カオスvsアグニス④
戦術級、小規模な範囲魔法を主とする魔法の総称。
複数の対象を同時に攻撃できることから、戦争で使われる魔法で最も多いのが戦術級だ。特に人間の国では範囲魔法を使える者は魔導士と呼ばれ敬われている。国が選定する王宮魔導士ともなれば富も名声も欲しいままだ。
もっとも、魔族では一部の種族を除いて殆どの者が戦術級を使える為、珍しいことではなかった。
アグニス自身もその程度の魔法は使える。三歳の幼子が使えるのは驚きだが油断はしていない。
先ほどのやり取りだけでも分かる。アグニスの目から見ても明らかにカオスは戦い慣れしていた。カサンドラから体術は教えられていると聞かされていたが、全てが規格外だ。
油断なく動向を覗うアグニスに対し、カオスは数歩横に移動すると、公言通り魔法を放つ。
「[
地面から炎が巻き起こり、見る間にアグニスの周囲を取り囲む。天高く伸びた炎からは高熱が発せられ、大地と空を焦がした。
炎の外にいても逃げ出したくなる熱さだ。
アグニスは炎の中で「そういうことか――」と頷いた。
全体に損傷を与える魔法は
ならば――。
「[
アグニスの周囲を氷の壁が取り囲む。
迫りくる炎は氷の壁にぶつかり難なく相殺された。水蒸気が立ち込め視界が遮られる中、アグニスはカオスの気配を追う。
「上か!]
腕を横に払い、風圧で一気に水蒸気を吹き飛ばした。
アグニスが見上げた遙か上空では、カオスがこちらに手を突き出し次の魔法を唱えていた。
「[
雷球から無数の雷が雨のように降り注いだ。
一撃の威力は
体の硬直で次の攻撃の対処が遅れるのは目に見えていたからだ。先ほどのカオスの戦い方を見ても、必ず次の攻撃を用意していると思われた。
無数の雷を全て躱すのは不可能に近い。それでもアグニスにはまだ余裕があった。
迫りくる雷を見据え上空に片手を翳す。
「[
圧縮された大気による爆発。
魔力で作られた雷は爆風に巻き込まれて霧散する。
アグニスは自然落下してくるカオスを視界に捉え、まだ飛空系の魔法は使えないと判断した。空中で思うように身動きが取れないと見るや、アグニスはカオスの真下に素早く回り込み拘束体勢を取る。
捕まえてしまえば手足の長さからもカオスに為す術はない。それを熟知しているためカオスは魔法で抵抗する。
「[
地響きと土煙を上げながら地面が陥没する。
アグニスの体は地面に沈み、立つことも敵わず片膝をついた。地表は放射状に
直ぐに地面に手をつき魔力を集中した。
「[
アグニスは体が軽くなるのを感じ、すぐさま上空を見上げる。
だが、そこにカオスの姿はなかった。気配を追うより早く背後から微かに声が聞こえた。「[
側頭部に強い衝撃が走り、それを最後にアグニスの意識は薄れていった。
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