第7話 個人面談その2

【カイル】


「俺に光を取り戻させてくれて、ありがとうございます。目に見える光だけでなく、ジョアンナと言う心の光も一緒に取り戻せて、俺にはこれ以上望むものがありません」

 「そうか、喜んでくれたなら何よりだ。カイルは何で犯罪奴隷にされちまったんだ?」


「従軍拒否をしたら、夜襲を掛けられて、精一杯の抵抗をしたんだが結局は数で押し切られてしまった、俺の目を潰した後俺に聞こえるように、妻を襲いやがった。絶対に許せない。ジョアンナは子供も宿していたのにその時のショックで流産してしまった」

 「そうだったのか、だが身体はもう完全に治ったんだし、今からやり直しだ、子供も作ればいい。俺が一緒に面倒を見てやる」


「俺達は奴隷ですよ?夫婦で一緒に居れる事だけでも、ありえないような話なのに、何故そこまでしてくれるんですか?」

 「俺がそうしたいと思ったからじゃ駄目か?」


「駄目じゃ無いですが・・・解りました。精一杯働いて恩返しをさせて貰います。そう言えば朝ごはんの時に鶏の話が出たじゃ無いですか、俺達は二人共農村の出身で、鶏も育ててましたのでお役に立てると思います」

 「おぉそうなのか、早速必要な物を言ってくれ、新鮮な卵が食べれるな」


「ご主人様は冒険者をなさってるんですよね?俺はそっちでお役に立とうかと思います」

 「鶏はジョアンナだけでも大丈夫なのか?」


「最初の設備だけ作れば後は手が掛かりませんから十分です。ご主人様、俺は結構武人として鍛えてきたつもりですが、ご主人様の実力の底が見えません。一体どれだけの実力をお持ちなのですか?」

 「俺はこの世界にいきなり呼び出されてしまって、何も解らないままに、ドラゴンを倒す状況に巻き込まれてな、実際の所自分の実力がどの程度なのかも、把握は出来てない」


「俺はLV60で冒険者としてはSランクで【絶牙】と言う二つ名持ちでした。俺を見て凄いと思いますか?」

 「うーん・・・悪いが、思わないな。


そうだな、ちょっとゲームをして見ないか?俺を3分間攻撃し続けて、一発でも当てたらカイルの勝ちだ、夫婦揃って奴隷から開放してやる。俺が勝ったら、夫婦で頑張って働きながらここで子供を作って育てろ」


「そのゲーム受けさせて貰います。但し俺が勝ったら、勝手にご主人様の狩にいつでも付き纏って、勝手に手伝わせて貰う事にします。犯罪奴隷の俺たちは、解放されると逆に危険が付き纏うのもありますから」


 早速ゲームを始める事にした。俺は書斎の床にかろうじて立てる程度の円を描き、「俺はここから出ない、ここから出させる事が出来れば、それでもカイルの勝ちだ。じゃぁ掛かってきていいぞ」


  3分間カイルの怒涛の攻撃が続いたが、結局俺に攻撃を当てることは出来なかった。


「俺の勝ちだな、頑張って子供を作って育てろよ」

 「強いとは思ってましたが、ここまで実力に差があるとは正直驚きました。ご主人様の実力は帝クラス以上だと思います。過去に一度、帝と手合わせをした事がありますが、一発も当てられないなんて言うことは無かったですから」


「帝かぁ総帝って言うのはどんなやつなんだ?」

 「総帝は、どんな容姿なのかも、どれだけの実力なのかも全て謎とされてます。帝が5人がかりでも全く相手にされないと言う話を聞きましたが、見てない物は、はっきりとは解りません」


「そうか、それじゃぁユーリを呼んできてくれるか?」


 ◇◆◇◆ 


【ユーリ】


「私は、あの奴隷商に連れて行かれてから、自分が死ぬ事ばかりを望んで来ました。エルフの強い生命力が病に冒され、両足さえも切り落とされた身体に、死を与えてくれることを許して貰えませんでした」

 「辛い思いをして来たんだな、だがもう全て過去のことだ、全て忘れろ、楽しく明るい未来を考えろ、自分の夢を叶えろ。ユーリは何故犯罪奴隷にされたんだ?」


「最初は、まだ若かった頃にある貴族に騙されて借金を背負わされ、借金奴隷に貶されました。そこで性的な要求をしつこく求められ、反抗した際にその貴族に怪我を負わせてしまって、犯罪奴隷にされてしまいました。それからは地獄の苦しみが続く60年間を過ごしてまいりました」

 「何というか、この世界は非情な世界なんだな、今までの失った人生を、生まれ変わったその身体で存分に楽しめ、俺も協力はする」


「ありがとうございます。すぐには無理かもしれませんが、ご主人様が望まれるなら、出来る限り望まれる姿に近づける努力を致します」

 「ユーリは家事は出来るのか?」


「私達エルフは、普通の家事を行うことがありませんでした。全ては精霊魔法で行えますので、料理も基本的には薄味の野菜料理が中心ですので、人族の男性の方が喜ばれるような料理は苦手です」

 「そうなんだな、それじゃぁ精霊魔法を使ってフローラの手伝いを頼むよ、ユーリはハーフエルフだったよね、ハーフエルフでも寿命なんかは随分長いみたいだね?」


「そうですね500年ほどは生きる事が出来ます。見た目も400歳を過ぎるまではほとんど変化をせずに、その後緩やかに。変化をしていきます。ご主人様は私に性的な奉仕を求めたりはしないのですか?」

 「あー俺はユーリに対して、それを求める事はないぞ。エルフとしての知識で協力してくれればそれで良い」


「ご主人様なら望まれれば構いませんよ?むしろご寵愛を頂きたいと思いますが」

 「そうだなユーリはとても美しいし、そう言ってくれるのは素直に嬉しいけど、今はまだ必要がない、それより、ユーリは魔法は得意なのか?」


「はい、一通りは使えます、得意なのは精霊魔法ですが、人族の方では余り使える方は多くありません。通常の属性魔法は発動は出来るっていう程度ですね」

 「そうか、俺は恐らく全部使えるとは思うが、使い方が全く解ってない。時間のある時に教えてくれ」


「畏まりました。それではご主人様が狩りをされる時に一緒について行き、現地実践方式でお教え致します。昨日ご主人様の使われたスキルは、一体どんなスキルなのでしょうか?6名もの欠損を纏めて一瞬で治すスキル等私は、聞いたことが御座いませんでしたが」

 「治癒魔法だが、理屈は俺も全然解らない、ただ出来ると思ったら出来たって感じだな」


「とても羨ましく思います、この世界では欠損や、不治の病で苦しみながら亡くなって行く方がとても多いので、ご主人様の力があれば神となる事すら可能だと思いますが?」

 「俺は自分の仲間以外にこの力を使う予定は今のところ無いな、絶対に使わないという事でもないが、そんな事すると、治療だけで手いっぱいになって、この世界を楽しめないだろ?俺はユーリ達とこの世界を楽しむ気だからな」


「不思議な方ですね、ご主人様が楽しく過ごせるように精一杯の努力をさせて頂きます」

 「よろしくな、サリナと交代してくれ」


 ◇◆◇◆ 


【サリナ】


「ご主人様、私は病に冒されて以降日毎にやせ細る身体に、絶望を感じる事しか出来ませんでした。治して下さりありがとうございます」

 「サリナは病気は治したが、まだ痩せてるし、しっかり食事を取って、体力作りを優先しないといけないな、最初に与える仕事は、沢山食事をとって健康な体を取り戻すことだ。それが出来てから次の仕事を与える」


「何故奴隷にそんな優しくしてくださるんですか?」

 「まぁ俺の気紛れだと思えばいいさ、俺と出会えてラッキーだったくらいに思っておけばいい」


「私は奴隷になってすぐに病気が全身を蝕んでいったから、それ以外の辛い思いはしなかった分だけでも、他の方達よりは恵まれていました。早く体調を戻して、人一倍お役に立てるように頑張ります」

 「女性で兵士をしていて、しかも士官だったんなら実家は貴族だったのか?」


「戦争で負けたので国も家も残っていませんが、その通りです。侯爵家で父が将軍をしておりまして、その秘書官として従軍をしておりました。一度他国の貴族家に嫁いだのですが、子供が出来ないことを理由に離縁され実家に戻っておりましたので」

 「貴族のお嬢様なのに、何故そんな風に俺に丁寧に接することが出来るんだ?俺は平民だぞ?」


「隷属魔法は自然にそういう風に振る舞わせる力を持っています。でもご主人様に対してはそれを抜きに考えても、尽くしたいと思ってますよ?」

 「そうか、そのうち隷属魔法も解除してやるから、それまでは宜しく頼むな、ジョアンナと変わってくれ」


 ◇◆◇◆ 


【ジョアンナ】


「ご主人様、本当にありがとうございます。私達夫婦の命ある限り御使いさせていただきます」

 「あーそんな難しく考えるな、ジョアンナはカイルと、ここで子供を作り育てて行けばいい」


 「そんな、それではとても恩に報いる事が出来ません」

「俺がそう言う幸せな家庭を見たいだけだから、気にするな。フローラやカオル達と力を合わせて、この家を守ってくれればそれでいいから、さっきフローラやユーリ達からは聞いたが、獣人族の寿命はどうなってるのかな?」


「私達は人族の方達と変わりません。ただ種族的に魔法が使える者が、ほぼ居ない為に、病気や怪我で早く亡くなる方は多いです」

 「そうなんだな、ここに居る間はその心配はしなくて良いぞ」


「ありがとうございます。一生懸命働いて少しでもご恩に報いたいと思います」

 「もう一つだけ聞かせてくれ、獣人族は種族ごとに仲が良いとか、悪いとかあるのか?」


「全く無いとは言えません、獣人族の場合は基本的に、力のある者が支配者となる世界ですから、争いは絶えません」

 「そうなんだな、じゃぁカイルは結構強いから、偉かったのか?」


「集落の長をしておりました」

 「それなら団体を纏めたりする事も得意そうだな。解ったありがとう。聞きたい事は大体聞けたから、戻って良いぞ、そろそろお昼ご飯の時間だから、準備が出来たら教えてくれ」


 ◇◆◇◆ 


 こうして取り敢えず一人づつと話してみて、それぞれの人柄を見てみたが、隷属術式のせいなのかみんな凄く協力的で、ちょっと不思議な感じがする。でも一緒に暮らすことになった以上はみんなで楽しく過ごして行きたいよな。


 結構この2日間で散財したし、昼からはちょっとギルドに行って割の良い依頼でも探すかな。

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