第36話 武器屋さんの開店

 俺の作ったカレーライスは大好評だった。

この感じならカオルのお店で出しても人気商品になってくれるかな。


 問題は、今日のカレーは飛竜の骨とテイルのスジ肉で作ったんだが、この素材は一般的な感覚では凄い高級素材なんだ。

他のお店が飛竜素材の料理を出せば一人前500Gは貰わないと合わないらしい。


 もっとリーズナブルで一般的なオーク肉やオーク骨で取ったスープを使ったりしないと、他のお店に対してバランスが取れない。

 それだと地域に根ざした人気店には成れないんだよな。


 いくら俺が狩って来るから素材代がかからないとしても、他のお店が当たり前に仕入れた状態で設定した値段を明らかに下回るような値段設定をすると、他の店が商売がやっていけなくなる危険性があるんだ。


 そんな状態を狙って、一人勝ちをしたい訳じゃなくて、折角人が居るんだから何か商売をして、地域に馴染んでいくのが主題の出店なんだから、それだと目的が違ってきてしまう。


「カオル、飛竜カレーだと周りのお店とバランスが取れないから、これは置くとしてもメイン商品じゃなくてプレミアムアイテム的な位置づけだな。今日スパイスを配合した時のレシピは残してあるから、それを使ってオークや一角うさぎ、ミノタウロスなんかのふつうに手に入る材料で、みんなで試作をしてみてくれ、出来上がったら俺も一回食べたいから呼んでくれ」

「かしこまりました。確かにこれだと美味しすぎますよね、トッピングや辛さを調節できるようにしたり、量を選べたりする事で、カレーだけでも幅広く営業できるので頑張ってみますね」


「おうどんのほうもトッピングで差別化出来ますから、カレーの試作品を完成させ次第オープンの日時を決定したいと思います」


 フローラのお店の方は、もう今日中には商品を運び込んで明日から開店をする。

 この世界では新規開店の時に店先にお祝いの花が並ぶ習慣とかは無いそうなので、敢えてやってみようと思う。


 この世界で知り合いになった人達に頼んでお花を贈ってもらって、玄関に飾り立てる。

 そのお花は開店のおすそ分けとして初日の営業が終わったら、自由に持っていって貰う。

 それで店先が賑わってくれれば十分だ。


 ハッサンさんにも頼んでおこう。

 きっとこの街一番の大店からのお花とかあると、信用度も上がる筈だ。


 っと、そう言えばハッサンさんを迎えに行かなきゃ成らなかった。

 早速転移で、ゼスタール領に移動した。

 ハッサンさんは男爵の屋敷で待っていた。

 ゼスタール男爵も一緒に迎えてくれて、少し俺に相談があるそうで話を聞く事にした。


 話の内容は人材の事だった。

 今まで準男爵領としてやって来たのが、いきなり男爵となり子爵領2つも一緒に統治するようになった為に、信用のおける部下が不足している事と、ゼスタールの街を中心街としていきたい為に、この屋敷をそれに相応しい物にすることまでは決まったがメイドや騎士等が足らない。


 具体的には、ゼスタール男爵は昔からの知己であるアランに、男爵領全体の騎士団長を務めて欲しいとの頼みだった。


 俺は、凄くいい話だと思う。

 アランが騎士団長なんて本当に嬉しいけど、本人が何て言うかな?

 

 メイドの方はユーリに育成を頼んでいたから、10人程度なら大丈夫だと思うが、アランの件は一度本人と話してみよう。


 男爵との話を終えて、ハッサンさんを連れてファルムへと戻った。

 早速さっきの開店祝いの花の件をお願いしてみると、快く了承してくれて、「商業ギルドからもこれからは、ギルド員のお店が開店する時の習慣にするように進言しましょう」と言ってくれた。


 今日のカレーライスの話を話題に出すと、「是非私も食べてみたい」と言い出したので、一度俺の家に来てもらった。


 大量に作ってあったので、まだ残っている筈だ。


 リビングに招き入れると、トールが居てまだカレーを食べていた。

「トール、まさかあれからずっと食べ続けてるのか?」

「こんな美味しい物がこの世の中に存在していたなんて、俺の今までの人生を無駄にした」


 どんだけ気に入ったんだ……


 カオルに確認すると後一杯分だけ残っていた。

 ギリギリだったな。

 鍋いっぱいで50人分は楽に有ったはずなのに、トールどんだけ食ってるんだよ。


 ハッサンさんに食べて貰うと、破顔した。

「いやぁあ、素晴らしい! 雷帝の言う事ももっともです。これを売りに出せばどれだけ流行るお店になるのか想像も付きませんなぁ」

「実際の商品はオーク素材で作る予定ですから、ここまでの味は出ないかもしれませんが、それでも十分に美味しい物を提供出来ると思いますよ」


 すると、ハッサンさんが何やら考え始めた。


「コウキさん、このカレーを全国に広めませんか? 私の夢は以前言ったように、全国に支店を出していくことなんですが、このファルム以外でのカレーショップの権利を売ってもらう訳には行きませんでしょうか? ハッサン商店の支店に、全てカレーショップを併設していけば、今までの商店と違う事がアピールできます。是非お願いします」

「別に俺達はカレーで全国制覇とかは考えてないですから、他領での販売と言うなら全然構いませんよ」


「では明日早速契約書類を作ってお持ち致します。いやぁいいお話が出来ました」


 とすごい満足をして帰っていった。


 ハッサンさんが帰ってから、アランとユーリを呼んだ。

 今日のゼスタール男爵からの話をするためだ。


 まずユーリに、「貴族家のメイドとして働いても良いと言う娘は、何人くらいいるかな?」と聞いてみた。

「コウキ様に頼まれれば嫌という娘は居ないと思います。あちらのお屋敷で過ごした娘達は、一通りどこに出しても恥ずかしくない程の、マナーとメイドスキルは身に付けさせましたので、みんなコウキ様に褒められたくて必死で学んでくれました」

「あーそうなんだ、ユーリ? 決して洗脳とかしてないよな??」


「みんな、コウキ様の事は神だと思っておりますわ、勿論私もです」

「俺は普通の人だからな ?普通に接してくれたらそれで十分だからな?」


「それは無理でございます。私の80年に渡る人生で今より幸せな時間は存在しませんでした。コウキ様と一緒に過ごせる時間をありがたいと思うのは当然の気持ちです」

「うーん、まぁいっか決して無理はするなよ? じゃぁさユーリは明日の朝までに10人ほど選んでおいてくれ。明日俺が一緒にゼスタール様の所に、送っていくから行ってみて合わなかったりしたら、問題なく帰ってこれる事もちゃんと伝えておいてくれよ?」


「かしこまりました」

「次はアランなんだが、なぁアラン」


「お断りします」

「ってまだ何も話してないし」


「ゼスタール様の所へ行けと言う話でしょ?」

「男爵領の騎士団長だぞ? あそこは名称は男爵領だが実質は伯爵領だし、すごい出世じゃないか?」


「私にとって、コウキ様の横に並び立つ以上に重要な仕事は御座いません。ですのでお断りして頂けますか?」

「そうか、解ったありがとうな、俺もそこまで言ってもらえると嬉しく思うぞ」


「当然のことを言ったまでです」


 ユーリが「そう言えばコウキ様、これから人はもっと必要になります。先日おっしゃった奴隷の話を早急に進めましょう。森の方の土地の村落の住居は今日私がメンテナンスを施しましたので、そのまま生活を始める事が出来る状態です。王都の奴隷商であればかなりの人数を手に入れることも出来ると思いますので、明日フローラのお店の開店を見届けた後で行きませんか?」


「あぁ何かめちゃ忙しいなぁ、でもユーリの提案はもっともだし早いほうがいいよな。解った、明日の昼から行こう」


 そして翌日、フローラのお店の開店を迎えた。

 俺も個人の名前で開店祝いの花を大量に用意したが、ハッサンさんはもっと凄かった。

 ハッサンさんが声を掛けてくれて、イザベラやタウロ子爵、アーガイル卿の名前の花まで並んで、商業ギルドからも勿論届いていた。

 店の入口が解らない程の花に囲まれての開店となった。


 その様子に何事が起こるのか? と興味を持った町の人達も大量に訪れてくれて、開店早々に大賑わいになっていた。

 今日はうちの女性陣も20人体制で手伝いに付いていて、店内は賑わいながらも、スムーズに営業がなされていた。


 武器店だから、あんまり一般の人には関係ないかと思っていたが、普通に魔物が歩き回る世界では、一般の人達も結構武器の需要もあるようだった。

 店頭のお花は今日の営業終了後から、自由に持って行っても構わないことを伝えると、それも凄く街の人々に喜んでもらえた。


 そして午前中は店の様子を見て、午後一番でまずユーリに選んで貰った女性を10人連れて、ゼスタール男爵の元へ転移した。

 礼儀正しく教育されたうちの女性陣を男爵は気に入ってくれ、全員お世話になる事になった。


 1人ずつずつに声をかけ、頑張るように伝えてファルムに戻った。

 次はユーリと王都の奴隷商だ。

 少しフローラのお店の様子を見ようと思って、お店によるとハッサンさんとタウロ子爵とアーガイル卿が、店に来てくれていた。


「わざわざ来て頂いたんですね、お花を沢山頂いてありがとうございます」と声をかけると、

「中々賑わっているようで、良かったですね」とハッサンさんが言ってくれた。


 ハッサンさんは、「昨日のお話の契約書を纏めましたので、又今日の夜にでも伺わせて頂きます」と言って帰っていかれた。


 タウロ子爵が「この店においてある武器や防具の品質が、王都の一流店と言われる店以上の品揃えなんだが、何処で仕入れているんだ?」と聞かれた。


「あーうちのドワーフ娘達が自分で作った商品ですよ、中々でしょ?」

「中々どころか王都でこの品質の装備を買えばこの倍は取られるぞ」と感心していた。


 実際に陳列棚を見ると、50万G以上の値付けのしてあるような武器も何本か売れていた。

 

 スゲェな!


「この店は注文で作って貰ったりも出来るのか?」と聞かれたので、

「勿論注文は承りますよ。相手の立場とか関係なしに、一度に一振りだけで、注文順に受けることに決めていますけど」と伝え、


「そうか、早速だがオリハルコンの懐刀を一本頼みたい、金額に糸目は付けないのでよろしく頼む」と注文を受けた。


 その後で、今から王都に行くという話をすると、「俺も連れて行ってくれ」と、タウロ子爵に頼まれたのでユーリと3人で王都へ飛んだ。

 タウロ子爵は「ちょっとギルドマスターとしての仕事をして来るから、コウキが帰る前にギルドへ顔を出してくれ」と言われ、了解して別れた。

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