第47話 裏奴隷商掃討作戦⑤

「さて次はワンハイだな」


 さっきのマフィアのリーダーが言ってたドーンの奴隷商って言うのは、表奴隷商と裏奴隷商が並んでいた場所の店の事だな。


 そこにワンハイが居るって言うのも何だかおかしいな?

 ドーンっていう奴隷商が脅されて協力しているって言う情報だったけど、鵜呑みにしたら危険だな。


 まず俺達は、裏奴隷商の玄関口になっている酒場へとやって来た。

 俺達が潰した店の情報は届いていないのか、まだ普通に営業しているな。


 まぁさっき潰した店と、この店は距離でも10㎞以上は離れているから、情報が届いていなくてもそんなに不思議は無い。


 電話なんてないしな。


 だが、念話の魔道具なんかは普通に手に入る筈だから、こんなマフィアみたいなやつらは使っていて当然だと思うんだがな?


 他の店の会員証でも、カジノへ入ることは可能なのかを確認してみた。

 すると、普段は問題なく案内できるのだけど、今日はよその店で問題が起こったから、この店の会員証で無いと入れないと言われた。


 そして俺の会員証を見ると、「お客さん、今日はそのカードの店には寄られなかったんですか?」

 と、確認して来た。


 どうやら、向こうの店の事件は伝わっているようだな。

 じゃぁ面倒臭いし遠慮無く行かせて貰おう。


「ああ、行って来たぞ。俺が勝った金を払おうとしないから潰して来た。ここに来たらお前らの親玉が居ると聞いたから、金を取り立てに来たんだ。ワンハイを呼んで貰えるか?」

「お前ら馬鹿か? ワンハイファミリーを敵に回して、この世界で生きて行けると思ってるのか? 取り敢えず死ね」


 そう言っていきなり後ろ手に持っていた剣で斬り付けてきた。

 当然そんな事は見通してる。


 俺の後ろから、アランが剣を一閃すると、俺と話していたやつの手が剣と一緒に飛んでいき店の真ん中に転がった。


 店内で悲鳴や叫び声が上がり、俺達を店員たちが取り囲んだ。

 下のカジノと裏奴隷商のオークション会場からも、マフィアの連中が駆け上がってきて総勢20人程の連中で囲まれた。


 この酒場で飲んでる客たちは、殆どがこの店の裏の顔を知らない一般市民達だから、一声かけて置いた。

「巻き込まれたくない人たちは、出て行った方がいいですよ、今日はお勘定は店が奢ってくれるそうですから、そのまま出て行っても大丈夫ですので」


 そう叫ぶと、関係のない一般客は殆どが出て行った。

 しかし、こういうイベントが大好きな冒険者連中は、逆に興味深そうに酒を飲みながら観戦を始めた。


「おい、お前らってオメガのパーティーか?」


「ああ、そうだがそれがどうした?」


「楽しそうだから手伝うぜ!」


 冒険者たちは15人程が残っていたが、全員が俺達を手伝ってくれるようだ。


「助かる、報酬は弾むぜ」


 そう言うや否や、俺以外の3人ハンク、カイル、アランが一斉に動き3分も掛からず全員の意識を刈り取った。


「すげぇ……」


「俺達必要無いじゃないか……」


 等の声が聞こえて来たが、それは違う。


「みんなの手を借りたいのはこっからだ。こいつら殺しちまうと寝覚めが悪いからな。俺達が戻ってくるまで、こいつらを縛り上げて逃げない様に見張っててくれたら、それで十分だ頼むぞ」


 そして俺達は4人で、地下のカジノのある方へと階段を下りて行った。

 ここにも、VIP会員の貴族たちや、金持ちそうな商人、高ランクっぽい冒険者たちは居たが従業員はディーラーとバニーガール達だけみたいだな。


「ワンハイは何処に居る?」


 バニーの女の子に聞いてみたら、チップの交換所の方を指さした。


 4人で乗り込むと「これはこれは噂のオメガランクの冒険者様じゃないですか、この様な所に何の御用でしょうか?」


 ありゃ、何か肩透かしの反応だな。


「お前がワンハイか?」

「左様でございます。お噂はかねがね伺っておりますよ、お近づきに一杯いかがでございましょうか?」


「何でマフィアのボスが商人のように振舞ってる?」

「何を仰いますか、マフィアと言えども人間です。自分がかなう相手か、そうでないかは冷静に見極めて、長い物には巻かれてないと長生きは出来ませんからな」


「ほう、部下の連中と違って馬鹿ではなさそうだな。まずは俺の要件を言う。お前の他の店で今日5億1200万程勝ったんだが、金を払う気が無い様だからお前に払ってもらおうと思って訪ねてきた」

「そうでございましたか、それは教育が行き届きませんでご迷惑をおかけしました。では迷惑料込みで6億程お支払いさせて頂きましょう」


「随分気前がいいな、何を企んでいる」

「折角お近づきに成れたんですから、このチャンスを生かせない様では、この世界で生き残って行く事なんて出来ませんぜ」


「俺はな、裏奴隷商を許す気が無いからここで機嫌をとっても、恐らく俺はお前を潰すぞ? 」

「そうでございますか、ではお約束します。ただ今を持って奴隷商売からはきっぱりと足を洗いましょう。別に好きでやって居た訳では御座いませんし、私共のようなある程度の力を持った所が取り組まなければ、もっと悲惨な扱いを受ける奴隷が沢山出てきますのでしょうがなくやっておりました」


「私共を利用していたのは、教会の司教様でございます。彼らから私共を守っていただけませんか」

「ふん、仲間を簡単に切り捨てるのか? 信用出来んな」


「仲間では御座いませんよ、私共は利用されてただけだと自覚しております。ただしマフィアとしてはこの国で一番に成りたいとも思っておりますので、如何でしょうか? 私共を仲間にしてみませんか」

「面白い提案だな、じっくり話を聞こうか」


 ワンハイという男に興味を持った俺は、一度王都の拠点にワンハイを連れて転移して話を聞くことにした。


 アラン達は俺とワンハイの会話には一切の異論を唱えず、俺がどうするのかを黙って見ていた。

 拠点に付くと、まず「それでは先にお約束の6億Gお支払いさせて頂きます」と言って、マジックバッグの中から、白金貨で6億G分を出して来た。


「確かに受け取った。それではまずお前の部下を解放してやろう」


 ハンクとカイルに指示を出して2軒の店に向かわせ、ワンハイの部下の解放と、見張りの冒険者達に一人当たり10万Gを払ってやってくれと言って、白金貨を渡した。


「流石に判断が早いですな、感服致しました」

「まぁなお前達の商売は、もしここでお前を殺しても他の奴らが同じ事を始めるだけだと、俺も理解しているからな、力を持った勢力が仲間になり、必要以上の悪事をしないのであれば逆に治安は良くなる事位は理解できる」


「おっしゃる通りでございます。組織に属さないチンピラ程質の悪い存在はございません。私共がきっちりと牛耳っているからこそ、下手なチンピラが騒がずに治安を保てるのです」

「それで、奴隷商売からはきっちり手を引くのは間違いないんだな? お前はマフィアとして何をどうしたいんだ?」


「残念ながら、まだ私のファミリーは王都でNO1では御座いません。ご存知でしょうがペスカトーレの所の規模の方が人数もシノギもでかいですな」

「それは調べているから知っている」


「やはりですか。ペスカトーレの後ろ盾の伯爵をやり込めたのもオメガ様ですね?」

「オメガは辞めろコウキでいい」


「ではコウキ様。ペスカトーレを潰して王都のマフィアは私の所だけにして頂きたい。賭け事の元締めと酒場と売春宿の元締めを一手に引き受けさせてもらう事で、それ以外の裏奴隷商や麻薬の取り扱いは一切しないと誓いましょう。逆に違法奴隷の取り扱いに関してのあらゆる情報を集め、お伝えすることも出来ます」

「必要悪っていう事か、それは絶対に無くならない部分の悪事だと俺も理解は出来る。元締めが居ないと纏まりが付かずに余計な争いが起こることも理解は出来る。解った。取り敢えずはお前の言葉に乗ってみよう」


「ありがとうございます。うちの連中はああ見えて中々気のいい奴らが、揃ってますんでお役に立てると思いますよ」

「まぁ他にも色々聞きたい事も有るが、今日の所はこれだけで十分だ。ただし裏切るなよ俺は約束を破るやつには厳しいぞ」


「胸に刻んでおきます」


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