第42話 奴隷商裏
カオルのカレーショップの初日は大盛況だった。
営業終了後にハッサンさんを連れて俺は王都へと転移してきた。
「ハッサンさんスパイス類の買い付けはお任せしていいですか? うちで使う分もハッサンさんの商会が取り扱って貰えれば手間が大幅に省けますから」
「畏まりました。コウキ様へのスパイスの提供は、私の仕入れ値でそのまま卸させて頂きますぞ」
「うちのカイルにスパイス類の栽培を始めるように指示を出したので、1年後にはある程度は自前で揃える事が出来るようになると思いますが、最初の年はよろしくお願いします」
「今回のカレーショップで一番重要なのは、スパイスの調合にあると私は思っておりますので、コウキ様から教えて戴いたレシピは秘伝として、スパイス調合はファルムの本店でのみ行い、各店へはファルムから調合されたスパイスを配送する形にいたします」
「それなら情報が漏れる可能性は少ないから独自性が保てますね。カオルの店のスパイスの調合も自分か、カオルだけで行うように徹底します」
「コウキ様は他にも色々素晴らしい料理をご存じなのですか? もしカレーに匹敵するほどの料理があるならば、店舗展開はこのハッサンにお任せ戴きたいものですな」
「そうですね、何品かは人気が出そうな商品のアイデアがありますから、そのうちハッサンさんにもお見せできると思いますよ」
「楽しみにしておきますぞ」
◇◆◇◆
ハッサンさんと別れて、俺は王都で情報集めを頼んでいるハンクに、念話で連絡を入れた。
『ハンクか、今王都に来ている。一度拠点に向かうので裏奴隷商の情報が欲しい』
まだ、念話に関してはこちらから伝えることは出来るが、魔道具は手に入れてない為に会話は俺からの一方通行だ。
転移で王都拠点へ向かうと、ハンクは既に拠点に居た。
「主、裏奴隷商ですが調べれば調べる程にろくでもない情報が入ってきています」
「やはりな、具体的にはどんな感じだ? 」
「20件が存在している裏奴隷商の中で、実質の経営者は2つのグループに分かれています。1つは王都を牛耳るマフィアの『ペスカトーレファミリー』が運営しています。ここの後ろ盾は法衣伯爵のジュゼッペ卿です。主に獣人とエルフを国外で拉致監禁して、違法薬物で洗脳して奴隷にしています。ここの関連が12件ですね」
「もう一つはもっと質が悪いです『ワンハイファミリー』という大陸の東の大国出身者のマフィアですが、そこはフィオーネ聖教の司教が後ろ盾にいます。主な取り扱い奴隷は教会が運営する孤児院から供出されています。中には子供を孤児院に入れさせる目的の為に、両親が強盗を装って惨殺されたりする事件があるそうです。ここの関連が8件です」
「想像以上に酷いな、小規模に店舗を分けているのは摘発された時の為の用心ってとこか?」
「その通りです。許す必要は無さそうですが、相手が大物過ぎますから実際に摘発されると大騒動になるでしょうね」
「今は王都の総帝も北の災厄に掛かりきりだから、今のうちにさっさと片付けてしまいたいな」
「表奴隷商に隣接した裏奴隷商は『ワンハイ』系列の店ですね。ここは王都から認められた奴隷商の主人を、ワンハイがギャンブルで嵌めて、言いなりにさせています。主に表の店から借金奴隷を集めて、それを性奴隷に貶めさせるための場所ですね」
俺は、この王都の奴隷制度を根底から覆そうなどの、大層な理想を掲げたりはしないが、少なくとも違法と理解した上で商売をしている裏奴隷商を許す気は更々無い。
早速取り組むか。
「ハンク、ワンハイに脅されている奴隷商は仲間に引き込むことは可能か?」
「王都からワンハイの勢力を駆逐する事が出来れば可能だと思いますが、問題はフィオーネ聖教とのつながりですね、この司教はフィオーネ聖教でもかなりの実力者で、次期教皇の声もある人物です」
「現教皇はこの事実を把握していたりするのか?」
「それは無いと思います。現教皇は民衆の評判も良く、聖女と共にノア王国内の難病治療の為に常に国内を訪問して回っています」
「そうか、それならこの司教には早々に退場してもらわなきゃな」
まずは、ワンハイ勢力の裏奴隷商を徹底的に壊滅させる事にした。
勝手にペスカトーレ勢力からの攻撃だと思って、裏奴隷商同士で敵対しあってくれれば俺も動きやすいしな。
「よし、今日はワンハイ勢力の奴らに近づいてみたいから、繁華街に出て派手に遊んでみるか。ハンク付き合え」
「畏まりました。王都には楽しいお店がたくさんありますよ」
この日の夜は王都の繁華街を堪能した。
ハンクの事前調査による、ワンハイ勢力の経営する店に限定して顔を出した。
日本でいう所のキャバクラやオッパブのような店から、売春宿のような形態まで様々な店があり、派手にお金を使い羽振りのいい冒険者を印象付けた。
これを何日か続ければ、非合法組織の連中は勝手にすり寄ってくるはずだ。
裏カジノへの誘いとか持ち掛けてくれば、乗った振りをして他の客たちを特定していくことも出来る。
決して俺が楽しみたいだけじゃないんだからね!
◇◆◇◆
其れから3日間を昼はファルム、夜は王都で派手に遊びながら過ごしていると、目的通りに怪しげな誘いがあった。
この3日間毎日通っているキャバクラのような店の女の子が誘って来た。
「お客さん凄いお金持ちですよね。今日お店が終わってから一緒に遊びに行きませんか? 選ばれた特別な人たちが集まるカジノがあるの。凄いゴージャスで、有名な女優さんや俳優さん達もたくさん出入りしてる所なんですよ」
「ほー、選ばれた特別な人って言うのが気に入った。案内してもらおうか」
その日はラストの時間までその店で過ごし、メリーと名乗るその女の子に案内されて、ハンクと共にカジノへと向かった。
「このお店はね、カジノだけでなくて奴隷のオークションなんかもあるのよ、普通の奴隷商じゃ手に入らないような、極上の奴隷を手に入れるチャンスもあるんですよ」
いきなり、核心を付いた場所に案内されたな。
まぁ案内された場所が、俺のマップ機能に表示されてた裏奴隷商のマークが付いた場所だったから、想像は付いたけどな。
メリーと共にルーレットやバカラに似たカードゲーム等で遊びながら、奴隷のオークションが始まるのを待った。
「初めてのお客さんは、まだ奴隷を買う事は出来ないけど、ここに出入りしている会員の3名以上の推薦があれば、奴隷の入札も出来る正会員にランクアップできるわ、積極的に親しい人を作るといいわよ」
そして始まった奴隷オークションには、性奴隷として扱われる幼い女の子たち以外にも、
王都でアイドル活動をしている様な女の子や、舞台女優までもがオークションに掛けられていた。
このカジノで借金を背負わされた末に、借金返済の為に身売りをさせられているようだ。
アイドルや女優たちは奴隷としてでは無く、一晩の権利を買うような感じのオークションだ。
そして集まっている客たちは、恐らく貴族であろう人物が全体の半分、羽振りの良さそうな商人や、高ランクの冒険者の様な人物もいる。
身バレをしない様に、参加者全員が怪しいマスクを着け、服装も解らない様に全員がフード付きのマントを羽織っている。
俺は一緒にいるメリーに気付かれない様にハンクに念話で指示を出した。
『ハンク、今日は見るだけにするが、今日のオークションで奴隷を購入した客のうちの一人を尾行して、個人を特定してくれ足掛かりにしよう』
「メリー俺も正会員になって、アイドルの女の子を抱いてみたいぞ。金は出すから俺を推薦してくれる人を紹介して貰えないか?」
「安くないですよ? 大丈夫ですか」
「最初から払えそうもないやつをここに連れてこないだろ?」
「テヘ♪ お見通しですよね。私はここの会員になれる人を見つけ出して紹介するのがお仕事ですから、これでも人を見る目はある方だと思ってるんですよ。お客さんは今まで私が紹介して来た人の中でも、別格の雰囲気を持ってるから、きっとお金持ちだろうなって思ってたんです。私を愛人として囲ってくれるのでもいいんですよ?」
「メリーを愛人にするのも悪くないが、俺は気が多いからな1人に縛られるよりワンナイトラブを望む」
「そうなんですね、私はちょっとヤキモチ妬いちゃうかもしれないから、それならオークションでお相手探しの方が良いかもしれないですね」
一度カジノに戻りメリーに俺の推薦をしてくれる人間を紹介してもらう事にした。
カジノで負けが込んでる奴なら、比較的簡単にお金で転ぶからお薦めだそうだ。
羽振りの良い所を見せつけるのも一つの手だなと思い、ちょっとカジノで稼いでみる事にした。
俺が向かったのはルーレットのテーブルだ、ルールは地球のものと変わらない。
0が一つのヨーロピアンスタイルのホイールだな。
ディーラーがボールをホイールに投入し、ベルを2回鳴らすまでの間にベットをするルールだ。
俺には、時間操作スキルがあるからショートトリップをする事で100%結果が解る。
怪しまれない程度に少額で外し、大勝負は確実に勝つ事を繰り返し、1時間程で1千万G程の利益を出した。
「スゴーイ私やっぱりお客さんの愛人が良いなぁ、駄目かなぁ」とメリーがしなだれかかってくる。
「ヤキモチ妬かれるのは俺的に無理だから却下だな」
「残念、まぁいいわ紹介料で稼がせてもらうね」
結局同じ様にメリーから紹介されてここの正会員になってる男を紹介してもらい、それぞれに10万G程のチップを分け与え俺の推薦をさせて、晴れてこの裏カジノのメンバーとなることに成功した。
推薦をしたメンバーがカジノ内で問題を起こした場合推薦人が、連帯責任で保証をする決まりがある為に、推薦を与える事が商売として成り立つような内部ルールのようなもんだ。
さぁこれで準備は整った。
明日からは、この組織を潰す為の行動を起こすとするか。
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