第7話 秘密拠点生活

「満足満足」

「はぁ……はぁ……ふぅ」


 満ち足りた様子のアズーラが立っている横で、僕は息も絶え絶えになって地面の上に倒れていた。


「お主のお陰で、久しぶりにレベルアップできたぞ。感謝じゃ」

「僕も、ようやく大台に乗ったよ」


「おぉ。おめでとう!」

「ありがとう、アズーラ」


 ようやくというべきか、とうとうと言うべきか、レベル1000に到達していた。アズーラや他のモンスター仲間との訓練を経て、とんでもないレベルにまで行き着いてしまった。


 ただ、僕の目の前に立っているアズーラのレベルは8000を超えているらしい。流石のドラゴンだった。相手とレベルの差が大きい場合には、スキルでレベルを確認しようとしても正確な数字を見ることは出来ない。だから、その数値は彼女の口から聞いたレベルだったが嘘では無いだろうと思う。


 所属していた冒険者ギルドで一番強いと言われていた人でも、レベル150ぐらいだった。その人と比べてみると、僕でもかなり高いレベルだとは思う。


 子供のレベルが1~20ぐらい。

 大人の平均が15~30辺り。

 一般の冒険者ならば、レベル25~60付近。

 一流と呼ばれる冒険者となると、50~100ぐらい。

 レベル100を超えたら、凄腕と噂になる。

 伝説に残っているような人ならば、レベル300以上もあったと伝えられていた。もしかしたら、それ以上のレベルだった可能性もある。


 それでも、人間がレベル1000を超えたという話は聞いたことがなかった。

 もしかすると、僕が人類最強なのかもしれない。ただ、身近にとんでもないレベルのドラゴンが居るので実感がわかないし、誇ることも出来ない。しかもアズーラは、まだまだ強くなろうと今も努力して成長を続けているから、この先もずっとレベルやステータスといった数値でアズーラに追いついたり、勝つことは出来ないと思う。


 アズーラの話によれば、彼女よりも更に上をいくレベル10000を超えるような存在がいるらしいから、強さには際限がない。


 ただし、レベルやステータスといった数値だけが勝敗を決める訳でもないので僕は今も彼女と一緒に、強くなることを目指して戦闘訓練を続けていた。


 毎回アズーラは余裕を見せていて、僕は本気で立ち向かって死なないように命懸けだったが慣れたものだ。


「ちょっと疲れたから、ワシは寝る」

「夕飯は食べる?」


「うむ、食べる」

「分かった用意しておくよ」


 夕飯が完成したら起こしてくれと言って、アズーラは湖近くの小屋とは別の場所にある寝床の方に幼女姿のまま飛んでいってしまった。料理が出来上がったら、向こうまで呼びに行かないといけないのか。


 しばらく休憩をしてから、僕は小屋に戻って調理を始める。とは言っても、今日は街にある宿の方に泊まるつもりで居たのを急に帰ってきたので、食材の準備をしていなかった。保存してある食材を取り出してきて、食べられるように調理しないと。


 しばらく街には戻らず、森の中で生活を続けるつもりだが食材の問題をどうしようかな。買い出しに行かないと。でも、あんなに恥ずかしい思いをしたので当分の間は街に戻りたくなかった。


「アーラーンー!」

「ん?」


 黙々と調理を進めていると、小屋の外から女の子の声が聞こえてきた。聞き覚えのある声で、僕の名前を呼んでいる。


「アラン!」

「うわっ、と」


 調理の手を止めて、小屋の扉の方へと目を向けていると、バンと扉が開いて緑髪の美少女が立っていた。大きく手を振ってズカズカと小屋の中に入ってきて、僕の体に飛び掛かってきた。僕と同じぐらい背の高い彼女に抱きつかれて、倒れそうになったところを踏ん張って耐える。


「戻ってきてたんだね、びっくりした!」

「やぁ、メラルダ。今日も元気だね」


 僕の体に纏わりついてくるこの娘は、子供の頃に出会ったスライム型モンスター。あのメラルダだった。村に住む人達からは最弱と言われていたモンスターだったが、今ではレベル223にまで成長していた。


 レベルがどんどん上って色々と強くなって、ある日突然、美少女に変身していた。どうやら、人化というスキルを勝手に覚えてきて、人の姿に変化できるようになったらしい。


 そして今は、僕の目の前にいる美少女の姿となっている。


「今回は、いつまで居るの? すぐ街に帰る?」

「いや、しばらくはこっちで過ごそうと思ってる」


「ホントに? やったぁ!」


 普通に会話をして意思疎通も出来るし、知能がある。喜ぶような感情の表情も見せてくれる。どう見ても人間なのだが、ずっとその姿で生活しているわけではなくて、時々モンスターの姿に戻ったりもする。


 アズーラやメラルダだけでなく他にも、この秘密拠点に居る沢山のモンスター仲間が人間の姿に変化をする、人化スキルというモノを取得していたりする。


 モンスターが人間の姿に変化して、変化した人間がモンスターの姿に戻ったりするのを見て、ますます僕はモンスターを殺すことは出来ないな、と思うようになった。


「お腹すいた」

「メラルダも一緒に、夕飯を食べるかい?」


「たべるー!」


 調理の様子を見てお腹を空かせたらしいメラルダに、夕食を一緒にどうかと誘う。即答で誘いを受けるメラルダの分も、追加で用意しなければ。


「すぐに完成するから、アズーラを呼んできてくれ」

「アズーラ? 分かった呼んでくる!」


「いつもの寝床で寝ているみたいだから、注意して起こしてきてくれ」

「うん。わかった!」


 夕飯の準備ができたとアズーラに伝えに行ってくれと、手の空いているメラルダに頼む。彼女はすぐに了承して、小屋の外に走り出ていった。


 モンスター同士の仲は良かったり、悪かったりする。アズーラとメラルダは仲良しだったので、用事を頼むことが出来た。


 2人が戻ってくるまでに、夕飯の準備を完了させておかねば。急いで調理を進めて料理の完成を急いだ。

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