第53話 俺の街の名物料理が欲しいよね③

 翌朝俺はハッサンさん達と、バロンの街へと向かう前に、以前王都へ向かった時に立ち寄ったゼーレの街へと転移で向かった。


 今日の夜にカオルに用意して貰う、鶏と卵を使う料理の為に必要な物を用意する為だ。

 このゼーレの街は牛の飼育が盛んなので、牛乳も手に入るからな。


 後は王都で、ハーブも買い揃えてファルムの街へと戻り、カオルに今日の料理で、用意して欲しい物を伝えてから、ハッサンさん、イザベラ、アーガイル翁達を伴い、馬車でバロンの街へと向かった。


 転移で行っても良かったのだが、ハッサンさんが実際に交易路での移動を行ってみたいと提案したので、馬車に交易商品を積んだ状態での、移動を行ってみる事にした。


 距離的には交易路は50㎞で、ファルムからフォレストゲートまでが10㎞程あるので、馬車での移動で片道4時間程となる。


 この世界の馬車は、交易用の馬車であってもサスペンションなどが備え付けてないので、舗装をされてない道では、結構な振動がある。


 板バネ式のサスペンション搭載車に中空タイヤなどを開発して、売り出せば結構な稼ぎになるかもな。

 試作品を作りたいが、フローラに案を伝えて、作らせてみるか。

 ドワーフのメンバーも総勢で15人程に増えたし、案だけ出せば完成してくれそうな気もするしな。


 魔道具作成と錬金のスキルを俺が獲得してもいいけど、量産する事が目的となると、スキルで作った道具は量産が難しいだろうし、頼まれたりすると面倒なので、まだ取得しないでおこうかな。


 どうせ俺が移動するだけなら転移で移動するし、行った事が無い土地へ向かう時なんかは、ツバサの背に乗って飛んで行った方が早いからな。



 ◇◆◇◆ 



 俺達がバロンへと到着すると、早速サリアの案内で侯爵家の屋敷へと向かった。

 ハッサンさんが大量の挨拶の品を手渡し、これまで直接の交易をおこなう事の無かった、バロン領との間での、相互通商をバロン領の御用商人も交えて締結させた。


 バロン侯爵は、久しぶりのアーガイル翁との再会を喜び、イザベラも直接交易路で繋がり、国境をまたいだ隣接する領地として、新たな付き合いになる事を、ファルムの領主代理として挨拶を行った。


 挨拶が終るとアーガイル翁が早速昨日の俺と、バロン侯爵との話に突っ込みを入れた。

「バロンよ、コウキに領地を譲るとか言い出したそうだが、何を考えておる?」

「決まった事よ、わしより強い男がわしの娘の婿になれば、他に何の理由もいらぬからだ」


「お前たちの当たり前は、必ずしもわしらの当たり前では無いからな?」

「コウキならばこのレオポルド・バロンの悲願であったこの獣人国家ビスマルクの王位も狙える。ましてやサリアは見た目は母親に似たが、能力は間違いなくわしを引き継いでおる。二人の子供が出来ればわしは安心しして隠居出来るからの」


「ふむ、それは見てみたい気もするが、コウキはノア王国においても必要な男じゃ、本人の気持ちの問題もあるし、急かすでないぞ? 今日共に来ているイザベラも狙っておるでの」

「増々いい話では無いか? ファルムとバロンの両方をコウキが面倒見れば、この新しい交易路を含めて正に両国の懸け橋となるぞ? エルフの国もこの交易路を使うほうが明らかに便利も良いし、これからはこの大陸で一番栄えた街になる事が見えておるでは無いか?」


「レオポルド、お主は国が違うという事をどう考えておる? 王でも無く二国にまたがって領地を持つなぞ、この大陸の歴史でもありえぬぞ?」

「そんな事は過去の常識だ。うちの婿になる男に常識を当てはめて考える必要もなかろう。場合によってはコウキであれば深淵の森を全て開発してしまう可能性もあるであろう? そうなれば立派に国と名乗っても問題の無い領地持ちとなる。うちの婿としてビスマルクと合わせて納めるのも又有りでは無いか?」


「なんとも、とんでもない事を言い出すのう。そう言えばわしはもう既に侯爵は隠居して、コウキの作った交易路の中間にある宿場町を、コウキの留守番で面倒を見る事にした、上手い飯と良い温泉を用意するからお主も遊びに来い。ここからなら二時間もかからぬからの」


「なんじゃ、アーガイルもコウキに惚れ込んで居るんでは無いか? ちょくちょく寄らせて貰おう」


 アーガイル翁とバロン侯爵の話が終ったタイミングで今度はイザベラが、バロン侯爵へと宣戦布告? をいきなり始めて、俺は又胃が痛くなった。


「バロン侯爵、私はコウキの正妻としてファルムと深淵の森を開発してまいりますので、以後お見知りおきを」

「なんと、ファルム辺境伯の娘がそうであったのか、それは、サリア共々よろしく頼むぞ」


 なんか勝手に話が進んでやがるぜ……

「おい、イザベラまだ俺は何も受けてないし約束もして無いからな。無理に約束なんかさせると俺は逃げるぞ?」

「コウキ、それは無理な話ね。私が惚れた以上は絶対逃がさないからね。まぁ焦ったりする気も無いから、ゆっくり私の魅力に魅せられなさい」


 何て言うか、イザベラのその自信がどこから出て来るのか不思議でしょうがないぜ。



 ◇◆◇◆ 



 バロンとの話し合いを終え、帰りは転移で戻ったがハッサンさんはバロンで大量の物資を仕入れ、ホクホク顔での帰還となった。


 そして、ファルムへ戻った俺は、カオルの元へ顔を出し今日の晩餐のメニューとなる、フォレストゲートの名物とする鶏料理と卵料理をチェックした。


 まずは、から揚げ、これは絶対だよな。

 鶏のもも肉を使った定番中の定番だ。

 俺の好みはフライドチキンっぽい物より日本風のから揚げだけど、この世界の人々の、好みの問題もあるので、カオルに味付けやタイプの違う物を何種類か用意して貰って、今日の晩餐会の中でみんなの意見を聞いてみる事にした。


 次は焼き鳥、冒険者向けが中心となるので日本の焼き鳥だと一串30gサイズが中心だが、80g程度のサイズにして、一串で満足できる量にした。

 これも、もも肉を使った物で用意したが、最初は色々な部位を扱ったりするスタイルだと、提供するのも手間がかかるので、シンプルな商品構成で、たれ焼きと塩焼きの二種類の、もも肉の焼き鳥だけに限定した。


 次は卵料理、これはだし巻き卵と、オムライスと、プリンを用意して貰った。


 この世界では、卵料理は基本的にスクランブルエッグと目玉焼きしか見た事が無かったので、受けがいいと思う。


 ケチャップ味のチキンライスを巻き込むスタイルのオムライスは、本当に懐かしいと思ったぜ。

 そして、これの為だけにゼーレの街から買って来た牛乳を使って作った、プリンも楽しみだ。

 蒸しただけで作ったタイプの物と、ゼラチンを使ったタイプの物と二種類を用意した。


 王都で手に入れたバニラビーンズと、砂糖を焦がして作ったカラメルソースもちゃんと使用して、俺の思ってたような、プリンが出来上がっていた。

 本当にカオルが居てくれて助かるぜ。


 レシピとしては他にも大量にあるんだけど、名物料理として育てる初期段階では、この辺りのメジャーな商品だけで十分だろうと思う。


 しかし鶏料理も王都やファルムで見た事がある物は、丸焼きにしたものを切り分けて食べるような、料理しかなかったので、期待できそうだ。




 皆が集まり試食して貰った結果は、大好評だった。


「コウキー、このから揚げっていう料理は、絶対王都で出しても大流行間違いないよー、なんで今までこんな料理なかったんだろー」

「この焼き鳥があれば、エールがいくらでも飲めてしまうぞ、たれも旨いし塩焼きも捨てがたい、これは凄いぞ」

「オムライスと言ったか? この料理は素晴らしいな。子供も大喜び間違いないな」


 そして、一番評価の高かったのはプリンだった。

 甘味がまだまだ一般的に手に入りにくい、この世界で甘く口当たりの良いデザートは、全員の胃袋をがっちりと掴めたようだ。


 ケーキやパンを焼く事を思えば、素人でも失敗しにくいから、取り敢えずは十分だな。

 基本的にもも肉を使うものが多いので、余る胸肉や、内臓肉を使う料理は今後の課題として、カオルに任せる事にした。

 

 竜田揚げタイプの、から揚げに添えて出したマヨネーズには、全員が感動していた。

 ハッサンさんもマヨネーズに対して、一番お金の匂いを嗅ぎつけたようで、早速商品化とレシピの販売を相談して来た。


 マヨネーズはきっとこの世界でも大流行をするだろうな。


 よし、この感触なら鶏料理と卵料理での町興しもきっと成功するな。

 今後が楽しみだぜ。


 既に入植させている、人員の中から接客が好きな者と、生産が好きな者にメンバーを振り分けて、これから大量に訪れる、旅人達や入植者達を楽しませよう。


 歓楽街的な要素は、アーガイル翁のフォレストスパリゾートに集中させた方が、交流がより盛んになりそうだな。


 さぁ次は、ちょっと北の災厄の様子でも見に行ってみるかな?





第二章完

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使い捨て勇者として召喚された俺が夢想スキルで異世界を満喫する話 TB @blackcattb

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