第8話 モンスター達との生活
急に冒険者を辞めさせられて拠点に戻ってきたのはいいけれど、やることがない。仕事がなくなって、定年退職したサラリーマンのような気分を味わっていた。
これでは駄目だなと思って、なにか仕事を探すことにする。
「ならば、ワシの訓練相手になってくれ」
強くなるための意欲に溢れたアズーラは、出会うたびに訓練しないかと誘ってくるのだが、命懸けで取り組まないといけないので毎日は疲れる。
アズーラは、ちゃんと手加減してくれので死ぬことはないし、強者とトレーニングをすると経験値を沢山得られるようなので、サクサクとレベルアップが出来るというメリットが有るけれども毎日はキツイ。
「アラン、お散歩に行こう?」
メラルダは森の中をぶらぶら歩く事が大好きなようで、一緒に行こうと誘われる。僕が子供だった頃、彼女がまだ人化は出来ずスライム姿で出会った時、一緒になって野山を駆け回って好きになったようだ。
時々ならいいけれども、これも毎日のように繰り返すのはちょっと疲れる。
「アラン様、役に立ちそうな物を持ってきました」
「ありがとう、コニー」
目の前に、犬耳と尻尾が生えている美女が直立不動で待機していた。彼女も見ての通りの人間ではなく、人化したモンスターだった。しかし、アズーラやメラルダとは違って、モンスターだった頃からの要素も残しつつ人の姿に変身している。犬耳とか尻尾を見たらハッキリと分かってしまう。
そんな彼女、元々はもっとモンスターに近いような姿形をしていて、顔は完全に犬のように見える、全身に体毛が生えたような外見をしていた。いわゆる、コボルトと呼ばれているような種類なのかな。
出会った瞬間、なぜかすぐに懐かれて一緒に暮らすようになった。僕のことを主人だと認識しているようで、持ち前の優れた嗅覚によって貴重な植物や鉱石などを森の中から探し出してきて、僕のもとに持ってきてくれる。
これから彼女と一緒に、素材集めをするというのは良さそうかも。
そして今回も沢山の素材を持ってきてくれたようなので、彼女の頭を撫でて褒めてあげる。
「クゥーン……」
見た目と同じ様に、思考もモンスターの頃に近いようで本能に忠実なコニー。こうやって頭を撫でてあげると、犬のように尻尾を振って喜んでいた。愛くるしい彼女の姿を見ていると、もっと甘えさせたり、ついつい溺愛してしまいそうになる。
ちなみに彼女のレベルは355。メラルダよりレベルは高いけれど、従順性が高くてよくメラルダにお願いされて言うことを聞いている様子を見かける。コニー本人も嫌がる様子はなく、2人は仲良くしているようだった。
「こんにちは、帰ってきてたのねアラン」
「あ、うん。久しぶり、ラナ」
長い蛇のような下半身を僕の身体にぐるぐる巻きつけてきて、密着してくる彼女。ラナという名前の、ラミアと呼ばれているようなモンスターだ。彼女は人化しないでそのままの姿だった。上半身が美しい人間で、下半身が蛇の姿を持つモンスター。
こんな姿をしていて言葉もちゃんと交わせるのに、冒険者達からは討伐対象として狙われたりするので、ひっそりと人に会わないように隠れ住んでいた。そんな時に僕と出会って、僕が危害を加えない人間だと知って一緒に暮らすようになった。
この秘密の拠点では基本的に単独で行動していることが多いが、知能が高く、他のモンスター仲間の様子を見守ったり、時には仲裁に入ったりしてくれて、お姉さんのような役割を務めていた。
「何をしているの?」
「実は冒険者ギルドをクビになって、しばらくこっちで生活しようかなって思って」
「へー、そうなの。いいじゃない」
「ただ、やる事が無くて暇してた」
「ふーん、そうなの」
会話をしている間も、彼女の蛇の下半身が巻き付いていて密着している状態。彼女は顎に手を当て、何か考えてくれているようだ。
「何かある?」
「それなら、あの迷宮の探索に行ったらどう?」
「あー、そういえば。探索したいとずっと思ってたけど、放置していた場所があったっけ」
ラナに言われて思い出した。この拠点の近くに、地下へと続いている迷宮があるという事を。
アズーラによれば、彼女とは別のドラゴンが作ったという住処らしい。ただの洞穴ではなく、迷宮とかダンジョンという風に呼ばれているような場所。
冒険者ギルドで、このダンジョンの話について聞いたことがなかったので未発見の状態なのか。誰も足を踏み入れる事なく放置されている。僕も見つけたまま、探索はせずにほったらかしにしていた。ダンジョンの探索なんて、すこく時間が掛かりそうだったから。
でも今なら暇だし、中の探索をしてみるのもいいかも知れない。中を調べてみて、モンスター達の住処にしたい。
戦いたいと言っていたアズーラの要望に応えて、散歩したいと言っていたメラルダの願いも叶えられそうだし、コニーと一緒に素材探しも出来そうだ。
「ラナも一緒に行く?」
「うん、行きたい」
ということで皆を集めて、未発見で未探索だったダンジョン探索に行ってみることにした。
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