第38話 ユーリの実力

「お待たせいたしました。資料の準備が整いましたのでミーティングルームの方へよろしいでしょうか?」


 ギルドの受付の女の子が声を掛けてきた。

「はーい、すぐ行きますね」と言いながら、ジョー達に手を降って女の子に付いていった。

「改めまして、私は今回コウキ様を担当させて頂くスーザンと申します。よろしくお願いいたします」


「こちらこそよろしくお願いします、いい物件はありましたか?」

「はい、ご予算は伺ってなかったので、少し幅広く取り揃えてみました。書類だけでは良く解らないと思いますので、その中で気になった物件がございましたら、私が直接ご案内させて頂きます」


「そっか、じゃぁ一通り書類を見させてもらうね。あ、それとさぁ今一緒に居るユーリがギルドカードを紛失してるらしくて、再発行をお願いしたいんだけど、それもスーザンでいいの?」

「はい、私で承れます。ではコウキ様が書類を眺めているうちに、再発行の手続きを先にさせて頂きますね、ではユーリ様、直接魔力を流して頂いて、検索をする必要がございますので、こちらによろしいでしょうか?」


 と、スーザンに案内されて、ユーリは部屋から出ていった。


 さてと、10件の物件の書類が持ってこられていたが、3件は明らかに貴族用の物件だな、これはパスだ。

 住むわけじゃないからなぁ、庭の敷地が広く建物は比較的こぢんまりした感じの物件を3軒程選んだ。

 でも流石に王都だな、ファルムの物件と同じような感じだと、倍ほど家賃が高いな。


 まぁ今更家賃を気にするような事も無いけどな。

 でも考えてみたら、日本で暮らしてた時は、毎月8万円の家賃で1DKだったんだよな。

 駐車場も入れたら9万5千円も払ってたから、毎月生活費でギリギリだったなぁ。


 今考えてみたら、俺こっちの世界に来た事で、やっと余裕のある生活が出来る様になったんだよな。

 そう思えば、あのサリア達の4人組にも少しは感謝だな。


 そう言えば、あの時の隕石っぽい何かはあのまま東京の街を直撃しちゃったのかな? もしそうだったら、東京が壊滅して、何百万って言う人が死んじゃったのかも知れないよな。


 気にはなるけど、俺が今ここで考えても仕方ないしなぁ。

 等と考えてるうちに、ギルドカードの再発行手続きを終えて、ユーリとスーザンが戻ってきた。


「あのコウキ様、ユーリ様なんですが、魔力の強さが現役の精魔帝と変わらないレベルであることが確認されたのですが、宜しかったらコウキ様達が受けて頂いたのと、同じ昇格試験をお受けして頂けませんか? 」

「どうする? ユーリランク上げてもらえるなら上げておいたほうが良いと思うぞ」


「コウキ様がそう仰るなら、試験を受けたいと思います」

「ちょうど今『ドラゴンファング』のメンバーも居ますので、先に試験でもよろしいでしょうか?」

 

「そうだな、別に家も急ぎって訳じゃないし、先に試験でもいいぞ」


 そんな感じで、急遽ユーリも昇格試験を受ける事になった。

 『ドラゴンファング』のメンバーは今日はリーダーのガースは居なかったが、他の3人が居た。

 ジョー、ジュリア、メリーナの3人だ。


 地下の訓練施設に降りていくと、ギルド内に居たAランク以上のメンバーには見学許可が出されていて、結構な賑わいを見せていた。


 しかし流石に王都ギルドだな、Aランク以上に限定されてるのに30人以上の見学者が居る。

 ファルムでは、俺達以外にAランク以上は4人しか居ないはずだったのにな。

 しかもその内の一人がイサベラだし。


 ユーリは3人の中から誰を選ぶのかな?


「ジュリアにお願いします」


 ユーリは今日のメンバーの中では、唯一のSSSランクで弓使いのジュリアを対戦相手に選んだ。

 ジュリアは、耳のとがり具合がユーリよりもはっきりしてるエルフの女性だ。

 もしかしたら、その辺りが純粋なエルフとハーフエルフの違いなのかな? とか思いながら、観戦する。


 俺のそばには、メリーナとジョーが来て一緒に見学することにした。

「ジュリアは強いのかい?」

 

「あぁ、ガースは防御特化だから、実際のうちのPTの攻撃力ではジュリアが一番だ。ユーリは武器を持ってないようだが、魔法使いか?」

「そうだ、俺の魔法の先生だよ」

 

「げ、まじか、もしかしてコウキより強い魔法使ったりするんじゃないだろうな?」


「どうなのかな? 属性魔法は、余り得意じゃないって言ってたけど、精霊魔法の攻撃技は俺は見たことないしなぁ」


 試合が始まった、ジュリアが先手を取って弓を引く、いきなりの10連射でまっすぐにユーリに襲いかかるが、ユーリは魔法も使わずに、素の体力だけで避けきった。

 次の瞬間4体の精霊が展開された。

 4聖獣と言われる、青龍、朱雀、玄武、白虎の4体だ。

 こうなると精霊魔法って言うより、召喚魔法だよなと思っていると『召喚魔法を習得しました』と言う言葉が脳裏に聞こえた。


 後で試そう。

 しかしジュリアも流石にSSSランクだ。

 真上に向けて矢を射ると、上空でパアッと弾けて、雨のように降り注ぐ、玄武が回転しながら、ユーリの上に陣取り、ユーリに当たりそうな矢を全て弾き飛ばす。


 おお『ガ〇ラ』見たいで恰好いいな。


 それを視認したジュリアが更に矢を射掛けると、今度は玄武を避ける様に、軌道を大きく曲げて襲いかかってくる。

 すると朱雀が身体を燃え上がらせて、羽ばたく。

 襲いかかってきた矢が全て燃え上がって落ちた。


 青龍が口から吹雪を吐き出し、全体の視界も無くなるほどに、一面が一気に白銀の世界へと変貌していく。

 ジュリアが、次に放った矢は、弓から放たれた瞬間に、一気に大きくなり直径3メートルもある大木の様な矢に変わって、青龍を直撃した。


 青龍の身体が大きく弾け消失した。

 更に、ジュリアが矢をつがえ、甲羅の隙間から正確に玄武の身体を捉え、玄武はまたたく間にハリネズミのように矢が刺さり落下した。


 そして、ユーリの姿は……無い……

 いや、白虎と融合して目にも留まらぬ速度で一面銀世界になっている訓練場の中を駆け巡り、ジュリアの胸元に飛び込んでいった。


 この距離なら弓は使えない。

 白虎の鋭い爪と牙を駆使して超速の攻撃を繰り出す。


 しかし、SSSランクは伊達ではなかった。


 ジュリアの弓は、取っ手部分以外が鋭い刃になっていて、ブンブン弓を回転させながら、白虎の攻撃をしのぎさらに、ダメージを与えていく。


 白虎の爪が一段回長く伸び、ジュリアの弓を絡め取った所に、燃え盛る朱雀が突撃してきた。

 ようやく、ジュリアの姿が場外に退出させられた。



 ユーリの勝利だ。



 あまりの隔絶したレベルの戦いに、観戦したAランク以上の冒険者も言葉を失っていた。


「ユーリよくやった」と声をかけた。


 ジョーとメリーナもまさかジュリアが負けると思ってはなく呆然としてた。

 ジュリアも場外からユーリの元に戻ってきて「何なの貴方? 何故そこまでの実力がありながら、名前が今まで知れ渡ってなかったの? 」


「私は、そうね、戦いの場に姿を表すのはもう62年ぶりになるかしら? ジュリアがまだ生まれてなかった頃の話だから、知らなくて当然ですね」

「一体それだけの長い期間を、何をして過ごされていたのですか?」


 そこまで、話が進んだ所で俺が間に入った。


「まぁその話はまた今度ゆっくりするから、今日の所はこれでいいだろ?」


 単純に観客として見ていたジェイクも少し驚いていた。


「さぁ試験も終わったしスーザン、家の方の案内を頼むよ」


「か、畏まりました」


 俺達は、さっき書類で選んだ庭の広めの家、三軒を見せてもらって、一番囲いがしっかりとしていた家に決めて、賃貸契約を結んだ。

 敷地は、200坪程もある、家はそんなに大きくはないが、それでも寝室が4部屋と20畳程のリビングと、大きめのお風呂が付いている。


 この内容で、家賃は月に10万Gだ100万円と思うと高いけど、まぁ王都でこの内容なら納得価格だろう。


「ユーリ、ちょっと気になった事を聞いても良いか?」

「はい、構いません」


「さっきのジュリア、知っているのか?」

「顔を見るのは初めてですが、恐らく彼女は私の妹です。父の面影を感じました。私達エルフは一夫多妻が普通なのです。大体何処の家庭も兄弟全員の母親が違う状態ですね」


「そうなのか、それならもっと親しくしなくて良かったのか?」

「別に気にしていないつもりでは在ったのですが、私の母は人族でしたので、エルフの里で暮らすことは許されませんでした。純血のジュリアは当然成人まで、エルフの里で大切に育てられた筈です。少し嫉妬をしてしまいました」


「あー、それはしょうが無いな、別に気にしなければいいさ。ユーリは今までの分を、これからの人生でいくらでも取り返していけばいい。俺が全力で協力するから大丈夫だ」

「はい、ありがとうございます」


 それから、スーザンとともにギルドに戻り、家の契約を済ませてから、念話でタウロ子爵に確認を取ると『もう行ける』と、言う事だったので、入り口まで出てきてもらって一緒にファルムに戻った。

 イザベラの屋敷に送り届けて、明日少し相談に乗って欲しいと伝えて別れた。


 俺はユーリと共に、フローラのお店に向かい、初日の営業を無事に終えたことをねぎらい、街の居酒屋を貸し切りにして祝杯を上げた。

 初日の売上はなんと180万Gにも昇っていた。


 因みに、ユーリに用意されたギルドカードはSSSだった。

 アランやカイルよりも上のランクなんだな。


 まぁ相性のいい相手を選ぶのも実力のうちだからな。

 その基準だと、戦いを楽しみたがる、アランやカイルは少し不利かもしれないな。

 

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