第29話 ダンジョン案内
「街の近くに、こんなダンジョンが有ったなんて!」
ローズマリーをダンジョンに連れてきて、内部を案内しながら一緒に歩いていた。
あちこちに視線を向けて、口を大きく開き目をまん丸くさせながら可愛らしい素直な子供のようなリアクションを取りながら観察している。アマンダやコニーの2人も、後ろから一緒についてきていた。
拠点のある位置を彼女に知られてしまったので、街の人間やギルドのスタッフには情報が漏れないように外部との接触を禁じる、軟禁状態になっている彼女。ただし、拠点の内部なら自由に動き回って良いと許可を出していた。
自由に動き回っても良いと許可を出している範囲は、ダンジョンも含まれている。彼女が立ち入っても良い場所だけれど迷宮になっているので、勝手に入って迷ったりしないように説明しながらダンジョン内を歩いていく。
「僕らがココを見つけたのは、ちょっと前なんだ。ずーっと放置していたんだよね。最近ようやく中の探索に取り掛かって、今では、モンスター達の住処になってる」
「へぇ。なるほど。こんな大きな場所をモンスターの住処に」
解説しながら歩いていると、ハッとしたような表情を浮かべて僕を見つめてくる。
「もしかして最近、街の周辺にモンスターを見かけなくなったのは……」
「僕らが、ここに連れてきて保護した」
冒険者達がモンスターを虐殺している様子をメラルダが目撃して、見過ごすことが出来ずにダンジョン内に保護すると決めた。そんな話をローズマリーにしてみると、何かを納得した様子で彼女は深く頷いていた。
「なるほど。貴方が冒険者だった頃、モンスターは一匹も倒さないって言って活動をしてたみたいだけれど、本当だったんだ。地上に居るモンスターをダンジョンの中に保護するだなんて、とんでもない事をやってのける人だもん」
「ほとんど、仲間のみんなが働いてくれて僕に苦労はなかったけどね」
「そうなんだ。実は私は、裏でモンスターを狩っているんじゃないかって疑ってた」
「そんな風に思われていたのか、僕は」
「たぶん、他の冒険者達もそう思ってたと思う。モンスターを狩らないで、冒険者をしているだなんて理解不能だもん」
「まぁ、そうだよね」
「でも、世の中にモンスターの事をそんなに好きな人が居るなんて信じられないよ」
「そうかな。見た目、可愛いと思わない?」
近くにいる、ダンジョンの中で生息しているモンスターの一匹を指さして、聞いてみるけれど、首をひねって考え込むローズマリー。
「いや……、んんん……、あんまり考えたことなかった」
「可愛いと思うけどなぁ。あんなモンスター達を倒すなんて、残酷過ぎる」
「そ、そう……」
僕がモンスターを倒さない理由を聞いて、ちょっとだけ引き気味のローズマリー。
「それにしても、モンスターが目の前にいるのに襲ってこないなんて、すごく違和感があるなぁ」
「ここに居るのは大人しいからね。敵意を向けなければ、襲ってくることはないよ」
基本的に人間は襲わないように言い聞かせてあるので、人間であるローズマリーがダンジョンに入ってきても攻撃はしてこない。ただし、攻撃されたのなら反撃してもいい、とは言ってある。
そんな事を話しながら歩いていると、ダンジョンの最深部に到着していた。
ダンジョン内部は迷宮になっていて、かなり広いけれども、ちゃんとしたルートを通ってくると意外と早くココまで来れる。
「アラン、戻っておったか」
「ただいま。ごめんね、ダンジョンのシステムの調査をずっと任せていて」
ダンジョン最深部には、ダンジョンについて調査を進めるドラゴン種のアズーラが働いていた。
「かまわんよ。案外、楽しんでおる」
「それはよかった」
戦って鍛えることが大好きなアズーラに、ダンジョンのことを地道に調べて、解き明かしていくという頭脳労働を任せてしまっていることを謝る。すると、そんな答えが返ってきた。
「ところで、一緒にいるその人間は誰じゃ?」
「この女性は、ローズマリー。冒険者をしている」
「ローズマリーです。よろしくおねがいします」
僕がアズーラに紹介すると、困惑した表情を浮かべながら頭を下げて挨拶をする。目の前にいる子の見た目が、幼女にしか見えないからだろう。
「うむ。ワシは、アズーラ。ドラゴンじゃ!」
「えっ、……え?」
アズーラの言葉を耳にして、ワケが分からないというような表情を浮かべていた。そして、僕とアズーラの顔へ交互に視線を向けるローズマリー。
まだ混乱している彼女を一旦置いておいて、僕はローズマリーという人間が拠点に居る理由をアズーラに説明した。
僕の失敗で、尾行されて拠点の場所が人間である彼女に知られてしまったこと。
囚われの身となることを了承したこと。
強くなりたいと、鍛えてくれとお願いされたこと。
「ちなみに、ここで一番強いのはアズーラ。彼女だよ」
「見た目はこんな姿をしておるが、戦いにはそこそこ自信があるぞ」
腰に手を当て、胸を張りながら”そこそこ”だなんて、とんでもない謙遜を言う。
「……どらごん?」
「うむ!」
口を半開きにして、しばらくそのままの姿で固まるローズマリーと、そんな彼女を興味深げに凝視するアズーラ。
強くなりたいと願うローズマリー。強くなるための意欲に溢れているアズーラ。
この2人は気が合うだろうなと思って会わせてみたけれど、どうなるだろうか。
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