第6話 個人面談その1

 今日は、昨日購入した奴隷達と一人づつ話をする予定だ。


 みんなそれぞれに、不安で一杯だろうけど、一緒に過ごす事になった以上は、頑張って貰いたいしな。


 取り敢えずみんなで朝ご飯を食べる。広いリビングに並び、配膳を済まさせると、みんなが不安げに俺を見る。


「みんなどうしたんだよ?」


 代表してカオルが、答えた。


「ご主人様、私達は奴隷ですので、ご主人様と同じテーブルで、同じ物を頂く何て事はあり得ない事ですから、どうしたらいいのか困ってるのです」


 「あーなる程な、それならこれは命令だ、ご飯はみんな揃って、同じ物を一緒に食べる。それがこの家の決まりだ」


「本当によろしいのですか?」とアランが念を押す様に聞いて来た。


「早くしないと、折角カオルが用意した朝食が冷めちまうぞ」


 この世界では、倭国と呼ばれる日本に酷似した文化を持つ国があり、お米、味噌、醤油等も問題なく手に入ることを聞いていたから、朝は和食だ。


 カオルはお味噌汁も問題なく作れたが、倭国の出身なのかな?後で聞いてみよう。


ご飯とお味噌汁に鮭の塩焼きとお漬物。これに生卵があったら完璧なのになぁ


「カオルこの世界では生卵は手に入りにくいのか?」


 「生食用としては売ってないですね。家で鶏を飼っているようなとこじゃないと難しいと思います」


 そうなのか、鶏って飼うの難しいのかな?まぁ取り敢えずはご飯を食べよう。


 俺は手を合わせて「いただきます」と言って食べ始めた。みんなは俺の行動が理解出来なかったようだが、見よう見真似で「いただきます」と言って食べ始めた。


 「みんな今日は一人づつ、俺と話をして貰うからな、カオルから順番に、呼ばれたら書斎に来てくれ。呼ばれるまでは、この家の敷地から出なければ、自由にしておいてくれ」


 ◇◆◇◆ 


【カオル】


「カオルは倭国の出身なのかい?」

 「はい、そうです。でもご主人様本当のこと言うと、私は恐らくご主人様と同じだと思います。日本ですよね?ご主人様の出身は?」


「えぇ、カオルも日本から転移してきたのか?」

 「私は、転生ですね記憶が戻ったのは、10歳を過ぎてからですね。私は日本では主婦でした。長崎県に住んでいました」


「そうなんだぁ、18歳の歳の割に妙に手際よくご飯の支度とかしてたから、不思議に思ってたんだよな」

 「前の人生の記憶と合わせたら、40年分位の知識がありますから」


「カオルは借金奴隷だったけど、何でそんな状態になったんだい?」

 「よくある話ですけど、私の家は倭国で商家でした。父親が保証人になって、その人が逃げちゃったんです。それで借金を背負っちゃって、大きくもない商家では返済も滞って、結局両親は私を残して、心中してしまいました。この世界では、それで借金が消えるわけでもなく、私は奴隷として売られてしまったんです」


「そうなのかぁ、大変な思いをしたんだな。でも俺はこの世界に一人で飛ばされて困ってたから、カオルと出会えた事は、素直に嬉しいぞ。カオルが望むならスグにでも奴隷から開放してやるけど、どうする?」

 「私も買って頂いた方が、ご主人様で良かったです。奴隷の立場は、今はこのままで構わないです。ご主人様なら酷い事をする事も無いって解りますから。身寄りのない私が一人で生きていくより、幸せな生活が出来ると思います」


「商家の出身なら、商売の心得もあるのか?」

 「そうですね、この世界では日本のような、おもてなしの心とかそういう考え方は無いので、もし私が商売を始めればきっと流行ると思います」


「それは、今後を考えると明るい材料だな。俺も日本では営業マンだったから、客商売ならちょっと自信はあるし、そのうち何か考えよう」

 「この世界だと、字が読めたり、暗算ができるだけでも、凄いアドバンテージがありますから、ご主人様が本気で商売したら、凄い事になると思いますよ」


「フローラが、鍛冶で色々作り始めたらその辺りから取り組もうかな。それじゃぁフローラと交代してくれ」


 ◇◆◇◆ 


【フローラ】


「私家事と鍛冶を間違ってたみたいですいません」

 「まぁ今更だ、別に怒っても居ないし、むしろ鍛冶が出来るならその方が嬉しいくらいだ」


「ありがとうございます。一生懸命頑張りますね」

 「で?フローラは犯罪奴隷だったけど、何でそんな事になったんだ?」


「私の家はドワーフの集落でも結構大きな鍛冶屋をやっていました。お弟子さん達も沢山いて武器や鎧を作っていたんですが、この国と隣国が戦争になった時に、どちらの陣営も武器を調達するために、私達の集落を襲ってきたんです。それで集落は全滅してしまって、私は必死で抵抗した時に兵士の人達を怪我させちゃったので、捕まって犯罪奴隷にされてしまいました」

 「なぁフローラ?ドワーフの人ってさ寿命ってどれくらいなの?フローラって48歳って書いてあったけど見た目は随分若く見えるよね?」


「大体人の倍くらいです。成長速度もそれに応じてですね。人と比べたら年齢を半分にしたら大体同じと思ってもらえたらいいですよ」

 「そうなんだね、フローラはここでは掃除と洗濯を担当してもらって、余った時間は、自由に鍛冶をしてくれたら良いからね。必要な材料とかは言ってくれれば仕入れてくるから」


「あのぉ?それだと今までの私の生活よりも恵まれてる状況になっちゃいますよ?今まででもお弟子さんたちの洗濯や鍛冶場や寮の掃除はしてましたし、勿論食事の支度もやってたので、私奴隷なのにそんなに恵まれてて良いんですか?」

 「俺がそれで良いと思ってるから、大丈夫だ。よろしく頼むな。取り敢えずここに居る人達用の武器や鎧を作ってくれると助かるな。沢山出来てきたら、お店を造る事も考えるからな」


「ハイよろしくお願いします」

 「それじゃぁアランと変わってくれ」


 ◇◆◇◆ 


【アラン】


「ご主人様、本当にありがとうございます。両腕が無くなってから、生きる気力も無くなってましたが、昨日の奇跡を体験させて頂いて、今はご主人様の役に立てるよう頑張ろうと、気力も充実してます。」

 「そうか、そう思ってくれるなら良かった。大きなお世話だとか思われてるかと思ってた」


「連れ出された時は、実際物好きの道楽だろうくらいしか考えて無かったのは事実です。でも、身体を直してくれて、同じテーブルで同じ物を食べようとか言う人が、悪人の筈は無い事くらい俺でも解りますよ」

 「暖かい飯の効果は絶大だな」


「ご主人様は、冒険者ですよね?俺も狩に連れて行って下さい。これでも剣の腕には自信があります。ご主人様を身体を張って守り抜きます」

 「その気持はありがたいが、自分の命をまず一番大事にしろ、これは命令だ。勝手に死ぬな」


「解りました。俺も生き残った上でご主人様も守ります。これならいいですか?」

 「まぁそれなら良い」


「ご主人様出来れば、安物でいいから剣と盾を欲しいのだが」

 「それは、フローラに作るように言ってあるから、じきに渡せると思うよろしく頼むな」


「解りました。頑張ります」

 「それじゃぁハンクと変わってくれ」


 ◇◆◇◆ 


【ハンク】


「主、物好きだな、だが取り敢えずはお礼を言わせてくれ、ありがとう」

 「ああ、気にするな。直さないと満足に働いてもらえないからな」


「主は俺に何をさせたい?」

 「そうだな、ハンクは何をしたい?」


「ほぅ質問を質問で返されちまったが、自主性を大事にするって事と受け取ろう。俺は主に対する悪意を排除する仕事がしたい」

 「そうか、それは助かるな。ではハンク、お前は自由に行動しろ、別に特別な仕事は与えない。但し飯の時間は必ず戻って来い。飯はみんなで一緒に食う。それ以外は思うように行動しろ、必要なものは言え、取り敢えずの活動資金を渡しとくな」


「主・・・何故出会ったばかりの奴隷をそこまで信じる?」

 「なんとなくだ。お前は信用できると感じたからそうするだけだ、間違ってたら俺が見る目が無かっただけの事だ」


「信用に値するだけの行動を心掛けよう」

 「それじゃぁカイルと交代してくれ」

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