第31話★ 救いの手?
「ギルド長は居るか?」
いきなり現れたその男は、ギルドの建物に入ってくるなり大声で言い放った。その場に居た人達の視線が、その男に注目する。
立派な鎧に身を包んで、装飾された剣を腰にさげる20代ぐらいな見た目の青年。しかし、周りから見られている青年は何も気にしていない様子で立っていた。
「あ、あのー。貴方は誰ですか?」
「ギルド長は居るのか、と聞いている。俺に余計な時間を取らせるな、居るならすぐに呼んでこい」
受付嬢の1人が恐る恐る対応しようと声を掛けたら、眉をひそめて高圧的な態度でそんな返事をされてしまう。
「は、はい!? すぐに呼んできます!」
青年が発する乱暴な言葉に、涙目になり屈する受付嬢。さっさとその場を離れたいと思って、ギルド長を呼びに青年の前から走り去った。
「なんだか、この街の冒険者ギルドは寂れてるわね」
「何か有ったのか?」
「……」
青年の後ろには、美女と野獣のような男、そしてボサボサ頭で目元を隠したような性別不明の人物が立って会話をしていた。ボサボサ頭の1人だけは、少し離れている位置に立っていて、会話に混ざらず黙ったままだったが。
「私に、どんな御用ですか?」
「お前が、この冒険者ギルドの長か?」
受付嬢に呼ばれ面倒そうな様子で現れたギルド長が、青年に問いかける。しかし、その質問に質問で返された。不快そうな表情を隠さずに、不審者に向けるような目で青年を見るギルド長。
「私は、この国の勇者アルフレッドだ。王都から、この街の近くにあるダンジョンの調査を行うために派遣されてきた」
「……王都? 調査?」
王都、調査という単語を耳にして体をビクッと反応させるギルド長。
「はぁ……。ここに身分証明書と依頼書がある。確認してみろ」
話が思うように進まなくて、イラつく勇者を名乗る男。アイテムボックスという、空間魔法を駆使して何もないような所から取り出した紙の束を、ギルド長の目の前に掲げて見せる。
使い手の限られるアイテムボックスという魔法を目の前で使用されて、他にも色々と証拠を提示されたので、目の前の青年が勇者であるということを信じざるを得ないギルド長だった。
「た、確かに、国王の名で署名がある。王都のギルド本部の署名も」
「これで理解したか?」
「は、はぁ……、まぁ、えっと」
色々と急スピードで進んでいく状況。理解する前に置いていかれている。
まだ、ちゃんと理解をしているようには見えないギルド長だったが、お構いなしに次の話題へと移るアルフレッド。
「最近、この街の近くにあるらしいダンジョンが起動された事を察知した。何か情報は無いか?」
「いえ、街の近くにダンジョンがあるだなんて話は聞いたことがありません……」
「チッ! なら、他に最近変わった事とか無いのか?」
アルフレッドは、ここのギルド長は使えないようだなと舌打ちして、仕方なく他の情報を求める。
「あっ! そう言えば、街の周辺に生息していたモンスターが姿を消しました」
「モンスターが? 確かに、ここへ来るまでモンスターを見なかったな」
ギルド長からの有力そうな情報を聞いて、アルフレッドが関心を寄せた。ここまで来る道中、確かにモンスターと出会わなかったと思い返しながら話を聞く。
何故モンスターが居なくなったのか、ダンジョンが起動したことに何か関係があるのだろうかと深く考え込む。だが、答えは分からなかった。
「あと、強力なモンスターが出現したと冒険者から報告があったのですが……?」
「どんなモンスターだ?」
「えっと、それが、出会ったと言っている冒険者からの目撃証言については曖昧で、どんなモンスターなのかという情報が無いのです。申し訳ありません」
「……」
再び、使えないギルド長だと責める視線を向けるアルフレッド。そうしてから後ろに振り返り、仲間達に判断を求める。これから、どうするのか。
「どうする?」
「未発見のダンジョンは、自分たちで探すしか無いでしょうね」
「……」
「仕方ないか。面倒だが、そうしよう」
今後の行動について、短い時間の話し合いで勇者アルフレッドが動き方を決める。そして、ギルド長の方へと向き直ってから決定したことを伝えた。
「俺達は、街の周辺にあるダンジョンを探しに行く。その強力なモンスターとやらは遭遇したら討伐しておこう。お前たちは、ダンジョンに関して過去に何か情報がないか探しておいてくれ。有用な情報を見つけたら、報告してもらう。役に立ったなら、王国のギルド本部に伝えておこう」
「ありがとうございます! ただ、強力なモンスターについては、この街でトップのレベル152という実力を持っている冒険者もやられてしまいました。勇者様の実力を疑うわけではないのですが、大丈夫なのでしょうか?」
もしかすると、頭を悩ませていた数々の問題を目の前の青年が解決してくれるかも知れないと考えたギルド長は、一気に気持ちが楽になって丁寧な口調で青年に対応し始めた。彼に取り入るために、積極的に情報を公開していく。
「レベル152がトップか。それなら問題ないな。レベル266の勇者である俺が、負けるはずがないだろう」
「にひゃっ……!」
勇者アルフレッドが自分のレベルを公表すると、その数値を耳にしたギルド長は、驚きのあまり言葉が出てこなかった。
レベルが200を超える人間なんて、この世界に数少ない。その数値をさらに超えて、266にまで達していると言う勇者アルフレッド。もしかして、世界一レベルの高い人間が目の前に居るのかも知れないとギルド長は思った。
実際のところ、アルフレッドよりもレベルの高い人間は存在しているが、ギルド長は知る由もなかった。
ギルド長の驚いている反応を見て、少しだけ機嫌を直したアルフレッドは自信満々に言う。
「まぁ、任せておけ」
突然、目の前に現れた勇者から、予想もしなかった救いの手が差し伸べられたと感じるギルド長だった。
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