第29話 ファルムへ

 俺達は、侯爵様の屋敷を出て、取り敢えずは問題解決の祝杯を上げようという話になったので、ハッサンさんの奢りで、ゼストの街の繁華街へ繰り出した。


 ゼスタールさん達は、まだ明日の全体会議が終わるまでは、アルコールは慎みたいという事で、今日は俺とハッサンさん、アラン、カイル、ハンクの5人だけだ。

 ゼストの街の御用商を務めていた商家が、今回痛恨の判断ミスをしてしまい、長男の子爵家を支持していたために、侯爵を継ぐ予定のゼファール子爵は、きっぱりと御用商は他の商家と交代させると言い切った。


 しかしながら今回は、まだハッサンさんは侯爵領に店舗を構えていなかったために、選ばれる可能性は無い。

だけどゼスタール準男爵が男爵に陞爵しょうしゃくして新たに収める領地では、既に店舗を構える許可を貰っているそうだ。


 ハッサンさんは流石にそう言うところは抜け目がないよな。これから更にゼスタール準男爵が頑張って伯爵にでも成って貰えれば、十分に儲けさせて頂けます。と満面の笑みだ。


 ハッサンさんが連れて行ってくれたお店は、会員制で、とても高級そうな所だった。個室でフルコースのディナーといかにも高級そうだと、素人の俺でも解るようなワイン、それを給仕してくれるのは、綺麗なお姉さん方が、とても肌色部分の多い衣装で、ベッタリと寄り添うようにサービスしてくれる。


 「コウキさんどうですかこのお店は?気に入った娘が居たらどの娘でも一晩中付き合ってくれますよ」

「料理も美味しいし凄く楽しいです。お言葉に甘えて今日は朝まで楽しませて貰います」と、アラン達にも相手を決めさせて、朝までそれぞれのパートナーと過ごした。


 冒険者なんだから、色々冒険しないとね!でもカイルは帰る前にちゃんと風呂に入れよ!!


 そして翌朝、朝から侯爵領内の各地からの馬車が、どんどん到着してくる。一番離れた場所は距離で50K以上はあるので、恐らく一晩中馬車に揺られてきたんだろうな。


 まぁ平民の俺達は、貴族様の全体会議など見る事は出来ないので、終わってからゼスタールさんに聞くだけにしようと思っていたのだが、ハッサンさんの取り計らいで、SSSパーティ『ライトニング』が会場警備の依頼を受けテロ行為の警戒任務と言う名目で、会議を見ることが出来た。


 その提案を受けた侯爵様は、俺達のランクに驚き、ゼスタール準男爵なんか、俺が帝クラスと同意義のオメガランクということは、「俺や子爵より全然偉いじゃないかよ」と呆れていた。


 街中も凄く賑わっているが、この後で決定事項が領民に向けて発布されれば、お祭り騒ぎになりそうだ。


 そして昼前から、この領地の貴族家当主が全員集まって開始された会議は、滞りなく進行され、参加者全員の信任を受け、正式に5男のゼファール子爵が、侯爵となることが決定した。


 次男のゼータ子爵が長男と三男の領地を併合する事と、ゼスタール準男爵が、男爵へと陞爵し四男と六男の子爵領を併合する事も承認され、王宮へ向けて法務官が派遣され正式な国王からの叙爵を要請する事になった。


 併せて、長男、三男、六男は子爵位を剥奪され、隠居。四男は、領内で無益な戦争行為を行った首謀者として死罪が言い渡され即日執行となった。この4人の嫡男は準男爵として領内の未開地を与えられ、自らの才覚でお家を再興してみせよと、祖父でも在る侯爵様から命じられた。


 ただし、兵に関しては命令に逆らえなかっただけであり、無罪とされ職務へ復帰させられる事になった。しかし今回の無謀な戦争行為で450名もの、兵の命を失った事実は取り返しがつかない。


 ゼスト侯爵様は、「すべての責任は自分にあり、責任を取って自らを領地外への追放に処する」と言ったが、単純に療養生活を満喫したいだけの気もする。


 新たな侯爵となる、ゼフィール様が所信表明として、侯爵領内での戦争行為を引き起こした貴族家は、理由を問わず、侯爵軍が介入し先に攻め込んだ貴族家をお取り潰しにすると言う、新法を発令した。


 貴族家がそれぞれに、兵を抱え軍隊を持つ事に問題が在るとの考えから、各貴族家が兵を抱える事は禁止し、一括で侯爵領が兵を抱え、各領地に必要人数を派遣する形を取る事になった。


 この国では、兵は軍と警察の両方を職務とするので、各貴族領がばらばらに育てるよりも、質の良い育成が可能になるとの目論見と、各地が負担する金額も、低く出来ると概ね肯定的に受け入れられた。


 会議が一段落して、ここに集まった貴族達が、新たなる処世術としての拠り所を何処にするのか、中の良い貴族家同士で、相談している光景が見て取れるが、今までの男爵領は皆ゼータとゼファールの元へと集まって行き、準男爵家はゼスタールの元へ集まっていった。


 当初ゼスタールを支持していなかった5家の動向が気になる所だが、男爵家が集まっているグループに入れば、雑用係のように扱われるだろうから、当然の選択かもしれない。


 領内の武力行使が、今後起こらないという保証があるのなら、無理におべんちゃらを言う必要も無いしな。


 俺とハッサンさんは、この会議を見届けると、ファルムへ向けて旅立つことを、侯爵とゼスタールさんへ告げた。侯爵はファルムの療養地の紹介をハッサンさんに依頼した。


 「侯爵様にふさわしい、素敵な療養所を紹介して差し上げます」と返事をしていた。


 ゼスタールさんには、ハッサン商店のゼスト領への本格出店の足がかりとして、領内への出店場所の紹介などを頼み、「近々正式に使者をお送り致します」と締めた。


 俺達は、この領を後にして、見えない所まで歩いた跡で、転移でファルムに帰還した。

「いやぁ一度これを味わってしまいますと、もう歩きや馬車での移動をしたく無くなりますなぁ」


 「ハッサンさんだけなら、有料でお受けしますよ」と俺が言うと、「急ぎの時は是非お願い致します」と返事をもらった。


 ハッサンさんを商店の玄関まで送っていき、俺達は一度冒険者ギルドへ顔を出した。


「コウキさーん、お久しぶりですー」元気のいいミチルの声がした。

 

  すると何時もの様に、新人冒険者に絡んでいたオークラが「聞いてるぞオメガ!」と声を掛けてきた。

 人前で『オメガ』と呼ばれたのは初めてだな。


 「なんとか試験も無事に終了した、これから宜しく頼むな」と挨拶し、「イザベラはいるか?」と訪ねた。

「マスターは執務室に居るぞ、コウキが来たことを伝えるな」と2階へ上がって行った。


 すぐに「上へ上がってきてくれ」と声がかかったので、4人で上がっていった。


「コウキ、随分偉くなったみたいだわね。帝と同クラスなんだって?オメガランクは」

 「そうみたいだな、別に偉くなった訳じゃなくて、受けれる依頼の範囲が広がっただけだ」


「へぇ、流石私が見込んだだけ在って、偉そうにしないんだね、で、いつ結婚する?」

 「あと100年くらい経ったら考えてみても良い」


「結婚したらいつでも私の豊満なボディーを、イヤラシイ目つきで視姦しても文句言われないわよ?」

 「してねぇし」 


「ほらほら、そんな事言いながら視線が私の胸に集中してるんだから、全くスケベな所はオメガになっても変わらないわね」

 「一度お前の脳みそを取り出して、何処からそんな妄想が湧いて出るのかを確認してみたいぜ」


「マニアックな性癖ね、最初はもっとソフトなプレイから始めないと駄目よ」

 「疲れるから、普通に話せ」


「まぁ良いわ、盗賊討伐の報奨ですが、コウキが討伐してくれたオークが襲撃したせいで住民が居なくなった森の近隣の村落を5箇所その近辺の土地を含めて、褒章とさせていただくわ、これはファルム辺境伯家からの報奨です。


それとコウキから預かった盗賊団の財宝だけど、買取希望の遺族が全体の三分の一を買っていったわ。


買取金額は、2000万Gだから手数料と税金を引いて1500万Gを渡すわね、残りは現物で持って帰るで良かったかしら?」


 「思ったより高額だったな、ああ残りは現物で頼む。領地は俺の好きな様に開発して良いのか?」


「そうね、コウキが陞爵してくれれば一番手っ取り早いけど、それは嫌なんでしょ?ていうかオメガだと伯爵位が保証されちゃうから、私が爵位を申請するなんて出来なくなっっちゃったわね、まぁ他の人には手が出せない土地だから、好きにしていいわよ」


 残りの財宝類を、アイテムボックスに収納して「それじゃ今日は家に戻るな」と言い家に戻った。


 カオル達が皆揃って出迎えてくれた。


 「ただいま、戻ったぞ」


 「「ご主人様お帰りなさいませ」」


 俺はすっかりこの世界に馴染んできたようだ。カオル達の出迎えを素直に嬉しいと思うし、アラン達と一緒に行動する冒険も楽しい。


「異世界最高だな!」



 

第一章完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る