日々

 何気ない日々が繰り返される。

 カオスは複数ある客室の一つで足を止めると、ノックもせずに扉を開けていつもようにソファに腰を落とした。

 目の前にいるのは、テーブルに肘をついて指を組んでいる伏せ目がちのシュナイダーだ。


「ようシュナイダー、相変わらず冴えない顔をしているな」


 シュナイダーは顔を上げるなり盛大な溜息を漏らした。


「はぁ……、俺は捕虜と同じだ。冴えない顔もするさ」

「辛気臭いな。捕虜なら牢屋に閉じ込めるだろ? 客室を使わせているんだから文句を言うな」


 シュナイダーは首を振り周囲を見渡す。

 帝都の一流宿屋、その中でも特等室に勝るとも劣らぬ豪華さだ。

 部屋が広いのは勿論のこと、家具や調度品の類も最高級の物が置かれている。驚くべきは、隣の別室には風呂まで完備されていることだ。

 至れり尽くせりとはまさにこのことである。

 シュナイダーは高給取りであったが、独身のため兵舎に詰めることが多く贅沢とは無縁の生活をしてきた。

 昔の生活と様変わりしすぎて逆に落ち着かない。


「――これならいっそ牢屋の方が落ち着くな」

「何が不満なんだ? この部屋なら扉を開けない限りメイドの目にも触れないし、普段生活をするだけなら部屋の中だけでも事足りる。食事はジークが運んでくるからメイドに嫌がらせを受けることもないはずだぞ? 牢屋がいいなら移しても構わんが――あそこは定期的にメイドが巡回するからなぁ……」


 シュナイダーの冴えない顔に影が落ちた。

 複数のメイドに殺気を当てられ気を失ったのは記憶に新しい。

 この城にいるメイドは全員化け物だ。


「やはり牢屋は止めておく、お前のメイドは怖いからな。俺もそれなりに強いと思っていたが、メイドに比べたらゴミのようなものだ」

「メイドたちはお前を毛嫌いしているからな。まぁ頑張れ!」

「――何を頑張ればいいのやら。今日はそんなことを言いに来たのか?」

「そんなはずないだろ? 私はこう見えて忙しいんだぞ。今日来たのは他でもない、後でお前の魔装を見せてくれないか」

「俺の? 見ても何の参考にもならいと思うぞ。魔族の扱う魔装に比べたら話にならないくらい弱いからな」

「弱くても構わん。武器の一部を魔力で補うのは効率が良さそうに見える」

「――ま、俺は捕虜みたいなもんだ。言うことは何でも聞きますよ」

「そうか、では今日の夜に迎えに来る。要件は以上だ」


 カオスはソファから飛び降りると、短い脚でテコテコ歩いて廊下の奥へ消えていった。

 シュナイダーはその可愛らしい姿を見て苦笑する。


「あれが魔王だというんだからな。どうなっているんだ、この世界は……」




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