カオスvsアグニス①
草原の一角に草木の生えていない場所がある。
円状に作られた剥き出しの大地は、カオスが特訓をする中で自然と出来上がったものだ。到着するころにはメイドが魔法で地面を
普段はわざわざこんなことはしない。
雨の日は戦えない、足場が悪いから戦えない。そんなことでは話にならないと教えられてきたからだ。
カオスは固くなった地面を数回飛び跳ね感触を確かめた。
(足場の悪い地面でいいのに……)
メイドたちはカオスの特訓を見慣れている。勝手に地面を整備するはずがなかった。犯人は言わずとも分かる。カオスの特訓を見たことがない者、そしてメイドに指示を出せる者だ。
カオスは振り向き、後方で控えていたジークハルトを見上げた。
「ジークが特訓場所を整備させたのか?」
「はい。
「そうか、だが今度から整備をする必要はないぞ。どんな環境でも戦えなければ意味がないからな」
「――はっ、勝手なことを申し訳ございません」
ジークハルトは予想外の言葉に戸惑いつつも、流石は魔王だと感心する。
守られるだけの魔王であれば、もしかしたらジークハルトは失望していたかもしれない。それだけに、カオス自身が戦うことを想定して話していることに喜びを禁じ得なかった。
「ジークが私のためにしたことだ、謝罪は必要ない。それより――」
離れた場所でアグニスとハデスが話し込んでいるのを見て、カオスは眉間に皺を寄せる。
(爺が何か吹き込んでいるな……)
「アグニス! 特訓を始めるぞ」
言葉に反応したアグニスは話をやめ、カオスに向かい一礼した。
カオスが中央に歩み寄り、その後を少し遅れてアグニスが追う。対峙したカオスはアグニスの腰元を見て顔をしかめた。
「アグニスは剣を取られたのか?」
「私は信用されていないようです。カオス様を斬りつけると思われたのでしょう」
アグニスが視線を逸らした先を目で追うと、一人のメイドがアグニスの剣を無造作に鞘ごと地面に突き刺していた。
メイドの冷たい視線はアグニスを捉えて確実に敵視されている。
流石にカオスも不憫でならない。
「まぁ、あんなことがあった後だ。しばらくお前に監視が付くかもしれないな。少し不自由だと思うが我慢してくれ」
「構いません。私はカオス様をお守りできればそれで十分です。どのような邪魔が入ろうとも、私の成すべきことは変わりありません」
「そうか――。では始めるか?」
「はっ!」
アグニスの返事を聞いてカオスは体を屈伸させた。
「私が望むのは実戦訓練だ。アグニスも手を抜くことは許さんからな。どちらか参ったと言うか、もしくは動けなくなったらその場で終了だ」
身構えたカオスを見てアグニスはより一層顔をしかめる。
「カオス様、一つよろしいでしょうか?」
「何だ?」
「そのお召し物は戦いに不向きと思うのですが……。その――大変申し上げづらいのですが、問題はないのでしょうか?」
カオスは普段と変わらない自分の姿を見て首を傾げた。
今日の着ぐるみパジャマは黒猫だ。しかも、ご丁寧に今回は手袋まで用意されている。手の平には肉球までついて押すとプニプニと柔らかい。
「うむ、問題ない。いつも通りだ」
「……いつも通りでございますか」
アグニスは下段に構え「では」と告げた。
カオスの姿はとても実戦訓練ができると思えないが、所詮は三歳の子供がすることだ。
アグニスは実戦訓練と言っても大したことはないだろうと高を
それが誤算とは知らずに――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます