依頼
早朝の冒険者ギルドは昼間とは打って変わり、肩がぶつかるほど多くの冒険者で賑わいを見せていた。
掲示板の前で依頼を吟味する者や、仲間と相談する者、即決で依頼書を剝ぎ取る者までいる。
驚くべきは荷揚げや荷下ろし、日雇いバイトのような依頼書を手に取る冒険者が多いことだ。
見ればその殆どが鉄のプレートを身に着けているが、中には違った色のプレートを下げた冒険者もいる。
カオスは自分のプレートに視線を落とし、隣のシュナイダーを横目で見た。
「シュナイダー、冒険者の認識票が違う者がいるがどういうことだ?」
「ランクが金属で分かれているんですよ。カオス様や俺は最低のHランクなので使われている金属は鉄になります。ランクが上がるごとに希少価値の高い金属に変わるんです。一目でランクが分かれば受け付けも対応がしやすいですし、冒険者同士の争いも抑えることができますからね。まともな冒険者なら上のランクに喧嘩は売らないでしょうし、下のランクはまず相手にしません。後は向上意識を高める為とも聞いたことがあります。希少価値の高いプレートは冒険者の憧れですからね」
「――よく考えられている。だがやはりランクが厄介だな」
カオスは難しい顔で掲示板に視線を戻した。
見つめる先にあるのは何度Eと書かれた依頼書、つまりランクがE以上でなければ依頼を受けることすら敵わない。
実入りの良い護衛の依頼はどれもEから、それよりランクの低いF、G、Hの依頼は肉体労働や商人の小間使いだけだ。
依頼料も安いため話にならない。
貼り出された依頼書を一通り見渡し、シュナイダーも同じく難しい顔を見せた。
「もう帰りませんか? 俺たちが受けられる依頼なんて高が知れています」
カオスはシュナイダーの言葉が聞こえているにも関わらず、何かを探す様に掲示板を見渡し、そして首を傾げた。
「可笑しくないか? これだけ依頼があるのに魔物を討伐する類の依頼が一つもない。如何に貿易が盛んな街とは言え、あまりに依頼が偏りすぎている」
「魔物は森から滅多に出ませんからね。倒したところで金目の物が手に入るわけじゃなし、金にならない依頼をする物好きはいないと思いますよ。特にこの街の近くは商人と護衛の冒険者が行き交っていますから、余程のことがない限り魔物は近づいてきませんよ」
カオスは得も言われぬ顔でシュナイダーを見つめた。
(――当然だ。なんで俺は魔物を倒したら金になると思ったんだ。馬鹿なのか? ゲームじゃないんだ。魔物がアイテムや金を落とすはずがない。金にならない依頼を誰がするんだ)
異世界とはこうあるべきと、カオスの先入観がもたらした誤算だ。いざとなったら魔物を倒して金を稼げると思っていただけに動揺は隠せない。
落ち込むカオスであったが次のシュナイダーの言葉で顔を上げた。
「ですが全てが金にならないわけじゃありません。魔物が繁殖して村や街の近くに頻繁に出る様になると話は違ってきます。軍隊が対応できない場所に関しては討伐依頼が回ってきますからね。それに一部の魔物は角や牙などが高値で取引されています。もっとも、そんな魔物は森の奥に生息していますし、普通の冒険者では敵わないくらい強いと聞いています。倒しに行ったら命が幾つあっても足りませんけどね」
「――なんだ。金になるではないか」
「ゴブリンを倒すのとは訳が違うんですよ。そりゃカオス様ならどんな魔物でも瞬殺でしょう、が……」
シュナイダーは話をしていて途中で気が付いた。
目の前にいるのは、その気になれば森ごと消し飛ばせる世界最強の化け物である。例え森の頂点に君臨する魔物であろうと、カオスの前では取るに足らない存在だ。
最強と呼ばれる魔物ですら、殺すことなどわけがない。赤子の手を捻るのと同じくらい容易いことだ。
「決まったな。魔物を倒しに行くぞ」
目に光を宿したカオスを見て、シュナイダーは無表情のまま抑揚のない声で告げた。
「話をしていて途中で思い出しましたよ。カオス様に勝てる魔物がいるはずがありません。金を稼ぎ放題でよかったですね」
「これで資金面はどうにかなりそうだな」
意気揚々と歩き出すカオスの後を、シュナイダーは嫌そうに肩をすぼめて付き従う。これから戦うであろう魔物を思うと、ただただ不憫でならなかった。
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作品中の冒険者ランクと金属
S アポイタカラ(ヒヒイロカネ)
A アダマンティン
B オリハルコン
C ミスリル
D プラチナ
E 金
F 銀
G 銅
H 鉄
作品中のお肉のランク
S 松阪牛 最高ランク
・
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・
・
・
Z ゆたんぽ(サラマンダー)最低ランク
サラマンダー 「僕の出番か!」
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