第32話 開発も始めなきゃね

 俺は皆の奴隷紋を解除した後でユーリとアランとカイルを連れて、新しく手に入れた村落へとやって来た。


 ユーリに精霊魔法を使った整地を習うのが主な目的だ。属性魔法の土属性でも穴をほったり畑を耕したりする事は出来るらしいが、精霊魔法で行えばもう1段階上の整地が出来るらしいので、現地で実地をしながら習う事にした。


 ユーリが木の精霊に語りかけると、木々が整列して村落を囲むように移動する。


「凄いな木が歩いてるみたいだ」


 「これだけでは御座いませんよ」と言い、今度は地の精霊に語りかける。


 すると地面が隆起し村落を囲む壁を作り上げていった。


 なるほどこれは便利だな、だがこのままでは土が隆起しただけの壁なので、強度が足らない。


「ユーリ、この土壁の強度を上げる方法はあるのか?」


 「粘土質の壁ですので、火魔法を使い焦がさないように焼き上げると陶器質の非常に硬い壁となります」


 なる程なぁ、要はセラミックの壁になるんだな、それなら強度も問題ないな。でもこれだけの壁を焼成加工で強度を増すとなると、時間も凄く掛かりそうだな。


『ナビ、もっと簡単に壁の強度を増す方法は無いか?』


 『錬金術スキルを取得いたしました』

『錬成と念ずれば、物質が変質します。土壁の場合ですとセラミックの壁へと変質可能です。


それ以外でも鉱物の合成等が出来ます、但し無から有を作り出すスキルでは御座いませんので、無限に金が出てきたりはしません。金鉱石から金を分離する等は可能です』


 おぉ、夢想スキルいい仕事するなぁ


 早速ユーリの作った土壁を錬成してみると、一度の錬成で村落を囲む土壁が白く輝く強化セラミックへと変質した。


「アランちょっと剣で壁を斬ってみてくれ」


 「了解しました」


 アランが剣を振りかぶり壁に斬りつけると、フローラの作ったオリハルコン合金製の剣の美しく輝いていた刃が欠けてしまっていた。

 折れなかったのはアランの腕と、フローラの打った剣が優れていたからであろう。


「ああ刃が欠けちゃったな、後でフローラに謝って直して貰わなきゃな」


 「土壁がここまで強固になるものなんですか?自慢ではありませんが、私は岩なら問題なく切り裂くことが出来ます。この壁の強度は鋼鉄製の壁を超える物ですね」


「俺の世界では結構メジャーな技術なんだけど、強化セラミックって言ってな、研ぎ直しのいらない包丁なんかも作れるほどに硬い物質なんだよな、俺はそれをイメージすることが出来たから、錬成で効果が出せたんだろうな」


 ユーリも一度の錬成で出来上がったセラミックの壁を見て感動していた。


「コウキ様のスキルが有れば村落より更に外側の土地の境界線をグルリと囲む壁を作ってしまえば、国として独立を宣言する事も可能な程の防御力を誇る土地になりますね」


 そうかぁもし国や辺境伯が色々面倒臭いことを命令してきたりすればそれも又ありかもしれないな。


 「じゃぁさ今日は予定は何もないから、早速俺の土地の周りを壁で囲んで行こうか、夕飯の前まで頑張ろう」


 俺はユーリに精霊魔法のイメージを習い、精霊に語りかけることをしてみると


『精霊魔法を習得いたしました』と声が脳裏に響いた。


 『精霊はこの世界のあらゆる物に宿っています。より具体的に精霊に語りかける事で現れる現象も変わってきます』


 ナビの声が聞こえて、無事に精霊魔法を取得することが出来たようだ。

 今まで感じることが出来なかった淡い光の塊があちこちに漂っているのを感じる。

 これが精霊なのかな?


 「ユーリ!俺精霊魔法を使える様になったみたいだ。ちょっとやらせてみてくれ」


「コウキ様凄すぎます。私は母から精霊魔法を習い続け実際に発動出来る様になるまで10年以上かかりました」

 

 最初は声に出したほうがイメージ柄を伝えやすいかな?と思い、淡い光に向かって語りかけるように口に出してみる。


「大地の精霊よ俺に力を貸してくれ、ここから真っ直ぐに500メートルの長さで高さ10メートル幅1メートルの土壁を作り上げてくれ」


 出来るだけ具体的に言葉にしてみた、意外に口に出して唱えると恥ずかしいもんだな・・・


 俺の言葉は大地の精霊に受け入れられて、望んだ通りの土壁が出来上がった。更に錬成をかけセラミック化させた。


「さすがコウキ様です。最初から成功させてしまわれるなんて凄すぎます」


 ユーリにも素直に褒められた。お世辞ではないと思う・・・


 調子に乗った俺は同じサイズの壁を次々と作り出し、夕方までには全体の半分の範囲に壁を設置することが出来た。


 カイルが話し掛けてくる。

「今回コウキ様が貰われた土地は土地の広さだけで言えば、ファルムの街とほぼ同じ広さの範囲がございます。この調子で開発してしまえば、先程のユーリの言葉ではございませんが、本当にご主人様が独立国家の王と成ることも可能だと思います」



 現時点でファルムの街の人口は5万人だったかな、5万人の人間が暮らすことの出来る広さの土地かぁ、向こうの世界だと個人が所持できるような範囲を大きく超えているよな。


 「アラン、ちょっと聞かせてもらっていいかな?この世界では生活排水やトイレのし尿処理なんかは、どの様に行われているんだ?」


「生活排水は、小川に向かって流しています。トイレの汚物などは各地方領主が所有する犯罪奴隷により、くみ取りをして一箇所に集め、畑の肥料へとされています」


 どうやら独立した下水道の様な設備を整えるのは、まだ一般的ではないようだな。それだと疫病の発生なんかを防ぎきれないような気がするがどうなんだろ?


 「それだと臭いや、病気の発生はどうやって防いでいるんだ?何万人もの人々が暮らす街だとすごい匂いが発生しそうだけどな?」


「街や村は、必ず川に沿って作られますので、そこに流す水路は作られますがそういった水路には、大抵スライムが棲み着き、排水の栄養分や病気の元となる物質を浄化するそうです」


 へーこの世界ではそういやまだ魔物としてのスライムと出会って無かったけど、今の話だとスライムは益獣的な位置づけみたいだな。


『ナビ、スライムは人を襲ったりはしないのか?』


 『魔物ですので襲います。スライムは意思を持たないので、そこに存在する有機物を取り込み溶解してしまいます。殆どの場合は人が襲われた場合溶かされて証拠が残らないので、謎の失踪として処理されてしまいます』


 げ、襲うんだ。しかも証拠が残らない殺人が出来るとか怖すぎるじゃねぇかよ。


 「アラン、スライムが街中に出現して人を襲ったりしたりしないのか?」


「全く無いとは言い切れませんが、各領主はスライム対策として街の水路の出口には必ずスライム用の結界を施すことが義務付けられています。まぁスライム結界の用意してない街など、恐ろしくて安心して寝れませんからね、それにスライムは先手さえ取られなければ、透き通った体内に見えている核を取り除けば倒せるので、子供でも狩りは出来るような魔物ですから」


 方法はちゃんとあるみたいだな、異世界の常識って危険と隣り合わせの事が多いよな。


 時間的に夕飯時になったので、一度屋敷に戻る事にした。


 カオルとフローラに「それぞれのお店で働く人員の選抜は出来たのか?」と確認をすると大きな屋敷に滞在している47人の女性たちが全員、「お役に立ちたいです」との意思を見せてくれているようなので、それぞれのお店で、本人たちの希望を取り入れ、仕事を割り振る事になったようだ。


 新しい土地の方は農村として開発するほうが当面は良さそうだし、この際だからカイル夫妻に任せてみるかな?


 「カイル、ちょっと頼みが在るんだがいいかな?」


「頼みだなんて、命令して下されば何でもやりますよ」


 「それは違うぞカイル、俺は最初に仲間になってくれた8人に関しては、本当に自由に幸せになって欲しいからな、本人が心から取り組みたいと思っている仕事をして欲しいんだ。まぁ俺が口にしちゃうと断りにくいだろうって事は、解ってはいるけどな」


「それでもですよ、何でもおっしゃって頂ければその仕事に取り組むことが、私達夫婦の最大の幸せです」


 ジョアンナもカイルの横で頷いている。まぁ大雑把なお願いだけして全て丸投げしてしまえばいいか。


「じゃぁさ、カイルに今回貰った土地があるだろ、あそこを自由に開発して欲しいんだ。俺にして欲しい事や、必要なお金とかは全て用意するから言ってくれればいいし、期間的なことも別に定めないからさ、お願いしちゃっていいかな?」


 「解りました、お任せ下さいかなり広い範囲ですので、移住者を募集する事に成りますが、構わないでしょうか?」


「そうだな、やっぱり人手は大事だし、折角だからさ人族以外の種族の人を優先的に入植させて上げて欲しいな、そのほうが異世界っぽいし、俺も楽しめそうだから」


 「この国には、まだまだ人族以外の種族を下に見る風潮がありますので、コウキ様の提案に従って人を集めると、直ぐに大勢の希望者が出ると思います、ギルドに人族以外の入植者募集で全国に向けて、通達を頼むと良いと思いますよ」


「じゃぁさ、明日中には領地の全体をユーリと一緒に囲ってしまうから、アランと、カイルと、ハンクは壁の内側にいるモンスターを殲滅してもらっていいかな?」


 と問いかけると、それまで黙っていたサリナが、


 「私もそろそろ体調も回復しましたので、モンスター退治のお手伝いをさせていただきたいと思いますがよろしいでしょうか?」と聞いてきた。


 確かに顔色も随分良くなって、全体的に少しふっくらしてきているな。


「ああ勿論大歓迎だ、フローラ、サリナに装備品の希望を聞いて用意してやってくれ、あ、アラン今日欠けた剣の修理は頼んだのか?」


 「いえ、まだでした。フローラ済まない私の腕が未熟で大事な剣を欠けさせてしまった。修理を頼んでもいいか?」


「アランさんが斬れない物なんて一体何を斬ったんですか?」


 「コウキ様が作られた壁の強度を試して、斬ってみたら欠けてしまった」


 その言葉でフローラの瞳に炎が宿って見えた。


 「アタシ、コウキ様が作った壁を切れる剣を次の目標にして、頑張って武器を作りますね!」


 まぁ理由は何であれやる気を出すのは良いことだ。


 サリナが「フローラさん装備品の相談を後で聞いて下さいね?」と言うと、


 「そろそろそう言う時期だと思ってたから、サリナさんに合う装備をイメージしたのが何個かあるから後で合わせてみようね」とフローラも返事をしていた。

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