別れ①
ハデスの話は簡潔で時間も然程かからず、一通り話を聞き終えたカオスは、ただ天井をじっと見つめていた。
いまはメイドも下がらせ寝室にいるのはカオス一人だけだ。誰の目をはばかることもなく、ベッドの上に大の字になり思いに耽っていた。
「乳母たちが自分の国へ帰る」
ぽつりと口から言葉が漏れる。
国とは、この魔大陸でそれぞれの種族が統治する領土のことだ。
魔大陸は魔王であるカオスの支配下にあるが、それぞれの種族は自分たちの与えられた領土を治めるため、国として独自の国家運営をしている。
そしてハデスの話では三人の乳母はそれぞれの国の王でもあるらしい。
もともとカオスの乳母を選出した基準は、魔族の中で最も魔力が高い女性から順に選ばれている。
魔族は男女問わず力のある者が種族を代表して王となるため、乳母が王を兼ねていても何ら不思議ではなかった。
カオスとて何時までも乳母たちが側にいるとは思っていない。それでも心の整理がつかないのか、口から出るのは愚痴ばかりだ。
「明日には城を出ると言っていたが、いくら何でも急すぎるだろ・・・・・・。爺も爺だ。こんな大事なことを何で直前になってから言うんだ――」
ハデスにも考えあってのことだと、カオスも内心では理解していた。
別れを惜しむ時間は長すぎても短すぎても辛いだけだ。ハデスなりに導き出した答えが明日なのだろう、と。
ただ、どんなに頭で分かっていても心では納得ができなかった。そのため不平不満は止まらない。
「ヒルデモートたちも国へ帰ることを今日聞かされたんだろなぁ……。もし事前に知らされていたら、俺の耳にも入ったはずだ。そもそも何で爺が乳母たちの帰国を勝手に決めるんだ? ちょっとおかしくないか――」
カオスは一頻り愚痴を言い終わると、眠りにつくように深く瞳を閉じた。そして自分の言動に溜息を漏らし、今度はゆっくりと瞳を開いて反省の言葉を口に出す。
「まるで駄々をこねる子供と同じだな――」
三歳で駄々をこねるのは自然なことだ。
だがカオスには人間としての記憶があり、この世界での立場もある。普通の子供が駄々をこねるのとは訳が違う。
ともすれば、カオスの我が儘は押し通ってしまう。
乳母たちにも守る国がある以上、この場に留めておくことは絶対にあってはならない。
カオスは天井に小さな手の平を翳し、虚空を掴むように軽く握った。その仕草は乳母たちを手放したくない心の表れなのかもしれない。
「爺の言っていることは正しい。せめて明日はヒルデたちを笑って送り出してやろう」
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