マフィアが相手ではとてもじゃないですが、私たちの様な力の無い物には、太刀打ち出来ないので、こうして力を貸していただける方を募っていたのです」


「そうなんですか、俺は冒険者でコウキと言います。違法奴隷の救出という事であれば力を貸す事に依存はありません。ただし言われることに嘘が無い場合であればですが」

「本当でしょうか? ありがとうございます。私はシスター・アリアです。相手はワンハイと言うマフィアなんですが、それでも構わないと仰っていただけるんですか?」


「ああ、別に問題は無い、だけどその前に確認させて欲しい事がある。フィオーネ聖教の司教が黒幕だと言う噂も聞いたが、この情報は正しいのか?」

「私達もその噂は聞き及んでいます。子供たちに優しい司教様でしたが、噂が出て以降お姿を消されてますので、私としては信じたいのですが、民衆の方々は良く思われてない様です」


「ハッキリとは解らないという事か?」

「ハイ……」


「まぁいい俺は犯人捜しはどうでもいい、大事な事は奴隷として攫われた子供の保護だ。どこに行けば良いのか解るのか?」

「ワンハイが拠点にしていると言う噂のある酒場の位置しか解りません。子供達がどこに連れて行かれたのかはさっぱりです」


「そうか、俺と一緒にワンハイの元へ乗り込む度胸はあるか?」


 そう聞かれたシスターは一瞬驚いたような顔をしたが、決意を決めたのか「ハイ」と、返事を返した。


 どうやらこのシスターは本当に、善意の人の様だな。

 俺は早速シスターと一緒にワンハイの酒場へと向かった。

 ハンクも影から付いて来ている。


 ワンハイの酒場へ入ると、俺の顔を見てワンハイが近寄って来たが、目配せをして声を掛けるのは止めさせた。


「極悪マフィアのワンハイがこの店に居ると、教会のシスターに聞いてきたが間違いないか?」

「ワンハイは俺だが極悪とは失礼だな。教会のシスターがそう言ったのなら、言った本人は攫って売春宿にでも売り飛ばさないといけないな」


 そのやり取りを聞いてシスターは青い顔をして、うつむいた。


「お前は教会の孤児院から攫われた子供を奴隷として売り飛ばしてるのか?」

「出所は知らんな、商売上の付き合いで連れてこられた商品を、俺達のコネクションで売っているだけだ」


 と、ワンハイが答え、俺はその答えを聞いてシスターに確認した。


「あー言ってるがどうなんだ? こいつらが攫ったって言う証拠はあるのか?」

「いえ、私は、攫われた子供がここで売られていたという話を聞いただけで、誰が攫ったかまでは知らないです。ただ当然取引相手が誰かなのは、知っていると思って……」

「そうか、ワンハイ教えて貰えないか?」


「俺達を舐めちゃいけないぜ、取引相手をばらすような事をマフィアがするわけないだろ」

「だ、そうだがどうするシスター」


「すいません、何も考えつかないです」

「シスター、一つ確認だが今日になって急に行方不明の孤児を探し出したのは何故だ? 恐らく居なくなり始めたのは最近始まった事では無いだろ?」


「それが孤児院は定期的に預かる子供を、移動させる決まりがあるので、そのタイミングで居なくなると発覚がしにくいのです」

「何故そんな決まりになってるんだ?」


「子供同士が仲良くなりすぎると、里親さんが決まっても行きたくないと言い出す子供達が多いので、その対策に、司教様の提案で定期的に移動させるようになりました」

「成程な、やはり黒幕は司教だな」


「邪魔したなワンハイ、今度は教会のシスターの服装の女の子が接客してくれる店でも出してくれ、通うぜ」

「そりゃいいアイデアだな、現役シスターのスカウトした方が、受けそうだな。どうだいうちで働かないか?」


 と、声を掛けられたたシスターが、俺の後ろに隠れた。


 ワンハイの店を出た後で、再びシスターに確認をした。

「子供の隠し場所、例えば司教の愛人の家とかに心当たりはあるか?」

「司教様がその様な、ふしだらな関係を持つとか考えられません」


「そうか、俺の掴んだ情報では司教の愛人の家に捕らわれてるって事だったが、本当に知らない様だな。まぁいい、このまま子供たちの救出に行くぞ」

「あの? 最初から子供のいる場所は知っていらしたんですか?」


「ああ、シスターも信用できなかったから試させて貰った。シスターには衝撃的かもしれないが、今から司教の愛人宅に子供を助けに行く。助け出した子供たちの世話を頼む」

「解りました。でも教会が信用できないならどこに連れて行くのですか?」


「俺の街に保護する。後は見て置け。ハンク突入するぞ」


 そう言って、ずっと影から付いて来ていたハンクを呼び寄せ、司教の愛人宅へと向かった。


 メリーから聞いていたその場所は、結構な敷地がある悪趣味に豪華な屋敷だった。

 そして侵入した屋敷には、露出の多い服装をした女性が3人程居たが、その姿を見たアリアは

「シスター!このような場所で何をなさってるのですか」

「おや、アリアじゃないの、あんたも司教に口説き落とされちゃったのかい? ここに居たら美味しい物食べて、綺麗な服着て、贅沢な生活が出来るから人生楽しめるわよ」


「そんな……私は贅沢の為に教会に入ったわけではありません。子供達は何処へ連れて行ったのですか?」

「あー孤児達かい? あの子達も孤児院に居たら綺麗な服を着る事も美味しい物を食べる事なんかできないだろ? だから人助けだよ。ちょっとお金持ちの貴族様や大商人の相手をするだけで、美味しいものが食べれるんだから幸せな筈さ」


「奴隷紋を刻まれる幸せなど、ある筈はありません。貴女方には必ず神の天罰が下ります」


 まぁ見苦しい展開だな。

 司教の愛人は欲にくらんだシスター達だった。


 こいつらがどうなるかは興味は無いが、取り敢えず邪魔だから寝て置いて貰おう。

 ハンクに指示を出して、3人の女たちを気絶させ、地下の子供達が捕らわれている部屋へと向かった。


 ここでもやはり、違法薬物の加工などを、隷属紋を刻まれた上に強制させられていた。

 その姿を見たアリアは目に涙を浮かべながら一人ずつを抱きしめていた。


 この人は信用していいだろう。


 俺は、80人程捉えられていた子供達を全員フォレストスパリゾートに転移で連れて行き、全員の隷属紋を解き、アリアに世話を任せた。


 ユーリに念話で指示を出し、アリア一人で80人の世話は無理があるので、世話係の人間を出させ、食料を用意してみんなにお腹いっぱいにご飯を食べさせ、全員を温泉に入らせ手暖かい布団で眠らせた。


 司教と愛人たちがその後どうなるのかは知った事では無いが、これで一連の裏奴隷商絡みの事件は今後発生は少なくなるだろう。


 後は既に裏奴隷商で売られた奴隷たちの解放だが、これはワンハイとペスカトーレの双方から取引台帳を入手しており、俺はハンクに命じて王城前の広場に再び看板を立てさせた。


『告、裏奴隷商から奴隷を購入した者は本日より3日以内にフィオーネ聖教の教会に連れて行き解放させよ。聞き入れなかったものは、全員の氏名を公表し、民衆からの批判を浴びる事になるだろう』


 と、記載されている。

 果たしてどれほどの効果があるかは解らないが、もし奴隷が既に死亡していたり3日以内に連れてこなかった奴らには、本当に社会的な死を与えてやるさ。


 教会は、今回の件に一部勢力だけとはいえ、片棒を担いだ責任を取らせ奴隷騒動の後始末は強制的に手伝わせる事にした。


 こちらが掴んでいた事実の部分。

 司教とその愛人のシスターたちに関しては、見つけ次第の拘束、内部審問で厳罰を与えると約束を取り付けた。


 俺は犯罪者なんか興味ないから、どうでもいいんだけどね。

 俺に何かしてきたら、問答無用で叩き潰すだけだし。


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