転生⑥
城の探検を続けて一年
カオスの身体能力は飛躍的に上昇していた。
今では城の最下層、地下二百階までを一時間で往復できる。まだ生まれて一年半だというのにこの体はでたらめだ。
トレーニングの成果というよりも生まれ持った資質なのかもしれない。
改めて自分が特別な存在だと思い知らさせれる。
カオスは最下層の何もない空間に腰を落とし、石畳の地面を拳で力一杯殴りつけた。
ゴンッ!という鈍い音が鳴り、分厚い石畳に僅かに亀裂が入る。
自分の拳を見ると皮膚が破れ血が流れ落ちていた。しかし痛みは微々たるものだ。明らかに人間の体よりも痛みを感じない。
しかも拳の傷は瞬く間にふさがり、流れ落ちていた血は直ぐに止まった。
(これが魔王の体か――)
自分の拳を見つめて深い溜息を漏らす。
生まれて一年半でこれだ。
数年後にはどうなっていることか――。
カオスは化物になりつつある自分の体に戸惑いながらも、力が必要不可欠なことを知っている。
それは魔族の住むこの魔大陸と呼ばれる場所が、人間の侵攻を幾度となく受けていると聞かされていたからだ。
人間と戦う――。
元人間のカオスとしては複雑な心境である。
それでも魔族と人間の二つを天秤にかけるとしたら、間違いなく天秤は魔族の方に傾くだろう。
この城で暮らす魔族は家族も同然だ。裏切る事などできるはずがない。
冷たい石畳の上に大の字に寝転がり、カオスは焦点の合わない瞳でぼんやりと天井を眺めた。
物音ひとつしない静かな空間が心を落ち着かせる。
だが、そんな安らかな時間を壊すかのように、カオスの体を大きな影が覆った。
「カオス様、そろそろお戻りになりませんと――。乳母の皆様も心配いたしますよ」
ひとりのメイドが近づきカオスの顔を覗き込む。長い前髪を邪魔そうに指でかき分け、困ったように顔をしかめていた。
メイドの意見は最もだ。
(そうだな……。乳母たちは育ての親も同然だ。心配をかけるのはよくない……)
カオスは起き上がり僅かに首を縦に振る。
小さなアクビをして背を伸ばすと、今度は飛び跳ねるように全力で階段を駆け上がった。尋常ならざる速度で移動するカオスの背後を、軽快な足取りでメイドがピッタリと付き従う。
この城に住む魔族はみんな化物じみている。そんな魔族の期待に応えられるのか、一抹の不安がカオスの脳裏を過ぎっていた。
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