第26話 Ω

 俺は、今日はこの後の予定も詰まってるし、早く終わらせたいと思って、カイルとアランの個人戦が終わった後で、俺の個人戦とパーティ戦を一緒にして『ドラゴンファング』対俺で、試験をしてもらえるように頼んだ。


 あ、ガースさんのこめかみに青筋が浮かんでる。もしかして怒らせちゃったかな?


 「随分と自信があるようだな、まぁここだと致命傷を受けたら外に転送されるだけだし、そう言うなら相手をしてやるよ、時間が惜しいみたいだから、みんな全力で相手して差し上げろ」


 その言葉を受け、このパーティの基本フォーメーションなのであろう布陣に構えた。


 周りを囲んで見ている王都ギルドのAランク以上の冒険者達も凄い盛り上がりようだ。


口々に、「あいつらスゲェぞガースと互角の打ち合いしたり、ジョーをはめ殺したり出来るやつなんて、この国に存在してるとか信じられないぜ」だとか、「パーティを1人で相手しようとしているあいつは、頭がオカシイのか?それともさっきのカイルやアランって奴より強いっていうのか??」とか喧々諤々けんけんがくがくと話してる。


 じゃぁちょっとは期待してくれてるみたいだから、張り切っちゃおうかな。


 ガース達のフォーメーションは先頭にガースそのすぐ後ろに隠れるようにジョーその後ろに女性二人が並列に並ぶ、矢のような形のフォーメーションだ。


 まぁジョーはさっきの致命傷で能力半分だから、遊撃しか使えないだろうな。問題は女性二人だSSSランクのジュリアは弓を構えてる。SSランクのメリーナは魔術師のようだな、鈍器のようなスタッフと呼ばれる杖を使ってるし、白魔道士よりなのかな?


 「4対1だし先手くらいは譲ってやる、好きな攻撃を仕掛けてこい」とガースが言ってきた。


それを待ってた。


カイルとアランの顔がひきつった。ジリジリと壁際に後退してる。カイルなんか尻尾が股間に丸め込まれてる。


「では遠慮なく」


俺は胸ポケットのツバサに最大化しろと命令を出して飛び乗った、そこから全力のナパームボムを最大規模で放った。


 「終わりでいいかな?」


 まぁ返事を聴こうにも、審判のジェイクさんも含めてみんな外に転送されちゃってるけどね。

 ちなみにカイルとアランにはちゃんと結界を張ってやったぞ。


 中に戻ってきたジェイクと『ドラゴンファング』のメンバーにもう一度、「終わりでいいですよね?」と確認をした。


 ジェイクが、「あのなぁ試験てのは、動きの良さとかそう言うのも含めて見るもんだから、もう少し普通の方法でやってほしかったんだが?」


 「あ、そうなんですね、先に言ってくれれば良かったのに、でも今からだと能力半分だから無理ですね、結果は別にこだわってないですから、又機会がある時にでも相手して下さいね、ちょっとこの後の時間がつまってるから、今日このままランクの更新だけして戻りますね」


 外の観戦者達もあまりの展開に、既に一言も発する者が居なかった。


「一つ聞かせてくれ、お前は・・・コウキは魔導師なのか?」


 「いえ、JOBは無職ですよ?魔法は最近覚えたばかりで一番苦手ですね」


 ガースの質問に素直に答えると、『ドラゴンファング』のメンバーはその場に膝をついた。


 ◇◆◇◆ 


 俺達は、一階の受付カウンターに戻りそれぞれ、ギルドカードを提出して書き換えの終了を待った。


 カウンターにジェイクがやって来て、受付の可愛い女の子と交代し俺達を呼んだ。


 どうせなら可愛い女の子からカード貰いたかったな。


 ジェイクが3枚のカードを用意して俺達の前に置いた。


「まだ今の試験では、正確な実力を判断させて貰うには、データ不足だと判断したので、あくまでも暫定のランクだ。カイルとアランはSSランク、コウキはランクΩを認定する。パーティランクはSSSだ国内で出される全ての以来を受ける事ができる。それともう一点これは強制ではないが、王都ギルドへの所属変更を求める」


 「あの?Ωってなんですか?聞いた事無いですが」


「SSSランクの上は、帝と総帝様しかランクがない。しかしSSSランクパーティを魔法一発で倒す竜騎士がSSSと言う訳にもいかないから、急遽用意したクラスだ。全国のギルドに通達を出すが、帝クラスと同意義と受け取っておいてくれ」


「そのカードは、アダマンタイン製の特別カードだ、各ギルドで身分に応じた待遇を受ける事ができる」


 「あーありがとうございます。でも所属変更はお断りします。ファルムでやりたい事が残ってますから」


「そうか残念だ、気が変わったらいつでも来てくれ」


 「それではこの後の予定がありますから、失礼します」


 俺達はボブとユーキのパーティと合流して、ハッサンさんの店へ向かった。




 その後オメガランクはそのままコウキの二つ名となり、オメガ=コウキはこの国のみならずこの世界全体に広く名を知られる冒険者となる。


 ◇◆◇◆ 


 ハッサンさんの店についた俺達は、無事に全員合格出来たことを伝え、ハッサンさんと一緒に辺境伯の王都邸へと向かった。


 国の中央に位置する城へ向かって、何層にも及ぶ防壁を超えて進む。この国では王都の発展に伴って何度も拡張工事が行われてきており、その際に元々在った壁は壊さずに外側に街を拡張していくスタイルの為に、上空から見れば、バームクーヘンの模様に成っているはずだ。


 ハッサンさんの店を出てから1時間ほどを掛けて、漸く馬車は城を囲むすぐ次の層2層目に到着した。この層に居を構えることが出来るのは、伯爵以上の爵位が必要となり、現在77の屋敷があるそうだ。


 公爵家が6、侯爵家が24、辺境伯家が4、伯爵家が43である。法衣伯爵が13名いるそうなので、64の県が在る事になるが、伯爵領は、県というよりは政令都市的な位置づけだと思っていいだろう。


 国の直轄領でもある公爵領に関しては、府と言う位置づけで考えて間違い無さそうだ。


 ここにある領主達の王都邸は、それぞれの貴族家の面子も有る為に、非常に豪華な作りの屋敷が並んでいる。貴族家にこの王都の街で、資産を消費させる為の目的のある参勤交代制度でもあるので、国としても豪勢な屋敷の建設を推奨している。


 俺達はファルム辺境伯の王都邸に到着すると、衛兵が馬車をあらためた後で屋敷の方へ案内された。門から更に馬車で3分ほど掛かる広さだ。衛兵の先導も馬に騎乗して行われる。


 そして漸く到着すると、執事が現われ屋敷へ案内されるが、ハッサンさんだけである。

 俺達は、屋敷の前で整列して待ち続ける。


 5分ほど経ち漸くハッサンさんが、いかにもな立派な髭を蓄えた40代半ばの男性とともに出てきた。

 ハッサンさんの家人が、皆膝を付き頭を下げたので俺達もそれに習う。


 「ご苦労だったな、俺がファルムの辺境伯だ、名をカルバンと言うさぁ立ち上がって顔を見せてくれ」


 俺達冒険者はその言葉で立ち上がって、辺境伯の顔を見た。確かに言われてみれば目とかイザベラに似てるかな?と思ったが、言われなかったら絶対解んねぇよな。


 「お前達は、無事にBランクへの試験を合格した優秀な冒険者だと聞いている。これからこの国とファルム領の為に力を貸してくれ、宜しく頼むな、それではギルドカードを見せて貰いながら自己紹介を頼む」


 ボブのパーティから順番に自己紹介をし、俺達の順番になってカイルがカードを見せた時に辺境伯の表情が変わった。


「SSランクだと何故Bランク試験の更新をしてそう言う結果になるのだ?まぁいい全員の自己紹介を済ませてから改めて聞こう」


 そして、アランのカードも同じくSSランクなのを見てもう一度目を見張ったが、俺のカードを見ると時が止まった。


「オメガだと?何なのだそのランクは?俺は聞いた事が無い」


 「代表して説明してもよろしいでしょうか?辺境伯様」


 元が営業マンの俺は、別にランクが何であろうと相手を立てて会話する事など、全く抵抗なく出来るぜ。


「許す、教えてくれ」


 俺は、試験官のドイルの薦めで、昇級試験を受けてその結果SSSランクパーティとの対戦でそれぞれが、このランクを授けられた事を説明し、俺のランクも暫定的の措置で授けられたと伝えた。


 「そうであったか、しかしコウキよ、もしそのランクが帝と同等という事が、正式に発表されれば、コウキの身分はそのランクにあり続ける間は、俺と同じ伯爵位だ。遠慮せずにタメ口で話していいぞ」


「いえ、そう言うわけには行きません。俺は貴族位に付きたいとも思っていないので、面倒な王都とのやり取りなどは、辺境伯様任せで、気楽に過ごせる事を望みます」


 「なる程なぁ、まぁコウキがそれでいいのなら何も言わんが、ファルムの街の為にも協力はしてくれよ?」


「出来る範囲でなら、承ります」


 そこまでの話が進むと、ハッサンさんが語りかけてきた。


「コウキさん、いきなり偉くなられましたなぁこれはどう致しましょう。この後のゼスタール領の問題はコウキさんよりも、格下のお家の問題と成ってしまいましたが、ご協力は頂けますか?」


 「いやいやハッサンさん、別に俺は偉くなったつもりは無いし、やりかけた事を途中で放り出すつもりも無いので大丈夫ですよ」


「そうですか、安心致しました、この後は隣の公爵家へ辺境伯様と荷をお持ち致しますが、皆様一緒に伺って頂いても構いませんか?」


 俺達は、公爵家と言う響きへの興味も在ったので、了解をしてハッサンさんに付き従った。


 隣の公爵家と言ったよね?隣の屋敷まで行くのに馬車で10分以上掛かるって、どんな基準なんですか?とは思ったが、確かに間に家がるわけじゃないので、隣なんだろうな・・・


 この一層の上級貴族街区は、元々の王都の大きさをそのまま上級貴族街へとしてあるので、とても敷地面積は広いのだ。


 そこで辺境伯が話し掛けてきた。


「コウキよ、お前もオメガランクの身分確認が正式にギルドから発表されると、この上級貴族街区に屋敷の区画が用意されるはずだぞ、帝達の屋敷用の区画は一応用意されてるからな、まぁ帝は区画があるだけで誰も屋敷をこの区画へは建てていないがな、帝の場合は身分の相続が出来ないから、屋敷を建てると勿体無いというのがあるからな」

 

 「俺もこんな堅苦しいところに、家を建てるのは有り得ないですね、そんなお金があるなら人に投資したほうが良いですよ」


「俺も年が明ければ、ファルムに戻るからその時にはゆっくり酒を飲もう。色々面白い話が聞けそうだ」


 公爵家の屋敷は更に大きかった。屋敷の敷地にちょっとした林まである。まぁ商隊の身分では屋敷の中には入れないんだが、外観を見るだけでも十分に豪華さは伝わっている。馬車を屋敷の前に止めると、赤い絨毯が馬車の位置から、屋敷の門まで拡げられ、商品を公爵家の家人がうやうやしく運び込む。


 辺境伯だけが護衛を二人伴い屋敷の中へ入っていった。


 まぁ俺達には堅苦しいだけの納品だな。


 1時間ほど玄関で待って、辺境伯が戻ってきたので、一緒に辺境伯家の前まで戻り、門の前で辺境伯を見送ってから、ハッサンさんの店に戻った。


 ボブ達とユーキ達はそのままファルム行きの商隊の護衛に着くということで、ここでお別れとなった。


「コウキさん、ファルムに戻ってきたら一緒に一度酒を飲みにに行きましょう。ファルム初のSSSランクパーティと知り合いだなんて、俺達も自慢できます」

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