第39話 この世界での目標

 俺が屋敷に戻ると、ハッサンさんがやって来た。

 昨日のカレーショップの全国展開の話だろうな。


「コウキさんこんばんは、昨日お願いした件を書類に纏めてまいりました。内容はファルム以外の街でのカレーショップの営業権と、カレーのレシピをお教え頂くと言う内容でございます。金額的には権利金と致しまして1000万Gと、カレーの売上の5%をロイヤリティとしてお支払い致します。この内容でいかがでございましょうか?」

「5%も頂けるなら、こちらには何の不満もありません。調理技術は、もうすぐ家のカオルが食堂の営業を始めますので、そこに研修で入ってもらえば、直ぐに覚えれると思います」


「ありがとうございます。早速明日から3人程派遣させて頂いて、開店準備や備品類などの細かい事まで、学ばせていただこうと思います」


 カレーショップの権利金で日本円で1億とか凄いな。

 


 ◇◆◇◆ 



フローラの武器ショップの開店は、順調な滑り出しだったけど、本格的にショップで売る為にはこの屋敷の鍛冶設備だけじゃ追いつかなくなるな、カイルの村落に本格的な鍛冶設備を整えるか、昨日の欠損奴隷の中にドワーフの男性が居たけど、鍛冶はどうなんだろうな? みんなと面談もしないとな。



 ◇◆◇◆ 



 翌朝、俺はタウロ子爵に相談に乗ってもらうためにイザベラの屋敷に向かった。

 屋敷に着くと、庭でアーガイル卿が凄く元気そうに剣を振っていた。


「アーガイル卿、その様子だと静養の必要とか無くないですか?」

「身体が元気に動くということは、本当に幸せなことだ。コウキ殿に救って貰った大切な身体をこの国の為にもう少し使ってみるのも悪くないと思い始めたぞ」


 そこで俺は、イザベラに貰った土地を、アーガイル卿に任せちゃうのもありなんでは? と思い、少し質問してみることにした。


「そうなんですね、アーガイル卿は奴隷制度とかはどう思われてるんですか?」

「うーむ、その問題は国策として制度が認められておることじゃから、中々声を大にして言うことが出来なかったが、わしとしては重犯罪者が労働奴隷として一定期間を鉱山で働かせるとかの制度は有りだと思うが、奴隷商で扱われている犯罪奴隷の制度は反対だ。借金奴隷に関しては返済手段としてはしょうが無いのかも知れないな」


「そうなんですね、もう一つだけいいですか? 人族以外の種族に関してはどう思われてますか?」

「わしは、人族以外の者も等しく扱ってきたつもりではある。ただしだ、全く同じ能力を持つ2名が居たとすれば、片方が人族片方が他種族であった場合は、迷わず人族のものを選ぶな」


「いきなり変な質問をしてしまって申し訳ないです。俺イザベラから結構な広さの土地を押し付けられてるんで、折角だから開発はして行きたいんですが、この世界を見て回りたい気持ちも強いので、開発をした土地を任せる人が欲しいんです。アーガイル卿折角元気に成られたんですからお手伝いして頂けませんか?」

「ふむ、だがここは辺境伯領内であるからな、隠居したとは言えわしがゴソゴソするのは余分な疑いを生む事となる。助言を与える程度であれば構わぬがな」


「あー色々あるんですねぇ、時々は相談に乗って下さいね」

「そうじゃな、お主が治療魔法を掛けてくれるのと引き換えで承ろうかの、あれは気持ち良いからのう」


「了解しました!」


 アーガイル卿と一緒にイザベラの屋敷に行き、タウロ子爵に面会を求めると、イザベラとアリスと一緒に朝食をとっている途中だったようで俺達も招かれた。


「おはようございます、タウロ子爵、イザベラ、アリス」と挨拶をすると、

 アリスが「おはようございます。お兄ちゃんこの間は助けてくれてありがとう」と挨拶してくれた。


ヤバイ、破壊力の高い笑顔だ……

 

「コウキ、アリスに手を出すと問答無用でもぐよ?」

「いやいや、俺にロリ趣味は無い」


「私の肉体を愛でるだけにしておきなさい」


 タウロ子爵が「コウキはイザベラとそう言う関係なのか?」と聞いてきた。


「はい、その通りです」と即答するイザベラに対して、

「全く事実無根です。ただの妄想ですから」と釘を刺しておいた。




 タウロ子爵が「俺に相談って何だったんだ?」って聞いてきた。


「えっと、他の方の耳に入っていい内容なのかどうか、判断がつかないので取り敢えずは二人で話せる場所に移動しませんか?」

「ほー、そんなに大きな問題なのか? いいだろう、転移で何処か飛んでくれ」


 俺は、転移を発動して自宅の書斎にタウロ子爵と移動した。


「早速ですが、裏奴隷商についてはギルドは把握してるのでしょうか?」

「ほぉ、いきなりこの国の最大の闇の部分に辿り着いてるな。存在の把握はしている。しかし奴らは中々尻尾を出さない」


「どうなんですか? この組織は潰してしまっても構わないんでしょうか?」

「何故そこにこだわる? おおっぴらになればかなりの数の貴族家を敵に回す大事件になるぞ?」


「貴族家の事なんか、はっきり言って俺には関係ないですね。人の尊厳を無視する制度は俺は悪法だと思ってます。制度としての奴隷と言うあり方については、先程アーガイル卿からも意見を伺い成程と思う部分もありましたが、違法奴隷を扱う奴隷商やそれを知った上で買う人間は同罪だと思います」

「王都ギルドとしては、この問題は管轄外だ。警察組織である憲兵隊では、取り締まりを行うという建前だが、実際には憲兵隊には貴族家の関係者が多く、情報が筒抜けで殆ど取り締まりの実績が無いのが現状だな」


「では、俺が勝手に裏奴隷商を潰してしまい、囚われている人物を開放したとして、それはこの国に対しての敵対行動とみなされるでしょうか?」

「そうだな、そう処理をさせたがる貴族家は何人も湧いて出るであろうな」


「総帝としては、どう考えてるのですか?」

「ふむ、本気のようだな。実際この世界は各国が仲良しではない。常に何処かの国同士が戦争を行っている。現在はこの国には私が居るので、この国に戦争を仕掛ける奴らは居ないが、もし私が病で倒れたり怪我をしたとかの情報が流れば、すぐにでも戦争を仕掛けてくる奴らが居るだろう」


「その時に国を守ってくれるのは、やはり貴族達が養っている軍なんだよな、だから他国から攫われてきた者達を扱って居る範囲では、敢えて不問にしていた。だがこの世界ではない場所から来たコウキには、それが間違った制度だと見えるのだな?」

「そうですね、国とか立場とか色々あるのは当然解ります。しかし理性を持ち言葉を話す種族同士が、一方的に不条理を強要する奴隷制度を、俺は認めたくありません。場合によっては建国をして独立してでも、この制度は無くしたいと思います」


「そうか、大変なことが起こりそうな予感はするが、コウキの言う理想の社会を見てみたい気もするな」

「裏奴隷商に関しては、コウキの好きにしてみたら良い、囚われた奴隷達の処遇も一任する」


「解りました、思うようにやってみます」

「ただしだ、他国から攫われてきた者達の存在が明るみに出た時に、それが原因で他国との揉め事が起こる可能性も考えられる。それに関しても、基本はコウキが自分で対応して貰う事になるぞ」


「それくらい、自力でなんとかしますよ」



 タウロ子爵と話し、何となく俺のこの世界の目標のような物を定めた。

 時間はかかるだろうけど、俺の自己満足であっても構わない。


 自分がした行動で、アラン達のように俺に協力してくれる人間も必ず居るはずだ。

 少しこの世界で頑張ってみよう。


「そう言えばコウキ、俺は今日で王都に戻る事にした。昨日戻ったら北方のノーザン辺境伯家で、厄災の存在が確認されてなその対処に入る。今日の夜にでも連れて帰ってもらえるか?」

「了解です、都合がいい時間になったら念話してください」


「余程のことがない限りは、大丈夫だとは思うがもし俺に何か在った場合は、よろしく頼むな」

「タウロ子爵、その発言はフラグって言って危険発言ですよ?」


「フラグ? 意味が解らん」

「俺は、俺が出来る事を、自分の価値観で判断して行動していきたいと思います」


「そうか、まぁ思うようにやってみたら良いさ。だが、災厄の討伐に関しては俺たちがどうにも出来なくなった場合は頼むな」

「出来る範囲でしか動けませんが、心に留めておきます」



  ◇◆◇◆ 



 タウロ子爵をイザベラの元へ送り、屋敷に戻った俺は、アラン達と雷帝、槌帝を連れてカイルの居る村落へ向かった。

 ユーリとカイル夫妻は新たに連れてきた奴隷達と、面接してもらいそれぞれの適正に併せて、仕事を振り分ける事を頼んだ。


 俺は、アラン、サリナ、槌帝、雷帝の4人で周辺を見回って来ると言って深淵の森へと向かって行った。

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