第6話★ 除名処分の裏側
アランが、冒険者ギルドから除名処分されてから数日後。
部屋の中に2人の男が居た。緊張していて汗をかいている男と、落ち着いた様子で静かに椅子に座る男。彼らはテーブルを挟んで、向かい合い席についていた。
「それで、どうなった?」
「はい。アランという冒険者は先日、除名処分にしました」
今まで静かだった男が口を開き、問いかける。
聞かれた男は、流れる汗を拭いながら、震えそうな声を何とか抑えて報告をする。彼はアランに、冒険者ギルドから除名処分だと言い放ったギルド長だった。
向かいに座る男は眉をひそめて、ギルド長の報告を聞いていた。不機嫌そうな彼の様子を見て、ギルド長の神経はビリビリと反応して緊張感が高まる。
「討伐依頼を拒否してモンスターを倒そうとしない彼の存在というのは、他の冒険者達の士気を下げる悪影響でしか無いからね。冒険者ギルドから除名した、というのは正解だと思うよ」
「えぇ! その通りですね」
ギルド長は目の前に座る男に対して細心の注意を払い、機嫌を損ねないよう非常に気を遣って対応していた。その男の名はクエンテイン。その街にある冒険者ギルドで討伐依頼を達成してきた数がナンバーワンという実績を持っていて、レベル150を超えるような腕利きだった。そして、彼の仲間も平均レベル100という非常に高い実力者ばかり。
彼らの存在と働きによって、冒険者ギルドの運営は支えられている。依頼をこなし収益を生み出して、ちょっとばかりギルド長が儲け分を抜き取ってもバレないぐらい稼げている。
だから彼が機嫌を損ねて、仲間みんなを引き連れ他所の街に行ってしまわないように、ギルド長はクエンテインに対して非常に気を遣っていた。
「皆のために、よく彼を除名処分してくれた。お礼をしないといけないな」
「ありがとうございます」
皆のため、という言葉を強調してクエンテインは微笑を浮かべながらお礼を言う。座ったまま頭を下げて返事するギルド長。冒険者ギルドの長であるギルド長よりも、何の役職も持たないが冒険者として実力のあるクエンテインの方がパワーバランスで優位だと、一目瞭然だった。
今回の件も、クエンテインから指示を受けたからギルド長が一介の冒険者であったアランを冒険者ギルドから除名処分したという訳ではなく、なんとなく気に入らないと思っていたクエンテインの考えを察して、ギルド長が勝手に行動して起きた出来事だった。
(目障りだった、アイツを追放してくれた。よく気が利くギルド長だ)
それが、クエンテインの本心だった。思ったとおり、ギルド長が動いてくれたなと彼は満足げだ。最近になって、討伐依頼を達成した数がナンバーワンである自分よりモンスターを一匹も倒さないで注目を浴びている、彼の存在が気に入らなかったから排除したいと考えていた。
クエンテインが気に入らないと思う理由がもう一つ、アランがとある女性冒険者の気を引いていた事が不満だったから。それが何よりも気に入らなかった。
ギルドを追放されて、冒険者ではなくなったと聞いてクエンテインはスッキリした気分になっていた。
「それでアランという冒険者は、その後どうなった?」
「実は、その後行方知れずでして。活動拠点として借りていた宿にも帰らず、街から出ていったと聞いています」
ギルド長は恐る恐る、部下に調べさせた情報についてをクエンテインに包み隠さず報告する。街から出ていった後の行方が分からなくなっていた事もしっかりと。
「そうか(色々と用意していたが、無駄になったか。しかし、自ら街を出ていったのなら好都合。これでようやく……)」
実は、前々からアランに関する悪評を広めたり、アランが除名処分を受けた時に、辱めを与えるためにギルド長には知らせず、冒険者ギルドの建物に仲間を何人か待機させておいた。そして、建物の中から奴が追い出された時に野次るよう指示を出しておいた。
そんな風に、他にもアランに対して数々の精神的ダメージを与えるような、悪辣な計画を用意していたクエンテイン。
どうやらギルド長の話によれば、街の外に出ていってしまったらしいと聞いて計画が無駄になったと思った。だが手を下さずに居なくなってくれたことは都合がいいなと考え直す。なるべく、今回の件を仕組んだ犯人だという事がバレないように余計なことをしなくて済むから。
2人が密談しているこの部屋についても、ギルド長の許可が無いと普段は入れないような特別な部屋なので、ここでの話し合いが外に漏れるような恐れもない。
「優先度の高い任務を紹介してくれ、僕が動くよ」
「クエンテイン様の働きがあれば、冒険者ギルドも安泰ですね。助かります!」
目障りだった1人の冒険者が追放された、という思い描いた通りの状況になったと喜ぶクエンテイン。
冒険者を1人処分しただけで、トップである冒険者のやる気が高まった。ギルドの利益アップに繋がるぞ、と喜ぶギルド長。
この時、彼らはまだアランをギルドから除名するという行為が及ぼす影響について正しく理解していなかった。
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