第20話 モンスター狩り

 追っ手を振り切って、無事に購入した食料を拠点に持ち帰った。買い出しに行っていた街から戻って、数日が経っていた。


 商人にお願いした物は集めるのに時間が掛かるだろうし、越冬の準備のために再び街へ買い出しに行くまで、しばらく暇になった。さて、次に何をしようか考えていたときの事だった。


 メラルダが拠点の外から帰ってきた。多数のスライム型モンスターを、後ろに引き連れて。なぜか、彼女は暗い表情を浮かべていた。気になって本人に聞いてみる。


「そんなにいっぱい連れてきて、一体どうしたの?」

「人間と戦ってきた」


「なんだって!?」

「っ!?」


 メラルダの報告を聞いた僕は、顔がこわばるほど驚いてしまい大声で叫んでいた。その声にビクッと反応する彼女。


「アラン、ごめんなさい」

「あ。いや、怒っている訳じゃないんだ。大きな声を出して、ごめんね」


 シュンと縮こまって怖がるメランダの頭を優しく撫でて、なんとか落ち着かせようとする。その間に僕も、状況を整理する。彼女は、何をしてしまったのだろうか。


「それで戦ったっていう人間は、その後どうしたの?」

「えっとね」


 詳しく話を聞いてみると、メラルダは拠点の近くで見逃せないほど酷く攻撃されていたというモンスターを助けるために、彼らの戦いに割って入ったという。そして、モンスター側に立って人間と戦ってきたらしい。


 モンスターを攻撃していたという人間、戦っていたということは冒険者だろうか。スライム型のモンスターというのは、モンスターの中では強いという訳ではないし、得られる経験値も少なかった。


 ということは、相手していたのは新人冒険者だろうか。その冒険者と戦ってきた、と彼女は言った。


 もしかして、人間を殺してしまったのではないか。最悪の状況を思い浮かべながら、メランダが何をしたのか恐る恐る問いかける。


「イジメられてたみんなを助けるために、人間を攻撃したの。でも、殺してないよ」

「そうか、よかった」


 ひとまず、安心する。もしも彼女が人間を殺してしまっていたのなら、仲間として今後、何も気にせず一緒に生きていけるのか。僕は不安だった。


 もちろん、ずっと一緒に居たいという思いはあるけれど、いざそうなってしまった時に本心ではどうなるのか、分からないから。


 でも、メラルダは人間を殺さなかったと言ってくれたので安堵する。それから後、どうしたのか続きを聞く。


「それで、人間を攻撃した後、どうした?」

「沢山居たから、強いやつから順番に倒していって、みんなを助けたよ。ちょっと、強く攻撃しちゃったから死なないように回復して、後はみんなと一緒に逃げてきた」


「沢山? どれくらい居たんだ?」

「14人?」


(そんなに冒険者が群れて、モンスターを狩っていた?)


 疑問に思って、メランダには更に詳しく聞き込んでみた。どんな風にモンスターを攻撃していたのか、どうやって戦っていたのか。戦ってみた感想について聞く。


 レベル200を超えているミランダが戦って、強かったと評する相手だから実力のある冒険者で間違いないと思うが。そんな強者が、何故スライム型モンスターを相手していたのだろうか。


 しかも、むごたらしい方法でモンスター達を殺していたようだ。なぜ、冒険者達がモンスターを虐殺していたのか、その理由も分からない。


 彼女が、後ろに大量のモンスター達を連れてきた理由が分かった。

 しかし、とうとう人間に手出ししてしまったのか。今まで静かに暮らすためにも、拠点に居るモンスター達には、極力関わらせないようにしてきたけれども。


「アラン、ちょっといい? 報告したい事があるの」

「どうしたんだい、ラナ」


 メラルダと会話していると、ラナも話し合いに加わってきた。報告したい事とは、一体なんだろうか。


「最近、多くの人間がモンスターの住処に立ち入って荒らし回っているようなの」

「住処に入って荒らし回っている? なぜ、そんな事を」


「どうやら、モンスターを殺し回って素材を集めているようね」


 そして、ラナから大量の被害報告を聞いて僕は目を見開く。今までになかった程の大規模なモンスター狩りが、冒険者たちによって行われているらしい。


 メランダが引き起こしたという出来事も偶然ではなかった。冒険者がモンスターを殺して回っているから、巻き起こったこと。


 冒険者にとって、モンスターを殺す事は一つの仕事である。


 冒険者がモンスターを殺すことについて、否定はしない。僕は殺したりしないが、モンスターを殺してはダメだと、他人に意見を押し付けたりはしない。


 商人が安全に旅ができるようにしたり、人が住んでいる街に危害が及ばないように守るために、モンスターを討伐する事に異議を唱えたりはしない。ただ、必要以上にモンスターを殺そうとするのは許容できなかった。


 だから僕は決めた。虐殺されているというモンスターを守るために、ダンジョンへ避難させようと。


「メラルダ、ラナ。仲間達を集めてきてくれ。この近くで生活しているモンスターをみんな、ダンジョンの中に避難させて助けてあげよう」

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