第28話 侯爵様
「全く情けない、衛兵に命ずる、ゼータとゼフィール以外の3人を捕らえよ、国の法を無視して自分の都合だけで、行動を起こすような、馬鹿どもの名前を呼ぶのも虫酸が走る。おって沙汰を与えるまで、牢に放り込んでおけ、特別扱いは無しだ犯罪者として放り込んでおけ」
侯爵様、元気になった途端に激おこモードだ。
「侯爵様が元気に成られたのであれば、我々が口を挟むことは、一切御座いません。侯爵領の問題として、解決なさって下さい。出過ぎた行動申し訳ございませんでした」
俺は、これ以上はもう何もする必要もないので、侯爵様に丸投げで戻る事にした。
「待たれよ、まだ名前も伺っておらぬ、この死にぞこないの老いぼれに、まだ仕事をさせるつもりなら、最後まで責任持って見届けられよ、いきなり病を治療して貰って、そのままここに連れて来られ、『取り敢えず状況を見て頂けますか?』と言われただけでは、わしも何が何だか解らないではないか」
「あぁ私の名はコウキと申します、ファルムを拠点に冒険者をしております。
私は侯爵様が元気に成られた以上は、ただの部外者です。状況の確認等も私からではなく、ここにいらっしゃるゼータ子爵と、ゼスタール準男爵に聞かれるのがよろしいかと思います」
「ゼスタールとな?あの頑固者が何かしでかしたのか、直ぐに呼び寄せよ」
侯爵は、衛兵に対して命令を出した。
「私達は、侯爵様が状況を把握されてから、それでも御用があると言われた場合にもう一度参ります。それまではこの領都の街で寛がせて頂きます、ここに居る法務官達が、お聞きになりたい事は、ある程度把握しておりますが故、法務官はこちらに残して行きます」
俺達はアランとカイルを連れて、領都の侯爵屋敷を出て一度ゼスタール準男爵の元へ転移で移動した。
侯爵様が、ご病気から回復されて、全ての差配は侯爵様自ら執り行うことになった事を、準男爵と、ハッサンさんに伝え、既にゼスタール準男爵を呼び出すための使者が、こちらに向かっていることを伝えて、俺はハッサンさんを連れ領都に戻った。
「コウキ様の仕業で御座いましょう?また私の予想の斜め上を行く展開になりましたな。愉快極まりないですぞ」
「少なくとも、これで準男爵が不利に成るような展開には成らないでしょう?ハッサンさんもゼスタール様が出世なさる結末が一番良い結果に繋がるんじゃありませんか?」
「そうですね、願わくば侯爵様とのご縁を取り持って頂ければ、尚更でございますが、侯爵領の御用商が誰の陣営に肩を入れていたかで、対応は替りますな」
「ハッサンさんだったら、決定するまではどことも近づき過ぎないように、上手く立ち回っていたでしょう?大店の経営者であればみんな、誰が権力を握っても困らないように、立ち回ったんじゃないのかな?」
「中々そうもいかないのですよ、貴族との付き合いはギャンブルの様な物でございます。どこの家とも仲良くしようと思うような商家は、大きな信頼を得ることもないので、大成は出来ません。正しく見極めてより深いお付き合いを出来た者が勝ち残れるのでございますよ」
「そうなのか、俺の知っている常識では貴族との付き合いじゃ役に立たないんだな」
「貴族家というのは、秘密の多い所でございまして、八方美人の付き合いでは、信頼はされませんね」
まぁゼスタール様には、ハンクを付けてあるから、領都に到着するまでに危害を加えられる危険性は無いだろうし、後は呼ばれるのを待つだけだ。
ちょっとこの街の冒険者ギルドに顔を出しておこうかな?Ωランクの特典ってどんな事が出来るのか気になるしな。
ハッサンさんは領都での出店をする場合の、立地を見たいと言う事なので、護衛にカイルを付けて、夕方にホテルで待ち合わすことを決めて別れた。
俺はアランと共に、この街の冒険者ギルドへと向かった。
この国の西部地域では、一番大きな街なだけあり、冒険者ギルドもファルムよりは規模が大きかった。だがこの街は比較的安全な街のために、所属するのは比較的低ランクの冒険者が多いらしい。依頼の割合は討伐は少なく、護衛任務が多い。
俺は受付カウンターに行って、窓口の女の子に聞いてみた。
「あの、少し質問してもいいですか?王都のギルドから最近何か通達が在ったりしましたか?」
「はい、今朝の定期便で届いた連絡で、新しいランクの認定者が出現されて、帝と同様の対応をするようにとの通達がありました、他にはないですね」
「帝と同様の対応って?どんな特典があるんですか」
「大きな違いは、買取金額の割増が25%付く事ですね。後は訓練場の優先利用権がありますね。帝が使う場合は他の方が利用を出来ません、スキル等を秘密にされている方が多いので、その条件が出されています」
「そうなんですね、早くそんな身分になってみたいですよよねぇ」
「頑張ってくださいね」
確認だけをして、ギルドを後にした。買取金額のアップは嬉しいな。
アランに聞いてみると、ギルドはどこでも一律で、買取金額の50%アップの金額で販売しているらしく、25%上乗せでもちゃんと利益はあるそうだ。
それから領都の町並みを見ながらブラブラして過ごしていると、どうやらゼスタール準男爵が到着したようだ。見覚えのある馬車が騎乗の衛兵たちに先導され、大通りを進んで来た。侯爵様がどんな判断をされるか、興味深い所だが、俺達が口を挟める問題でもないので、後から話を聞くだけだな。
馬車が通り過ぎるのを、眺めていたら、ハンクがそっと俺達の側に現われた。流石に侯爵邸まで付いていくわけにはいかないので、これで一応護衛も終了だという事だ。
俺達はこの街で一番大きなホテルへ向い、ハッサンさんと合流して食事に行く事にした。
皆で食事を取りながら、明日以降の予定をハッサンさんへ尋ねてみた。ハッサンさんは今日のゼスタール準男爵からの聞き取りが終了すれば、今回の賞罰の裁定が行われ、恐らく長男、3男、6男の子爵領は、侯爵様の直轄に成るだろうとの予想だった。
後は、この街にある侯爵領の御用商は、長男の子爵様に肩入れしていたようで、残念ながら掛けに負けた様だ。今頃は必死で侯爵様へ快気祝いの品を集めてご機嫌取りに奔走している事だろうなと言っていた。
今日は、いつ呼び出しがあるか解らないので、アルコールは控えておいた。そしてその日の夜8時を過ぎた頃に、ホテルへ侯爵からの使いの使者がやって来た。
「ご足路ですが、今から侯爵邸へお越しいただきたく、馬車をご用意しております。ハッサン様もご一緒にいらっしゃると、ゼスタール様から伺っておりますが、間違いないでしょうか?」
「確かにハッサンさんも一緒に居ます。ではすぐに呼んで参ります」と言った時には、既に全員揃っていた
俺達は、馬車で侯爵邸に向かった。
侯爵邸に案内されると、侯爵、ゼータ子爵、ゼフィール子爵、ゼスタール準男爵とハッサンさんが呼んだファルムの法務官、昼の会議にも居た侯爵領の法務官が居た。
「まずはこの度の、この領地の問題で色々迷惑をおかけしたことを、謝ろう」と侯爵が頭を下げた。
「侯爵様の所為ではございませんので、お気になさらないで下さい」と代表してハッサンさんが言うと、
「いやわしのせいだ、正当な後継者を指名していなかったことが、全ての原因であった。
今回の事は反省しておる。
特にゼゼコに関しては、言語道断の行動である領内で争い事を、戦によって解決しようなど、決して許される問題ではない。
ここまで事態を大きくしてしまったのは、すべてやつの責任でもある。
正式には明日この領内の全ての貴族家を招集して、侯爵領の全体会議を行うが、わしは正式に引退する家督はゼフィールに継がせる事とする。
ゼータには新たに長男と三男の領地を管轄してもらい、ゼスタールには4男と6男の領地を管轄してもらう、ゼスタールはこれにより男爵としての推挙を行う。
この国でも最大クラスの男爵領だ。今後の差配次第では伯爵位も見据えることが出来る。
今回、長男や4男たちに協力した男爵や準男爵達は、取り敢えずはお咎めなしであるが、今後は監視の目がつくことと成り、再び不穏な動きに力を貸すような事があれば立場はなくなる。
ゼゼコなんだが、盗賊としての処罰は勘弁してやってくれ、決して庇うわけではないが、盗賊として処罰すると、命令され付き従った兵たちも処罰しなければならない。
これからの領地運営を考えれば、それは避けたい。
本人の死罪は免れないが、家族には一度だけチャンスを与える。
現在の子爵は隠居させ、各嫡男に準男爵としての地位を与える。但し領地の開拓から自力になるがな。そこで一定の成果を見せるようなら、お家の再興もあるかもしれないが、それはゼフィールの采配で行われる。
わしは、のんびりと隣の辺境伯領の温泉地にでも別荘を構え、余生を楽しませて貰うこととする」
「病み上がりに喋りすぎた。少し休ませてもらおう」
と、今日決まった事をあらかた、説明してくれた上で、お礼まで言われた。俺は疲れたと言っている侯爵様に治療魔法をかけてあげた。
「おぉ身体が楽になったぞ、コウキお前の魔法は素晴らしいな、出来ることなら毎日でも願いたいぞ」
そしてその夜のうちに、各領地に早馬で連絡が行き、翌日の全体会議が通達された。
この領地の問題は、これでやっと片付いた。
たくさん作れた縁は、今後の俺の活動にきっと良い影響をもたらしてくれるだろう。
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