第27話 侯爵領の判断

辺境伯との顔合わせを終えて、ボブやユーキ達のパーティもファルムの街へ向けて出発した。


 俺は、ハッサンさんと共に、ゼスタール準男爵の元へと転移で移動した。

「ハッサンさんは、どう言う展開になると思っているんですか?」

 「そうですな、私としては自分の利益で考えれば、ファルムの街が西部で一番の街になってくれる事が、一番望ましいのですが、侯爵領を次ぐ人物次第では侯爵領に店舗を構えて、柔軟に動ける事にも魅力を感じますな」


「商人さんはどんな状況でも、利益を考えて行動をされるんですね、勉強になります」

 「コウキさんにそう言って貰えると、嬉しいですな。人によっては利益を追求することをよく思わない人も一定数いらっしゃるので、中々利益を追求する話を人前ですることは出来ないのですよ」


「俺は、自分が育ってきた環境の中で、お金の大事さはある程度理解できていますから、逆に儲からなくても自分の好きなことが出来ればいいとかいう商人は信用できません」

 「まさに、仰る通りですお金をかけなくても出来る事はありますが、同じ時間を掛けて更にお金をかけることが出来るのであれば、より良い結果が訪れるのは、自明の理でございますよ」


「そう言えばハッサンさん、ハンクが初日に捕えた盗賊たちの財宝を見つけ出しましてね、ほとんどが盗品でしょうし、殺された方の遺品も多く在ったと思うので、ファルムのイザベラさんに、出来る限り遺族へ戻してやって欲しいと伝えたんですが、そんな事をすれば詐欺師が大量に湧くだけだと諭されました」

 「やはりコウキ様は盗賊のお宝を手に入れてらっしゃいましたか、かなりの量が在ったのでは無いですか?」


「今ファルムで、遺族優先での買取をイザベラさんの指示で行っている筈ですが、残ったものに関してはハッサンさんに、任せますのでお願いします。俺はまだ商売をする伝手なんか全然ないですからね」

 「それはそれは、ファルムに戻ってからの楽しみが増えましたな」


 さぁこの領の問題も、さっさと片付けてしまいたい所だが、現状はどうなのかな?俺はハッサンさんと共にゼスタール準男爵の前に顔を出した。


「ハッサン、コウキ待っていたぞ。コチラの状況は中々にバタついているぞ、ハンクが居なければ私も暗殺の対象になって、死んでいても不思議はなかった、助かったぞ」

 「お役に立てたようで何よりです。今の問題は長引かせても何も良いことはありませんので、一気にかたを付けてしまいましょう」


 まずは、今回の子爵領との戦争は、子爵側からの一方的な宣戦布告でその理由に関しても、全く理不尽なものであり、ゼスタールの領主として戦争は受けていない。


 次に攻め込んできたゼゼコ軍に対しては、コチラから攻撃を仕掛けるつもりもなかったが、一般市民である商隊に対して、自分の支配する領地で盗賊行為を行った為にこれを討伐した。


 その2点が非常に大事な事である。貴族と言えども盗賊行為が許されるような法律などは、存在しないのだ。 もしそんな法律があれば、国民は皆他の国へ亡命するだけだろう。


 まずは、侯爵領に対して今回の顛末を正式に報告する。侯爵領としての見解を聞いた上で、場合によっては寄り親の変更を王都に願い出ると言う書を携えてだ。


 今回早期にゼスタール領への指示を打ち出してくれた、20人の準男爵のうちの15人が、一緒にそのような理不尽がまかり通ることがあるのであれば、寄り親の変更願いを提出すると、言ってくれている。


 残り5人の準男爵は、恐らくゼゼコ子爵の息がかかっている家なのであろう。


 侯爵領の意思決定は、現状は子爵6名の多数決での決定で事を進めているという事だ。


 実際には4男のゼゼコ子爵は参加できないので、それ以外の5人であるのだが今回は、ゼスタール準男爵の名代として、法務官を5人派遣して俺がアランを連れて護衛についた。


 こちらの要望として、実質ゼゼコ子爵領は既に実効支配しており、このままゼスタール領との統合を行う、それが認められれば、今回の内戦騒動は終了とする。


 ゼゼコ子爵に関しては、ゼスタール領で行われた盗賊行為の首謀者としての処罰を、侯爵領として行ってもらう。


 現状望むのはこの2点だけだ。


 俺達の法務官はこちらの望む回答が得られなかった場合は、王都の司法組織に問題の裁定を委ねると言葉を続け、こちらの言い分とした。


 それに対して、1時間の協議時間を持った上で回答させてくれと、侯爵領側の法務官からの回答があり、それを受け入れた。


 さて、馬鹿な動きをするやつが居るとすれば、この一時間の内に来るはずだ。


 そして・・・馬鹿は居た。


 俺とアランがこちらの5人の法務官と食事をしていると、レストランに強盗が襲ってきた。こんな都合よく現れる強盗なんか、胡散臭さしか無い。


 あくまでも、偶然の強盗被害を装いたいのであろう。俺達に関係のないお客さん達がいきなり剣で切りつけられて、殺された。そしてそのまま俺達に向かってくるが、組織だったその動きは、強盗団のものでは無く、軍人の動きだとアランは判断した。実際に軍人だったアランが言うのだから間違いないだろう。12人程の強盗団の数もこの国の軍の小隊の人数と同じだそうだ。


 しかし並の軍人が襲ってきたのでは、俺達を殺せるわけもない。俺は5人の守りをアランに頼み、レストランのカウンターの上に並んでいた、食事用のナイフとフォークを手にして、12人の眉間に正確に投擲して、一瞬で全員をを返り討ちにした。


 アランが犯人達の持っていた剣を改める。やはり軍から支給される剣で一般人や、強盗が持つものではなかった。


 誰の指示で動いたのかが気になるが、既に全員死体だから教えてもらえないな。


 レストランに居た他の客や店主達から感謝されながら、何気ない顔をして会議の場に戻っていった。

 俺はちょっといい案を思いついたので、1人重要な人物を連れて来て、俺達の法務官の後ろで話を聞いてもらう事にした。


 無事に戻った俺達を見て、驚いた顔をしたのは、長男の子爵と3男の子爵だった。長男の子爵は味方になってくれると思ってたのに残念だ。


 3男の子爵はゼゼコの時に既に明確な敵と解っていたから、別に驚かなかったが。これで敵では無いだろうと思えるのは、次男の子爵と、5男の子爵の二人だけだ。


俺は全く気付いていないていで「レストランで食事をしていたら強盗の襲撃に巻き込まれまして、驚きましたよ、犯罪者を許すわけにはいかないのでその場で全員打ち取りましたが、法務官殿を守れて安心しました」


 と、言葉を紡いだ。


 すると、長男の子爵が「平民のお前が貴族の我々の前で、許可もなく口を開くなど不敬罪で切り捨てられても文句が言えないな、拘束しろ」と侯爵領の護衛部隊を呼び俺を拘束しようとした。相手は20人程だ。


 「それは、侯爵領としての命令か、子爵個人としての命令なのかをはっきりとして貰えるか?」


 長男子爵が「ここは侯爵領の意思決定機関だ、当然侯爵領としての命令だ」と口にする。

 すると次男のゼータ子爵が「兄上、侯爵領の決定という言葉を使わないで頂きたい、父上が意識を無くされて居る現状では、この会議において正式に多数決を取り、可決された案件のみが侯爵領の意志となる。今の命令は会議を経ていないので、兄上の子爵としての命令だ」


 「ゼータこの兄の言葉に従えぬというのだな、解ったお前は今この時から、明確に俺の敵として扱ってやる首を洗っておくがいい」


「という事は、侯爵領としての意思決定機関は機能していないという事で、いいのかな?」

 と俺は確認をとった。


 法務官は、「この状況を見る限り、既に侯爵領ととしての政治が行えていない、無政府状態だと判断出来ます。王都からの判断をしていただければ、恐らく侯爵領としてはお取り潰しになる案件でございますね」


 「現在の侯爵が病を治して、現状の問題解決を行われない限りは、侯爵が亡くなった時点でこの領地は一度王都に召し上げられ、然るべき措置を受けることでしょう。男爵家のように、ご自分の才覚で今の地位を手に入れた方々以外は、恐らく領地を失い平民に成らざるを得ない決定が下るでありましょう」


 「そんな馬鹿な話があるものか、男爵が残れてそれより上位の子爵である俺達が爵位を失うなど在る筈もないおい、どうなんだうちの法務官から、言い返してやれ」


「恐れながら、子爵様方あちらの法務官の言う言葉は、この国の法律にかなっております。子爵様が侯爵領の兵に対して、侯爵領会議の決定無く命令を発したと、国に報告された時点で、侯爵領として機能してないと判断され、国の直轄地に召し上げられてしまうのは、この国の法で決まっております」


 「では会議が行われて、決定した事と証明すれば問題ないのだな?」

「その通りでございます」


 「今決を取る。反対のものは挙手をしろ。議題はこのゼスタールから送られてきた連中の不敬罪での、拘束もしくは切り捨てだ」


ゼータ子爵と5男の子爵以外の3人が賛成した、「ああやっぱり馬鹿だな、お前達は20にんぽっちで俺を拘束できるとか思ってるのか?」


 「ゼータ子爵あなたはこの侯爵領をまとめて、収めていくつもりは無いですか?」と俺はゼータ子爵に聞いてみた。

「私はその気はないな、だが推薦したいものなら居る。この5男のゼフィールだ俺達の中で一番物事を正しく判断できると思う。これからの侯爵領はゼフィールに任せたい、俺は情に流されて正しい判断ができないから政治には向いてない」 


 「何を勝手な話をしているんだ、もう今会議で決定した、こいつらは今から無礼討ちされて、ゼータとゼフィールの領地は、それが終わり次第謀反の疑いがあるので、侯爵軍によって占領され、お前達二人も裁判にかけられ死罪が言い渡されるだろう」


 「そろそろいいでしょう、侯爵様この場を収めて頂けますか?」


俺達の後ろに居たのは俺が治療魔法で病気を回復させた、このゼスト侯爵領のアーガイル・フォン・ゼストその人であった。

 

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